映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
劇場公開される映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。
大ヒット中の映画「国宝」。公開直後に、歌舞伎好きの夫と映画館に足を運んだ。
今回は夫婦で感想話しちゃおうスタイルでお届け。
ネタバレ大いにあり、です。
妻:吉田修一さんの原作も読んで、映画公開を楽しみにしてたけど、そもそも何で映画を知ったか覚えてる?
夫:歌舞伎を題材にした映画が公開されるというニュースを聞いて、原作も読みたいなと思って探しました。基本的な背景は知っておきたなと思って。
妻:原作の小説はぐんぐん読んだ感じ?(私は未読)
夫:さまざまな登場人物の人生がしっかり書かれているから、初めは割と時間がかかったかな。2回目はすーっと読めたけど。
妻:私たちは公開直後に見に行ったよね。まず、率直な感想は?
夫:映画にするにあたってだいぶスリム化はされるだろうなと思ったけど、主人公が幼い頃からずっと歌舞伎に魅入られたところが描かれていて良かった。
妻:私も3時間、全く長いと感じなかった。中だるみする感じ、「あのシーンはなくても良かったよね」みたいなところがない175分だった。
歌舞伎に魅入られた二人に
魅入られた
妻:喜久雄と俊介(俊坊)、二人は幼い頃から歌舞伎が大好き。喜久雄の少年時代を演じた黒川想矢さん、良かったよね。彼の目。
夫:そうだね、あと筋肉量が良かった。あの段階で俊坊(越川敬達)のほうはまだ細い感じだから、覚えもいいし、体つきも含めて喜久雄の方が実力がありそうだというのが見てとれたよね。だから歌舞伎の家に生まれていないけれど、ぐんぐん伸びるであろうことに説得力があった。
妻:なるほど、そうだね。喜久雄の父親の立花権五郎は永瀬正敏さんが演じていました。ものすごーく良かったよね。渋かった。
夫:うん。あんな感じのイメージなかったから。
妻:まずあの権五郎が登場するシーンで、早い段階でグッと作品に引き込まれました。
妻:喜久雄の体つきまですごかったという話が出ましたけど、喜久雄、俊坊二人に、師匠である花井半二郎(渡辺謙)が稽古をつけるシーン。
夫:「骨で覚えるんや」のところね。きっと実際のお稽古でもああいう教えはあるのかもしれないよね。
妻:今どきの子が見たら、スパルタでビビッてしまうかもしれないけど、でも芸道の神髄を見た気がした。
夫:常識外れた鍛錬もするから、人を魅了する常識外れたお芝居や踊りが出来るんだろうから。
妻:思春期の彼らが、放課後とか隙間時間には歌舞伎ごっこをするシーンなんかは、まさに歌舞伎に魅入られた二人なんだろうなっていう描写だから、ああいうシーンが入っているのが良かったなぁ。
夫:結局、俊坊も歌舞伎が好きで好きでたまらないから、本来だったら他所から来たライバルに対して、ナンダコノヤロウみたいな気持ちになるところだけど、結局一緒に鍛錬する仲間になっていくわけじゃん。あの辺が素敵だよね。
妻:お稽古でなく、ザ・歌舞伎として衣裳をつけて出てくる最初の演目が……。
夫:「藤娘」
妻:それが好評で半二郎が仕掛ける二人の演目が「二人道成寺」でしたね。
夫:一人は花道にいて、一人はすっぽんから登場だった。あの「二人道成寺」は絵になったね。
妻:絵になった……。吉沢亮さん演じる喜久雄はまあ美しいじゃないですか。横浜流星さん演じる俊坊も美しいけど、ちゃんと女形の美しさである感じがリアルだなと思っちゃったんだよね。吉沢さんは性別を意識させない綺麗さだったけど、実際の歌舞伎でいったら結構、雄々しい人が女形だったりすることもあるから、横浜さんの方がリアルというか迫力を感じたというか。
夫:そうだね。
妻:貴方は日頃から歌舞伎の中でも舞踊が好きだと言ってるじゃないですか。これまでもたくさんの「道成寺」を観てきたと思うけど、どうでした? 映画の中でも結構たっぷり見せてくれてたよね。
夫:なんだろう、技術のことがわかるわけではないけど、魅入られるかどうかという観点で見れば、俳優さんが映画で演じるにしては十分に魅入られたよ。劇場で生で見たいと思えるほどだった。
妻:「魅入られる」……強い魅力に惹きつけられ、心を奪われること。
夫:はい、「魅入られる」です。後半に再び「二人道成寺」が出てくるところも歌舞伎の話らしくて好きでしたね。
原作との違いもあるけど
映画だからこそ一気に見れた
妻:物語としては、師匠である半二郎が演じるはずだった「曽根崎心中」のお初に代役を立てなくてはいけないというところで息子の俊坊ではなく、喜久雄に白羽の矢が立ちます。普通だったらありえないことだけど、あれは父としては俊坊にやがて襲名させることを踏まえて、発奮させるために喜久雄を抜擢したの?
