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生を前に人は、友情は、何を与え合うのか『いつぞやは』

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誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する舞台作品は、シス・カンパニー公演いつぞやは
開幕前に主演の窪田正孝さんのケガによる降板が発表され、同役は平原テツさんが努められました。
今回ご一緒したのは、連載_ひつじのまなざしで毎月ドラマレビューを執筆いただいているみのわ香波さんと、インテリアコーディネーターで整理収納アドバイザーの青山美香さん。シアタートラム、前から2列目というスペシャルな座席から観劇後、作品についての率直な感想を語り合いました。

※以下、作品のネタバレを大いに含みます。

劇団で活動をしている松坂の元に、ある日、一戸が芝居を見にやってきた。
かつての劇団仲間だった一戸は、自分の物語を書いてほしいと松坂に依頼をする。
彼が病となり、やがて故郷の青森に帰るというのがその理由だった。
困惑する松坂だったが、かつての劇団仲間が集まり、小さな場ではあるが芝居をすることになった。
懐かしさと共に、それぞれがそれぞれの人生を生きていることを知る仲間たち。
故郷に戻った一戸は、同級生の真奈美と再会し、自身の置かれた身の上を語ると……。

誰にも身近な話
なのかもしれない

青山 24、25歳の頃、夫と私の共通の先輩がガンで亡くなられたという経験をしているんです。今日のお芝居のまんま、あの感じでした。私たちの結婚式に招待する電話をかけた時に告げられて、その告げられ方がまさにあの平原テツさんが演じた一戸みたいな感じでした。
栗原 生きる時代や育ってきた環境も違うのに、なぜ観た作品がこうもいろいろリンクしてしまうんだろうね。
青山 今日の芝居の入口のあの自然に始まっていく感じが、あなたの日常とつながっていますよ……みたいな感覚になる、そういう演出なのかもしれないですね。
栗原 ところで始まりのシーンで、みのわさんは飴ちゃんをもらっていましたけど、何飴だったの?
みのわ これ、マンゴー&パイン飴でしたー。
栗原 松坂(まっつん)を演じた橋本淳さんは、演出家という役どころでしたけど、この作品の作・演出家の加藤拓也さんに完全に重ねる感じで観てました。
みのわ 橋本さん、とってもお顔が小さくて……。
青山 真奈美役の鈴木杏ちゃんは「足長っ!」って思って観てました。
栗原 演出の加藤さん、30歳なんですね。なんかいろいろすごいなぁ。

青山 日常のどこかのシーンに人の死って必ず関係してくるじゃないですか。そういう意味では誰にも身近な話なのかもしれないと思いましたね。
栗原 舞台は東京と青森でした。あの距離感みたいなものも出身地がある人には「わかるなぁ」と思える感覚なのかもしれないよね。それがない私も「わかるなぁ」って思ったりしたくらい。
青山 一戸の意識が混濁したシーン、東京と青森で距離も違うし、顔も知らない間柄なのに東京の友人たちと青森の真奈美が普通にしゃべっている、あのシーンも印象的でした。
みのわ 彼らはそもそもはそんなに仲が良かったわけでもないけど、ガンとわかってから、一戸は演劇という共通点を頼りに友人に会いに行くというアクションを起こしたんですよね。そのアクションやその後の行動の一つひとつが、彼らになんらかの形で影響を与え合ったんだなぁと。
だからなんとなく過ごしていたらあっという間に時間が過ぎるよね……とも改めて思いました。

自分の人生を書いて欲しい
と言われたらどう思うのか

栗原 松坂が一戸から「自分のことを芝居に書いて欲しいんだよね」と言ってきたシーンは、松坂側に立って観てしまったんだよね。私は脚本家ではないけれど、なんとなく書く仕事という共通点からなのかな。「書いて欲しいって言われて書くもんでもないんだよねー」みたいな感情になって、心の中でなんだか言い訳しながら観てたんです。作品の中で松坂は、初めはのらりくらりかわしていたけれど。
青山 松坂が書いて欲しいと言われても初めは書かなかったのは、終わりを書かなきゃいけなくなっちゃうからかなと思った。書くということは、死そのものを受け入れることになっちゃうから。のらりくらりかわしていたのは、ガンといっても生きる可能性もあるわけだからと、その可能性にかけたのかな。
栗原 そうかー、なるほど……。その優しい考え抜けていて、私の中には黒いものが渦巻いてたわ(汗)。
みのわ 私もそっち側でした。「いや、お前のことよく知らないし、しばらく会ってなかったから……、それで急に俺の人生書いてって言われても……」みたいなとまどいというか。
ガンと聞いて、書いてあげたい気持ちはあるにはあるけど、作家として面白いものを作りたいし……みたいな思いもあって即答しなかったのかなって。
栗原 逆に一戸は何を書いて欲しかったんだろう?
青山 
ただ関わりたかったのかな。
みのわ そうですね。
青山 自分が余命宣告されたとして、人の感情は一つじゃないから、ある種モヤっとしたまま人に会いに行ったりするっていうのは、あるんじゃないかな。その人の心残り感とかの足跡をたどっていくと、一戸の場合は執着するのが演劇だったのかな。
みのわ 東京に出てきて、結局友だちと言える人もそんなにいなかったみたいなことも言ってましたもんね。
青山 実は一戸にとって演劇仲間っていうのはプライオリティが高かったってことに自分でも後から気づいたんでしょうね。
栗原 彼自身もそれが明確にわかっていたわけではなくて……。
青山 そういえば、10年くらい前に流通ジャーナリストの金子哲雄さんという方が、自分の病気を知り終活をされて、『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』(小学館)という書籍も話題になりましたよね。自分の最期を考える時、どうしたいかというのは、やっぱり感情優先で行われるのかなっていうことも今日の芝居を見て思いました。

