日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
何十年ぶり過ぎてほぼ初、みたいな状況で広島に行ってきたのは昨秋のこと。
ナイトクルーズまでの時間に間に合うようになんとか夕飯が食べれる機会を求めたのが前回。
ホテルをチェックアウトして、荷物を預けにJR宮島口駅に向かう。
昨日は度々利用したホテル⇔駅間の送迎バスだったが、その日はちょうどバスが行ってしまったタイミング。
荷物もあるけど、歩いちゃおう! ということにした。旅先ってこういう力が働く。
時間がもったいないという思いもあったし、気持ちが前のめりになっていた証拠だ。
フェリーに乗り込み、宮島にあっという間に到着すると、さっそく厳島神社を参拝した。
鳥居を撮り尽くした時の様子はコチラ
さて、嚴島神社の後はどこに行こう?
前夜の「嚴島神社ナイトクルーズ」のガイドさんが、紅葉情報を教えてくれていた。
紅葉谷公園はまだ紅葉しておらず、大聖院の方は少し色づいていましたよと。
そのアドバイスに従い、願い事をひとつだけ叶えてくれるという一願大師がまつられているというその大聖院に向かった。
なーんとなく雨が降りだしそうな曇り空だったが、大丈夫、まだ保っている。
地図を見ながらのんびり歩く。そしてまもなく 大聖院というところで、ほんのりと美しく色づき始めている紅葉に出くわした。
滝橋という石橋を渡ると目の前に現れたのは大本山 大聖院の仁王門。
大聖院は、宮島にある寺院で最も歴史が深く、日本三大厄除け開運大師の一つだそう。
ちなみに日本三大厄除け開運大師は、埼玉県熊谷市の龍泉寺、兵庫県西宮市の東光寺、そしてこの大聖院。(いろいろな括りがあるので案外知らなかったりもする)
「弘法大師が祀られているんですって……」などと調べていたら、お坊様たちが現れた。
立派なお腹がなんかありがたやー。
でも、門をくぐり階段を上がって、御成門をくぐると少し様子が違った。
QRコードがそこここにあり、「登録すれば護摩木を2本差し上げます、どうぞ!」「今なら間に合いますよ」と、かなり前のめりにアピールされたのだ。
厳かさとは逆を行く、前のめり感に圧倒され、私とCさんは「……うん、まあ~それはいいかなぁ~」と一瞬後ずさり、先に進んだ。
勅願堂は、家内安全・心願成就。ここで神妙に参って、その他いくつもあるお堂の何を見て、どこに参ろうかとやや迷子。
そうなっている理由は人の多さだった。勅願堂のすぐ脇に何やらスタンバイされているものがあり、この後、ここで火渡り神事が行われるのだという。
そういえば、ナイトクルーズのガイドさん、そんなことを言っていたっけ。
とはいえ私たちはまだ事がよくわかっていなかった。
「あれだね、神事を見ようと待機しているんだね」
「外国の方も結構いるね」
「っていうかさ、こんなところでお弁当広げちゃってる人いるけど、これなんなの?」
「場所取りみたいな?」
こんな会話をCさんとしながら、戸惑っていた。
そうなのだ、何やら座り込んで食べている人がちらほら。
そしてお堂の中の廊下に座り込んでいる人もいる。
もちろん合掌している人もいるし、お経を唱えている人もいる。
間が空くと「どうする?」「どうします?」と二人で決めかねていた。
しかし、せっかくのタイミングならちょっと見ていきますか……みたいな好奇心が二人に共通していた。
雲行きが怪しくなり、ポツポツと雨が降り出した。まだポツポツである。
さきほどの勅願堂の脇の広場に張られたロープの周りには人の輪が出来始めていた。
調べてみると、その神事は13時からスタートするらしい。
まだ少し時間がある。でも大聖院にはそれを待つ人たちがどんどん集まってきて、何か静かな熱気を帯びてくる。
さきほど、こんなところでお弁当広げちゃってる人いるけど……とやや不審に思っていた私だが、それはオフィシャルで販売されていたものだった。
そうか、この行事に合わせた振る舞いなのだなとわかる。
入口で熱心に声をかけていた護摩木のことも、この後行われるご祈祷のためだったわけだ。
合点がいくと、もう見ないわけにはいかないじゃん! となった。
お腹もちょっと空いてきたけれど、いやいやこれは見ていくでしょ……。
雨は少し大粒になってきた。
私たちは二三列後ろながら、運よくテント下の位置を確保できた。
そして観音堂の銅鑼の音を合図に、紫灯護摩 火渡り神事が始まった。
この頃になると火渡り神事に参加する参拝者の方々も準備万端。経本片手に裸足で待つ方も多くみられた。
ここから行われる神事は、見応えいっぱい。
まずは法螺貝を鳴らしながら、お坊様たちが入場してくる。
かなりの人数だ。
あ、さきほどすれ違った方もいる。
神事はゆっくりと、段取りを追って進んでいった。
四角に清めの塩をまき、弓矢は大きな掛け声(念仏?)と共に、本当に弓が上空に放たれる。
そうしていよいよ中央に火が投じられる。
お坊様たちの読経に合わせて、声を合わせる人も多く、これが長く続く大切にされてきた神事であることがわかる。
私はテントの下で雨を避けながらのちゃっかり見学だけれど、まるで目の前で歌舞伎を観ているような気分。
ここに火が点くと、皆の願い事が書かれた護摩木が焚かれるのだ。
商売っ気がすごいなぁとちょっと引いてしまったりしてごめんの気持ち。
神事をもう少し見届けようととどまった私たちはこの後、貴重な体験をすることになる。
(心ゆくまで「ねがひ」尽くせ! 後編につづく)
写真/Akiko Kurihara、Chikako Matsuura