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今度バスに乗る私へ

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

駅までは自転車または徒歩またはバスを利用する。
最近は自転車で出かけることが圧倒的に多い。
バスは道路の混雑状況で思いのほか時間がかかることがあるので、
通りに出てみて、「やめておこう」とそこからテクテク歩くこともあるのだが、
こう連日暑いとそのリスクは負いたくない。
だから自転車で出かけることが増えたのだ。

久しぶりにバスを利用した日のこと。
車内はさほど混んでおらず、私は空いている座席にちょっと多めだったので荷物を置き、そのままつり革につかまって立ったまま乗車していた。
バスの場合、道が空いていれば5~10分程度で駅に到着するからだ。

バス内の優先席は埋まっていた。
あと1停留所の通過を残すのみとなった時、優先席に座っていた白髪ショートヘアのおばさま、おばあさま? が立ち上がった。
次の停留所で降りるのかなと思っていた。

少し前からバス車内では、停車するまで立ち上がらないようアナウンスする機会が増えた。
事故が多いのだろう。
油断してバスで転んで骨折なんてことになったら、乗客もバス会社も不幸だ。

次の瞬間、立ち上がったショートヘアのおばあさまは、バスが動いているのにもかかわらず、靴を脱いで座席にのぼった。
しばらくそれが何なのかわからなくて、目線だけは外さずに、ぐるぐると頭の中で考えた。

どうした、どうしたんだ、いったい。
奇行なのか?
ぐるぐるが解けずに目線だけは外さずにいた。立っていたので、私が一番近くでフォローできる位置にいた。
運転手さんは気づいていただろうか。幸いにも運転は荒っぽくはなかったので、大きく揺れることはなかった。

なぜか体が動かなかった。私と同じように車内の人たちがその人の動向を注視している気配は感じた。
それにしたって危ない、危ないよ。

その人はシートの上に立って、頭上の冷気が出る吹き出し口の栓を閉めたようだった。
椅子の上に立ってもそれはギリギリ手が届く感じで、背伸びをしている。
危ない、危ないよ。
寒かったのだろう。それはわかる。直風を長く浴びるのは体に応えるものだ。

でも、納得がいかなかった。
なぜそんなリスクを冒すのか。
あと1停留所だったというのに。
そもそもバスのシートに立つのはルール違反だろう。

ここからは私の推測、というか思い込み。
その人は、スニーカーにジャージー姿だった(と思う)。
同じ年代の人より体力に自信があるのだろう。
なにか運動をしているのかもしれない。
日頃から健康には気を使っていて、エアコンなんかを嫌うタイプなのだ。
前日よりだいぶ涼しかったこともあり、長袖を着ていたからそもそも寒いのが苦手なのかもしれない。

でも、これはダメだ。本当に危険だ。
運転手が気づいて車内アナウンスをして静止しても良かったかもしれない。

そして一番ダメなのは私だ。
その人の近くにいた私が、「どうしました?」と声をかけ、
手を伸ばして代わりに吹き出し口の栓を閉めれば良かったのだ。
なぜそれが出来なかったのか、目を逸らさず、転びそうになったら支えるつもりだったが
それだって絶対フォローできたかどうかの確証はないし、リスキーだ。

いつものお節介が出なかった理由が自分で解明できないが、
とにかく私の判断は正しくなかった。

結果から言うと、その人は無事に目的を達成し、靴をはき、再び腰をかけ、まもなく終点の駅に着いた。

全国の体力自慢で冷房嫌いの優先席に座っている方へ。(優先席以外の人も)
こういう時は、周りを見渡して、自分より背が高い、若い人に声をかけて頼んでください。

そして、今度バスに乗る私へ。
こういうことは絶対にさせないでください。