2023年2月4日公開、都内1館での上映からスタートした映画『茶飲友達』は、大きな反響を呼び、公開から3カ月を経過した現在も全国で上映館を広げている。ここでは、本作を見た整理収納アドバイザー5名と共にオンラインで開催した感想シェア会の様子をレポートする。(ネタバレを大いに含みます)
-- まずはご覧になった皆さまから、率直な感想、印象に残っているシーンなどを教えてください。
三ツ井 日比谷のシャンテシネでの舞台挨拶付き上映回を観に行きました。今、改めて印象に残っているのは、若葉さん※1(磯西真喜さん)がティー・フレンドとしてお相手した方※2(池浪玄八さん)がホテルであの場面を迎える時に彼女を見る時の目、あのなんとも言えない無言の演技がすごくていろいろなものを感じました。あのシーンが強烈でした。
※1 役名では国枝松子、若葉はティー・ガールズとしての源氏名
※2 役名は杉浦健一
江頭 私は今、ヘルパーとして介護の仕事をしているので、高齢者の方々の孤独感を感じる機会が多いです。そのこともあって、渡辺哲さんが演じるラストシーンの電話をかけた後のあのせつない表情が忘れられなくて……とても複雑な思いでした。高齢者の今の現実をすごく訴えている気がして最後は涙が止まらなくなってしまい、自分でもびっくりするほどでした。それくらい印象に残る作品でした。
大法 さまざまな、まさに今の社会問題が詰まっている作品なので、どこから消化していけばいいのかなという感じでした。それを抱きつつ、もっとも強く感じたのは出演していた方たちが凄すぎる! ということ。全員が全員、テレビや舞台で有名な方たちというわけではないけれど、すごい人たちを持ってきたなというのが、まずこの作品を観て感じた驚きでした。
私は若葉さんたちに近い年齢です。たまたま私は家族がいて、今は一人ではないけれど、全然そっちに行っちゃってたかもしれないなというのがあって……。
あとは主役のマナを演じた岡本玲さんがあんなに演技がうまいんだ!! ということも知れて衝撃でした。
今村 岡本玲さんはじめ、出演者の方が登壇された回を私も観させていただいたんですが、松子さん(若葉さん)を演じていた磯西さんが本当にお綺麗で上品な方だったのが印象的でした。俳優さんってやっぱりすごいなぁ、演技で見せる顔と普段の顔とこんなに違うんだなと驚きました。
この映画は衝撃的だったり、ちょっと目をそむけたくなるような事実も出てくるので見る前は少し怖いというか、勇気がいるなと思っていたんですけど、観て良かったです。
これが現実なんだというのを見せてくれているんだなと、監督や作り手の思いがこの映画に込められていることを感じました。
映画の中ではファミリーという言葉は都合のいい言葉として使われていますけど、私も年齢的にティー・ガールズ側に近いことを踏まえると、温かいはずのこの言葉がツライなぁとも感じましたね。
みのわ 映画は2回観て、公開記念の写真展にも行かせていただきました。写真展では出演されている俳優さん、匠役の中山求一郎さんにもお会いできました。映画の中では最後は逃げる卑怯なヤツですけど、実際の中山さんはすごくさわやか青年でした(笑)。
岡本玲さんの演技は、皆さんがおっしゃる通り本当にすばらしくて覚悟のようなものを感じました。
なかでも印象的だったのは、匠とマナが最初に松子さんの家に行った時。自殺しかけた松子さんのことを匠くんはおにぎりなんかを食べながら「なんでこんなことするんだろう」と言ったら、マナちゃんが「匠にはわからないよ」って言うんです。
そして最後の方では松子さんがマナちゃんに「マナちゃんにはわからないわよ」と言うんですよね。2回目に観た時に、あの台詞は伏線だったのかと思って。
皆、家族がいても、大事な人がいても、本当の自分のことなんて他人はわからない、そういう孤独を感じました。
もう一つ印象的だったのは、千佳(浅沼美羽)が、最後にダッシュするあの強さ。生きていかなきゃという強さがあの走り方に出ていてすばらしいなと思いました。
栗原 この作品は群像劇ですが、外山監督は群像劇を映画として撮るのは初めてだったそうです。登場人物が少ない作品は必然的に主役に感情移入しながら観るけれど、群像劇の場合は観客も俯瞰してみることが出来る。
こうして皆さんの感想を聞くだけでもいろいろな登場人物が気になったようで、まさしく群像劇ならではの感想シェアですね。
--ここで皆さんと、ツイッターにアップされていた『茶飲友達』のメイキング映像を一緒に鑑賞♪
そしてここからは、ゲストとして外山監督にもご参加いただき、直接感想や質問にお答えいただきました!--
外山 外山です。この度はご鑑賞ありがとうございます。
江頭 私は現在介護ヘルパーをしているのでこの作品に興味を持ち、拝見しました。ラストシーンのシチュエーションはどういうお気持ちで撮られていたのかをお聞きしたいです。