夫:個人的な意見としては、俊坊の奮起を待ってのことだと解釈しました。親として。師匠として客観的に見れば喜久雄の才能が上だけれども、それを超えるためのチャンスを俊坊にただ与えるのではなく、奮起させたかったのではないかと。
妻:寺島しのぶさん演じる半二郎の妻・幸子は大反対だったもんね。ちょっと待って、あれって半二郎の代役だから、えーっとそもそも謙さんがお初を演じるっていう設定ってこと?
夫:半二郎は女形だもん。
妻:えーーーっ! 良かった、見なくて。(ちなみに私は長年の渡辺謙ファンでございます)
夫:俊坊は幼いころから共に鍛錬してきた喜久雄が演じるお初を客席から観て、自分が明らかに負けているのを知ってものすごい悔し涙を流して飛び出ていく。半二郎としてはもっと早くに俊坊を発奮させたかったんだと思うよ。我が子への思いは相当強いことは、終盤のシーンでも明らかになるし。
妻:そこから俊坊は8年の月日、家を春江(高畑充希)と共に飛び出してドサまわりのようなことを続けていきます。一方で抜擢され、半二郎として襲名した喜久雄も、花井白虎亡きあとは、後ろ盾を失ってせつないことになるよね。
夫:俊坊が戻ってきたら、そこではやはり血が重んじられるわけで。それには田中泯さん演じる尾野川万菊の存在も大きくあって……。
妻:万菊さん、田中泯さん、すごかった。
夫:二人が万菊が踊る「鷺娘」を見て芸の凄さをビンビンに感じるシーンも印象的だった。「バケモンや」って言いながら心奪われていたところ、二人が歌舞伎バカであることを表していたよね。
妻:あの万菊さんを見たら「バケモンや」って思うよ。見上愛さん演じる藤駒もシーンは少ないけれどとても素敵だったなぁ。
夫:原作とは違いがあるんだけどね。襲名した喜久雄が、駆け寄ってくる藤駒との間に出来た娘に見向きもしないあのシーンは、喜久雄が歌舞伎に取りつかれてしまったんだなという感じだったよね。
妻:たしかにあそこでいわゆる人間臭さとか、心の弱さみたいなものは出さなかったもんね。メロドラマっぽい描写がなかったのが私は好きだったな。安っぽくなかった。
三浦貴大さん演じる歌舞伎の興行主・竹野の存在も良かったね。彼もまた歌舞伎に魅入られた男ともいえるよね。
夫:森七菜さん演じる彰子はちょっと可哀想だったな。あそこは原作とはだいぶ異なるんだよね。彰子の父、中村鴈治郎さん演じる千五郎も原作だと見せどころがあってね。まあ、でも映画だからそこは仕方ないか。WOWOWとかのドラマで全10回とかで見たいって思ったりする。
妻:今回、約3時間にまとまっていたけど、あれを前後編にしたりするのはまた違うかなって感じもするしね。
血を感じるシーン、リアルを感じるシーン
皆、「国宝」をどう見たのだろう
夫:はじめの方で言ったけど、俊坊が戻って花井半弥を名乗り、時を経て半二郎と二人で再び「二人道成寺」を踊るシーン。あれがちゃんと中年になった二人が演じているシーンになっていて、見応えがあったなぁ。
妻:所々「血」を感じるエピソードも多くて、本当に芸と共に生きる二人の数奇な人生が詰め込まれてた。
ところで、話は少し逸れるけど、これまで実際に歌舞伎座などで「道成寺」をたくさん観て来たと思うけど、その中で一番好きなのは誰の「道成寺」?
夫:坂東玉三郎さんと尾上菊五郎(当時は菊之助)さんと二人で演じたのが一番かなぁ。
妻:実は私は「国宝」という映画が、一人の男が人間国宝になるまでの長い年月を描いた作品であるって知らなかったんだよね。当然、歌舞伎で国宝ときけば、人間国宝というワードは浮かんだけれど、そんなに長い人生を追うとは思っていなかったから、知らずに観れて良かったなと思ったの。お互い、映画館で観ながら涙したけど、ポイントは違ったよね?
これは、人によって違いそう。
夫:そうだね。僕が涙したのは……あ、でもこれは超ネタバレになるからやめておこう。
妻:観終わって今、とても気になるのは、歌舞伎を観たことがない人が見たらどんな感想を持つんだろうなということ。
夫:映画きっかけで、実際の歌舞伎を観てみたいって思う人が増えるといいよね。映画を観た後に、原作を読むのもオススメです。
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