理由あって週イチ義母宅に通っている。
これは、主にその週イチに起こる、今や時空を自由に行き来する義母とその家族の、
ちょっとしたホントの話だ。
夕方、義母が3泊4日のショートステイから帰ってきた。
その長さは初めてで、デイサービスより少し離れた施設を利用するのも今回が初めてだった。
様子はどうだろう? 動揺はないだろか?
そんな心配もあって、その日は私が義母宅で待ち構えていた。
家の中を快適温度にし、スーパーでの買い物も済ませた。
余談だが、いつも利用しているスーパーがリニューアルオープン前の改装期間を控えている。
そのため店内は、空きの棚やスペースが日に日に増えている。
特売スペースはガランとして、なんだか寂しい感じだ。
普段がモノが多すぎるのだし、義母宅用に購入する定番の品はほぼそのままあるので、寂しい感じというのは本当に印象に過ぎない。
そんな印象の中、1/4カットのスイカを購入した。
この時期は熊本産のスイカである。
理由は簡単だ。義母が大好物なのだ。
ショートステイでは規則正しい時間と回数の食事だったろうから、好物を用意しておけばなんとかなるのではないかという、これは狡さだろうか、優しさだろうか。
後者ということにしておきたい。
施設の方に誘導されながら、義母が暑いさなかに帰ってきた。
「おかえりなさい」の声掛けに、義母は開口一番、
「あなたは歯科医院をしている息子の奥さんですか?」と聞いてきた。
「違いますよー。私はあなたの息子の〇〇さんの奥さんです」
「そうですか、アハハハ」
間髪を入れずに訂正して、ほとんど同時に笑ってごまかした。
どうやら送ってもらってきた車中で歯医者の息子がいるという話をしていたらしい。
それは私の義理の兄のことである。
簡単にショートステイ期間中の様子を聞いて、施設の方を見送った。
4日ぶりのわが家のベッドに腰掛けた義母は、ようやく帰ってきたという安堵感も、
ここはどこ? という不安感も持たず、そこにいる。
あとはほぼいつも通り。
でも確実に違うことがあった。
「お義母さん、今、外から帰ってきたから手を洗いましょ」
そう促すと、素直に応じてくれて台所にやってくる。
すると、ハンドソープを待ち、その後、手をかなり丁寧に洗ったのだ。
これはショートステイでの習慣が浸透したせいだろう。
いつもは洗ってといっても、ちょろっと水をつける程度だもの。
習慣はいくつからでも始められるを地でいっている。
残念ながら自主的には難しいけれど。
手を拭く横で私がスイカを切り出した。
「お義母さん、スイカ食べるでしょ? 今日暑いから買っておいたのよ」
そう言い終わらないくらいのタイミングで
「食べる」と返事をする義母。
「これくらい?」と厚さを示しながら庖丁をあてると
「少しでいいよ」と心にもないことを言う。いや、失敬、気持ち的にはそうなのだ。
皿に乗せ、お義母さんの分だよと手渡した。
あちらのテーブルに持って行って一緒に食べようと言いながら渡すと
義母は「はいっ!」といい返事をして、その場で食べ始めようとした。
台所のシンクに向かってである。
そうなのだ、これは義母の習慣なのだ。
スイカはこれまでも季節になると義母宅で購入していた。
私が買って、2日後に夫が行ったときにそれが残っていたためしはない。
それほどにスイカが好きなのだろう。
そして、いつもここで立ち食いしていたのだろう。
その場で食べれば皮や種はすぐに捨てられるし、手も洗えるから都合がいいのだ。
何よりいち早く食べたいのだ。
ずっと一人だったせいもある。
これが義母の習慣なのだ。
とはいえ、今日は何度かいさめて、なだめてテーブルに移動し、
それから一緒に切ったスイカを食べた。
「まだあるけど、一気に食べない方がいいから、今はこれだけにしておこうね」
昨年と同じことを言って本日のおやつタイムは、秒速で終了した。