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隣のスタイリストさんのグッジョブ

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

私の隣では、若い女性がヘアスタイリングをしてもらっていた。20代くらいだろうか。
隣のスタイリストさんが彼女に聞いた。
「今日、舞台って言ってたっけ?」

他人の話を盗み聞くのはマナー違反だ。
けれど、「え!? 舞台って言った?」私は心の中でつぶやいて、耳をダンボにしてしまう。目の前に開いた雑誌には、以前、取材させていただいたことがある舞台女優さんの
素敵な写真とインタビューが載っている。

そのまま舞台の話にならないかな?とダンボな右耳は大きくなり続ける。
隣のスタイリストさんが、今日はどこまで行くのか場所を聞いた。
駅名を答える彼女。
なるほど、……ということはあそこの劇場ね。

少しすると主演の方の名前も出てきて、うんうん、やっぱりそうか、あの作品ね、
と勝手に答え合わせが出来た。

危なく、舞台というキーワードで話しかけそうになるが、
さすがに耳はダンボにしても、口はマスクだ。
しかもその彼女は、舞台は一人で観に行くとその後のスタイリストさんとの会話で答えていた。

こちらはドライヤーをしてもらっていたので、実を言えば、話は切れ切れにしか聞こえていない。
でも、彼女が舞台を一人で観に行く理由は、
幕間で作品(か主演の人の素敵さ)に浸りたいのに、誰かと一緒だと会話しなくちゃいけないから、だった。

なるほど、そうか、それも素敵だなと思う。
きっと彼女は気づかいの人で、誰かと一緒だとその人のテンションに合わせたりしなきゃと感じるのだろう。
深く深く作品に思いを馳せたいのに、単純な「〇〇カッコいいよね」とか、そういうのに相槌を本当は打ちたいわけじゃないのかもしれない。
一人で幕間は、パンフレットをしっかり読み込みたいタイプなのかもしれない。

当たり前だが、口にマスクをしていて、気持ち的にはそのマスクに大きく×をしているつもりだったから、まさか彼女に話しかけたりはしなかった。
でも、主演の方のファンだからという理由であっても、一人で観劇を楽しみたいという若い女性の存在を感じられて、なんだかとても嬉しかった。

私より少し先にスタイリングを終えた彼女の髪型をチラリと見たら、
肩よりちょっと下の髪がヘアアイロンで外ハネに可愛くアレンジされていた。
「お出かけっぽい感じで可愛く仕上げたよ」というようなニュアンスで鏡を開いてBACKも見せた隣のスタイリストさんに、
心の中でgoodボタンを押しまくった。

彼女は一人である駅のある劇場のある舞台を観に行った。
外ハネにしたおしゃれ髪と、楽しみな気持ちをバッグに詰めて。