外山 ラストシーンは問題提起で終わりたいという思いがありました。それは自分がこの事件に初めて触れたときに、摘発してどうなるんだろう、この人たちどこに行くんだろう、何が正義なんだろうと10年前に心が揺れたものを再現しようと思ったからです。もちろん犯罪行為を許容することはありませんが「皆さんはこの渡辺哲さん演じる茂雄の後ろ姿を見て何を考えますか?」という問いで終わろうと思い、撮りました。
江頭 私は今も答えが出ないのですけど、問いかけられて、考えていかなきゃいけないことなんだなと感じました。
外山 少しだけ裏話をすると、あの後、哲さんのお芝居は庭に下りて花に水を遣りだす予定だったんですけど、そうすると少しだけ希望を感じるというか、未来志向になってしまうのでカットしました。
大法 余韻が凄すぎてどこから考えていいのか整理がついていないです。整理収納アドバイザーなのに(笑)。
出演者の皆さんはワークショップオーディションで選ばれたと書いてありましたが、このキャスティングの凄さ、その裏側について教えていただきたいです。
外山 全キャストをスターで固めたような映画ではありません。でも商業映画的の中心に立つ人と同じようなポテンシャルはあるし、例えばまだキャリアが少ない人も、演出家が隣にいることで伸びていってくれるということがありました。最初は667人、そこから100人、そして33人を選びましたが、今回は役者の個性を思いっきり借りる形で作っていったので、そこが映画にリアリティというか説得力を持たせたのではないかなと思っています。
大法 それから映画の中の光がすごく良かったです。例えば施設にマナたちが行った時のロビーに差し込む光とか、狭い部屋でカップルが抱き合っている時の光とか、それが映画そのものの陰影みたいになっていて良かったなと思いました。
外山 ありがとうございます。優秀なスタッフが集まってくれたおかげですね。あと、これは自主映画を撮っていた時からなんですが、昔から割りとプロっぽく撮るんですよ(笑)。それがデメリットになっていた時代もあったんですね。「プロっぽい映像っていうのはプロになれば撮れるから、アマチュアの時はもう少し荒々しくても、伸びやかなことをやれ」と言われていた時代もあったんです。でも今回のように限られた予算しかない場合は自分の持ち味がプラスになったなと思います。
ちなみに夕日がきれいだった施設のシーンは、ライティングではなく自然光なんです。陽が落ちるのとの闘いでした。
三ツ井 私はティー・ガールズたちがお茶のセットを持って行くという設定がとても面白いなと思いました。「これ、ビジネス的にすごくうまく出来てるな」なんて真剣に観ちゃったりもしたんです(笑)。まぁ、犯罪なんですが、ビジネス的視点で見ると喫茶店で繰り広げる会話とか、段々と新人が育っていって岡本さん演じるマナが後ろでよしよしと頷いているシーンとか、すごくリアルでコメディ要素もふんだんにあって面白かったです。
ちなみに茶柱をあえて立たせるシーンがあったんですが、あれは映画だけでやっていることなのか、実際にああいう茶柱があるのかということが気になってしまって……。あるなら欲しいな、なんて。
外山 茶柱が立つシーン、あそこは本当はもう少し笑って欲しいんですけどね。ネットで検索したら「絶対に立つ茎」っていうのがあったので、それで最初にお茶を提供するときにわざと茶柱を立たせてお渡しするというルールにしたらどうだということにして、我々もその茎を撮影用に手に入れました。
みのわ 1回では消化しきれなかったので2回目を観てきました。伺いたかったのは、挿入曲がエリック・サティの「Je te veux~あなたが欲しい~」ですよね。少し軽快なテンポでとても合っているなぁと感じました。気になってググってみたら、これって歌詞があるんですね。なかなか生々しい歌詞でしたが、監督はそれも意識されてこの曲を採用したのでしょうか。
外山 歌詞は最初は意識してなかったですね。私は今作も担当いただいている音楽家の朝岡さやかさんと10年以上ご一緒しているんですが、今回はどういったコンセプトで行こうかと話した時に、朝岡さんから全体を通してサティの世界観がいいんじゃないかとおっしゃっていただいたんです。オープニングは「あなたが欲しい」がちょうどいい、合うよと教えてもらって……。そういう意味ではこの曲を使うことは(撮影)現場に入る前から決めてましたね。
マナが橋の上で鼻歌を歌うシーンでも「あなたが欲しい」を歌ってます。普通、映画音楽というのは、映像を見て音楽を付けていくんですけど、朝岡さんとは企画書の段階から話し合っています。
みのわ お話に出た橋のシーンについても教えてください。マナちゃんがティー・フレンドの会員1000人を達成してお祝いした夜、鼻歌まじりで橋を渡っていた時、ふとした瞬間に後ろを振り返って孤独を噛みしめているような表情をするんですけど、なぜ振り向いたのかなって思って……。
外山 どう思いますか?