※この後、しばし生前整理や、整理収納のロジックとの付き合い方について結構真剣に話しつつ、もし自分に何かあったら、家族にはわかるようにしてる!? パスワード管理は? 保険は? など、情報交換タイムへ。

栗原 ところで、舞台美術はかなりシンプルでしたけど、まさか後半にあんなに収納が出てくると思わなかったですよね。
青山 真奈美役の鈴木杏ちゃんがまさに片を付けるというシーンでした。
栗原 あの収納量につい目がいきました……。
みのわ 凄かったですね。壁もいろいろ収納になっていて。
青山 始まる前まではジャミロクワイのPVのセットみたい~なんて言っていたのに(笑)。
みのわ あそこも開くの?
栗原 人も入っちゃうの? なんか奥行すごくない? みたいな。
青山 ベンチ収納でしたよね。

距離感を感じる芝居を
いい距離から観れた

栗原 気になった役者さんはいましたか? 具合悪くなった後に再び出てきた時の平原さん、本当にげっそりというか顔色悪く見えてすごかった。
青山 ライティングでうまく見せていましたよね。
栗原 肌もパサついて見えたような気がしちゃった。公演期間中は乳液つけるのやめてるかも(笑)。
みのわ 最後にまっつん(松坂)がいっちゃん(一戸)に対して、「あの時演劇を止めれば良かった」みたいなことを言ってましたよね。それは自分が彼にこれほど影響を受けるとは思っていなかったんじゃないかなって、そんな風に感じたんですよね。うまく言えないんですけど……。
栗原 まっつんが日ごろどんな作品を書いて作っていたかはわからないもんね。でもいっちゃんの存在によって、命とか人生みたいな塊に対峙することになったんだよね。この経験は彼の作風に大きく影響したんじゃないかと想像させるよね。
みのわ 仲間との飲み会があったりした時もまっつんはいつも傍観者みたいに加わらないような感じだったし、それを自分で後悔したりしたのかもしれない。作家の性みたいなものなのかな。
栗原 よく役者さんも自分の身内の死に直面した時に、どこかで「これいつか芝居に使えるかもしれない」って思っちゃったりするって聞きますよね。そのリアルな感じを演じていた橋本さん……。
青山 すごく上手かったと思います。
みのわ とても繊細だったし、最後の電話の場面も最初は冷静だったけど、どんどん感情がワーッときて、その後、物書きの顔になっていって、淡々と書き始めるという。
青山 あのシーンだけですよね、自分事になった瞬間。距離感がギュッと縮まった感じで、すごくリアルでした。
最初に話した先輩が亡くなった報せを受けた時の夫は、まさにあんな感じでした。半分笑った感じで受け答えしたりしながら、突然悲しみの感情があがってきたりして。感情は制御しきれないものだよなと実感します。
みのわ 青森の真奈美からの電話で、いっちゃんは自分たちのことをこんな風に言ってたと伝えられたであろうシーン、松坂が思考と感情のギャップに気がついて、今、書きたい、今なら書けるという変化につながる感じがとてもリアルでした。
栗原 今井隆文さん演じる坂本の悲しみ方とのギャップもすごくあって、例えるなら水をこぼした時に、布が一気にビショビショに濡れるのと、ジワジワと水を吸っていって気づいたら全部濡れていたみたいな、なんかそんな違いに見えて、つい涙腺にきました。私たちの席が最後のまっつんのシーンに近かったから余計にそんなところにも目がいきましたよね。

栗原 このお芝居のタイトルは『いつぞやは』ですが、どうしてこのタイトルになったんだろう。
みのわ 普段使わないですよね。
青山 手紙の?
栗原 ああ、いつぞやは……
みのわ お世話になりました、みたいな? あぁ、それならしっくりきますね。
青山 いつぞやは、気にかけてくれてありがとうとか。
みのわ うしろに来るのは感謝とかそういう言葉ですね。
私、今年になって初めてお会いする方が多くて、それまで知らなかったけれど実はこういう方だったんだ、とか、それぞれの人生があってそういう考えをお持ちなんだなぁ、話してみて知るなぁということがよくあるので、今日のお芝居もその人の本音の部分や、つながりの大切さを感じることが出来ました。
栗原 みのわさんと美香さんも今日が「はじめまして」でしたもんね。
「いつぞやは」観劇をご一緒いただきありがとうございました……と伝え合いましょうか!
青山 またぜひ、気になる作品セレクト、お願いします!!

今回エンタラクティブしてくださったのは……
青山美香 (Mika Aoyama)さん
インテリアコーディネーター、整理収納アドバイザーとして、壁紙と整理を融合させた心地よい暮らしを提案。 趣味は、読書、美術館巡り、お菓子作りのインドア派。
インテリア青山オフィシャルサイト

みのわ香波 (Kanami Minowa)さん
整理収納アドバイザー資格取得後、個人宅の整理収納サポートを開始。各種セミナーや2級認定講座を通して、自らの人生を変えた経験や現場経験を盛り込んだ大好きな整理収納理論の普及に努めている。また、ライフワークとして写真整理ユニット「アルバム姉妹」としても活動中。趣味はアート・建築・映画・ドラマ鑑賞。
お片付けは後始末ではなく、始まりです_ひつじPlanning