日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
10月のとある日のことだった。
夫がお腹が痛いと苦しみだした。ここ数日、腹痛を訴えることが何度かあり、
痛み止めを飲んでしばらくすると、もう全然痛くない……みたいなことが数回起きていた。
夫も私も、病院にお世話になることはほぼない暮らしで、
特に薬は極力飲まないタイプの夫からめずらしく腹痛に効く薬を買ってきてと頼まれたりしたので、「何かへんなものを食べたかな?」「急に寒くなったから風邪の一種じゃない?」
「雨に降られて体が冷えたんだよ」などと、痛みに無関心の私はちょこちょこ原因を探るような会話を繰り広げていた。
ある夜、夕食の後。静かだなと思ったら、夫が痛みに顔を歪めうずくまっていた。
口にタオルをくわえ、歯を食いしばっている。
痛みをこらえるためにタオルを口に加える人を生で見たのは初めてだった。
吐き気はないか、熱はないか、どんな痛みか、たずねても答える余裕がないみたいだ。
可哀そうに……週末だったので夜間救急で見てくれる病院を探そうか? ときいても、それには特に返事はなく、痛みに悶えている。
次の瞬間、夫が電話機の前に座り受話器を持ち上げた。
119 プルルルルル……
え、えっ!? 119? 待って、私、ここにいるのに?
何で自分でかけてるの? え、えっ!?
意味がわからなかったが、夫は119番に症状を伝えている。
それほどまでにしんどいということだったわけだが、なぜそれなら救急車を呼んで!と私に言わないのだろう。
そのことに私はパニックになっていた。なんならちょっと怒りもこみ上げていたかもしれない。
5分くらい経過したところで夫が言った。「どうしよう。痛くなくなっちゃった」
おいーーーーーーーー!! なんだとーーーーーーー!!
ここ数日、痛い……でもしばらくすると、全然痛くない。
そんなことが何回かあったので、私は慌てて、
「電話、救急車取り消して、すぐ取り消しなよ! ブラックリストに載っちゃうから」
とケロリとしている夫に言った。
セーフ。取り消せた。
それにしてもだ、やっぱり私は、夫が自分で119にかけたことが相当ショックだった。
私はなんなのだ? 意味がわからない……をひとしきり繰り返した後、
「週明け、病院に行ってちゃんと検査してもらったほうがいいよ」と言った。
実はこの日より前に一度、近くの総合病院に腹痛で行ったものの、なんの診断もくだされず、痛み止めだけもらっていたという経緯があったので、それも踏まえてやはりちょっと診てもらったほうがいいと思ったのだ。
夫は度々襲い来る痛みがかなり厳しかったようで、素直に連休明けに会社の近くのかかりつけ医に行くと言った。
さて、夫の痛みの正体とは……。
(たぶんつづく)