みのわ 振り向いたら強烈に独りを感じて、誰もいないと感じたのかな。目標も達成して幸せな夜のはずなのに、一緒にいる人がいないって……。
外山 マナはお母さんと違う生き方を選び、いうことで自分の生き方を正当化しながら歩んできた人です。でも実際に目標を達成して(理想の)お家が完成したように見えたけれども、何一つ満たされてはいないことに気づき、虚しさがこみ上げてくる。そんな風に脚本には書いていました。今まで人生を振り返ることなく、自分の正当性を主張するために一生懸命会員数を集めていたけれど、それは正しかったのかと初めて思いを馳せる。振り返って一瞬苦い顔をするけれど、だからといって戻ることもできず、彼女はやっぱり自分を正当化しながら生きていくしかないというシーンにしたかったんです。
みのわ あの時の表情すごく良かったです。
外山 あのシーンは撮り直しもなく、文句のつけようがなかったです。
栗原 先ほどから皆さん、岡本玲さんってこんなすごい演技をする俳優さんだったんだと話していました。それはこの場に限らず、今作をご覧になった多くの方が感じられて、発信されていますよね。
今村 観終わった後に感じたのは、こういうことって現実に起こっていたんだ、見たくなかった、知りたくなかったような気もしましたが、そうしたことも含めて考えるきっかけをいただきました。現実って結構残酷だったり、苦しかったりしますから、映画を観ながら亡くなった祖母のこと、離れた場所で一人で暮らしている母のことも考えました。
監督が映画を通して伝えたかったこと、改めてうかがいたいです。
外山 現実にこういう事件があったということを知らしめたいわけではなく、今の世の中を炙り出していくというか、33人の群像劇で今の日本、現代を浮き彫りにしようというテーマがありました。その先に高齢者の孤独や性欲、そして若者の閉塞感があって、それはシステムとか法整備とかだけでは救えない部分だと思うんです。ただシニアの問題っていうと記号的に一括りにされてしまうので、そこに対していろいろな生き方をする人がいるんだよということは見せたいなと思いました。彼らが日々思い悩んでいることや、等身大の生活を描いたら社会問題になっていたという気がします。「誰だって、ひとりは寂しい」というの社会全体の課題でもありますし、私たちの普遍の感情だと思います。
今村 次回作も期待しています!
栗原 今日は監督を交え、6人がオンラインで感想をシェアさせていただきましたが、Twitterや映画レビューサイトなどでも連日さまざまな感想が発信されていますよね。
外山 本当にありがたいですね。語りたくなる作品なのかもなと思っています。
この作品には自分なりに希望も散りばめています。例えば、作品を撮りながらマナさんには正しく挫折をさせてあげたくなったんです。彼女は頭もいいし、上手に生きていける術も持っていてなんとなくうまくいっていたんだろうとは思うけど、ここで正しく挫折をすることで彼女自身にも次があるだろうし、茂雄もあのラストがあるからこそ、翌日誰かと出会うかもしれないですし。ですから、語りたくなる作品になれているのだとしたらとても嬉しいなと思っています。
-- まだまだ公開は全国で続いています。(4/20現在、全国70館での上映を達成)
まだご覧になっていない方も、観て、感じて、そして誰かと語っていただきたいですね。シニアのみならず、いずれシニアを迎える世代、そして若者たちにもご覧いただきたい映画です。
本日はご参加ありがとうございました。