理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
義母宅に週イチで行くと、「これどこにあったの?」というくらい、はじめましてのものが出てくる。
特に紙ものは多い。それは義母のキャリアの証である。
先日ペラッと2枚の紙が机の上に置いてああった。
それは、自作の問題集だった。
手作りテストのようだ。
●さいふを落とした 、三千円程度しか入っていなかった。
1.というのは 2.といっても 3.とすれば 4.ところを
こんな感じで、下線に入る番号を選びなさい。という問題。
義母は中学の国語教師を早期退職した後、日本語教師として、中国で教えていたことがあるそうだ。
問題から見るとおそらくその頃に作ったものだろう。
ワープロの感熱紙に印刷してあったが、表ではなく裏に印刷してあった。
でも感熱紙の面だったら恐らく文字はもう消えてしまっていただろうから、
その頃の義母にグッジョブ! という感じだ。
30年くらいの時を経て、自分で作った問題を自分で解くシーンがやってきた。
もちろん、それ自体を義母はもう記憶してはいない。
問題を読み上げてもらい、選択肢を順に入れながら読んでもらい、どれが正しい? どれがおかしい? と時間をかけて答えを導きだす。
今、流行りの個別指導タイプである。
●職場を からといって、自分がやりたいことをやらせてもらえるとはかぎらない。
1.変え 2.変えた 3.変えよう 4.変えて
例題の文章がなかなかシュールだ。
とりわけ時間がかかったのが、次の問題。
●鈴木さん くれば、この手紙をすぐ中国語に訳してもらえるでしょう。
1.かぎり 2.さえ 3.すら 4.こそ
何問めかになって義母もだいぶ疲れてきた。
しかし、安定のスパルタ鬼嫁は、次の問題だよ……と続ける。
義母は問題を読んで、
「鈴木さんがくれば、この手紙をすぐ中国語に訳してもらえるでしょう。」
と読み上げた。
う、うん、合ってる、合ってるね。
じゃあ、次の4つのうちだとどれが文章としてしっくりくるかな?
消去法を促すも、
「鈴木さんがくれば、~~」となる。
う、うん、合ってるよ、合ってる、それも。
個別指導側がさじを投げそうになるが、おやつのカットスイカにフォークを付けて出す前だから、投げるわけにもいかない。
と、わけのわからないことを思いながら、なんとか正解の「さえ」も導き出した。
義母はさほど嬉しそうでもなかったが、1枚まるまるやり切ったので、100点と右上に書いてみた。
もちろん、カットスイカは、大満足の顔でペロリと平らげた。
自分で作った問題を、まっさらな状態で自分が解く。
時空を旅する暮らしをしている人は世界にたくさんいるけれど、
これをしている人はそんなにたくさんはいないかもしれないなと、
義母のあの頃のキャリアを思った。