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重い思いの重いパンフレット

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

2020年4月、世界中がとにかく不穏だった頃、パンフレット作成に参加させていただいていたミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』の公演中止が決定した。
担当ページは校正を終え、あとは入稿するだけ……のところまで進んでいた。
それがなくなった。

すでに、全国でさまざまな公演が一部中止になっていたりした。
でもその頃はまだ、自分が観劇する予定の回はなんとか上演された、不運にも中止だったみたいな波のある感じで
「いったいこの状況はいつまで続くんですかね、嫌になっちゃいますね」なんて言っていたのだ。初めは。

『チェーザレ 破壊の創造者』の舞台はイタリア。ローマで生まれたチェーザレは、16歳、
ピサの大学の学生だ。
衣裳には、メイド・イン・イタリアの革が使われたりするとも聞いていたので、
日々のニュースでイタリアの感染者数・死者数がもの凄い数になっていることも気になったりしていた日々だった。

全公演中止。一度も幕が開くことはなく。
それは、その後の演劇界で当たり前に長く続く事象だったが、当時の衝撃は結構なものだった。
悲しかった。
パンフレットに携わっただけでこんなに悲しいのだから、演者・スタッフ・劇場の皆さんはどれほどの気持ちだったかと思う。
悲しさを分かち合うこともなく、例の宣言が出て、ステイホームな日々がやってきた。

フリーで働く私にとっては、ステイホームはさほどしんどくないことだった。
「言ってみれば毎日がステイホームですから」とおどけていたようなところもある。
本当にしんどくなかったのかどうか、今になると疑問だらけだ。
でも開かなくなった幕がようやくなんとか開くようになっても
劇場はなかなか元に戻らない。今もまだ。それは本当にしんどい。

2023年1月。ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』は幕を開けた。
出演者は、一部変更もあるが、主演のチェーザレ役の中川晃教さんをはじめ、豪華なメンバー揃いだ。
物語はこの3年のうちに原作漫画が完結したこともあり、一部修正もあったという。
ドキドキしながら劇場に向かった。

音楽が鳴り、登場人物たちが動き出すと、2020年に原作を読んで知ったことや、取材をして聞いたことが逆再生のようによみがえり、
「すっかり忘れていた」と思っていたものが急激に甦って、気持ちがチェーザレたちのいる時代に急行した。

3年ぶりに手にしたパンフレットは実にずっしりと重かった。
入稿直前に、印刷されることなくなかったことになる体験は初めてで
印刷されなかったパンフレットが、時を経て形になったことも初めてだ。

こういう初めては、さすがにわくわくするとは言い難いけれど、
やはり形になるということは尊いなぁといつまでもパンフレットを手にしながら
その重さを感じている。

 

 

 

ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』
2023年1月7日(土)~2月5日(日)
明治座
出演/中川晃教、橘ケンチ(EXILE)、山崎大輝、風間由次郎、近藤頌利、木戸邑弥、赤澤遼太郎、鍵本輝、本田礼王、健人、藤岡正明、今拓哉、丘山晴己、横山だいすけ、岡幸二郎、別所哲也 ほか