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シリーズ化求ム!リーディングドラマ『終わった人』

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誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する舞台作品は、中井貴一さん、キムラ緑子さん出演のリーディングドラマ『終わった人』
ご一緒したのは、私のアンフォゲ飯のイラストでもお馴染み、片づけヘルパーの永井美穂さん。私たちより年配の方で埋め尽くされた草月ホールで笑ったり泣いたりしながら見入った時間の後、オシャレカフェに移動して語りました。

※以下、作品のネタバレを含みます。

田代壮介は、大手銀行で出世コースから外れ子会社に出向された先で定年を迎えた。
仕事一筋だった壮介は定年後の日々を前に途方に暮れる。一方、妻の千草は美容師の仕事が順調で、生き生きした毎日を過ごしていて、夫の存在がちょっと面倒。
自分はもう「終わった人」なのか。いや、まだまだやれる……そんな壮介に舞い込む再就職話。色気のある話だってまだまだあきらめないと若い女性・久里に好意を寄せるものの、都合のいい人止まりのよう。
定年後ライフは思いどおりにいかず、トホホな状況に陥った。その時、壮介はどうする? 千草はどうする? さあ、夫婦はどうする?

定年後の夫は
だいたいウザイのか?

永井 泣いちゃいましたね。
栗原 
泣いちゃいましたねー。前半の終わり方も絶妙でした。身につまされる人はとても多いと思うんですが、中井さん演じる壮介は東大出の銀行員というバリキャリなので、もう少しその学歴や職歴が身近だと、もっと身につまされる人は増えるのかも。
この原作は『終わった人』のあとに『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』『老害の人』という高齢者四部作というのがあるそうですよ。なんかシリーズで続きそうですね。
永井 そうなんだー。四部作全部観たい(笑)。
栗原 パンフレットに書いてありましたが、中井さんは夫婦役をするとしたら、誰がいいかと聞かれたら、必ずキムラ緑子さんを推すほど信頼をおいているんですって。
永井 その人に見えるもんね。今日のリーディングドラマの中でも若い女の子の役の声は、ちゃんと若い女の子に聴こえるんだよね。
栗原 何をやってもその人(当人)になるというタイプの人もいるけれど、緑子さんは違いますね。特にハマッてたのは、壮介と千草の娘、道子かな。
永井 中井さんは中井さんらしいスタイルがあって、それもまたいいよね。

栗原 実は先日、ヘアサロンに行ったんですけど、そこで担当美容師さんから、最近ご主人が定年を迎えて家にいられるのがウザイっていうお客さんが多いって話を聞いたばかりだったんです。買い物に行こうとすればついてくるし、テニスに行く準備をしていると「俺もやろうかな」とか、やることなくていちいちついてくるんですって。
タイムリー過ぎました(笑)。
永井 わが家もこの状況を一回経験してるんだよね。あぁ、これを通り越したなぁと思って観てた。昔は60歳が定年だったから、定年になったら好きなことをやろうって思っていた人が、いざその時になったら出来ないというのを、私は介護の現場でよく聞くんだよね。
栗原 その年になったら体を壊してしまうとかそういうこと?
永井 そういう人もたまにいるけど、つまり60歳になったら好きなことを……って言って、その手前では何もやっていない人は、いざその時になっても思い浮かばないみたいなんだよね。燃え尽き症候群、みたいなものもあるだろうし。
栗原 再就職を目指したとしても、それなりのキャリアがむしろ邪魔するというのも物語の中に出てきましたよね。
永井 会社という社会で生きてきたけれど、実はすごく狭かったりもするんだよね。その中で課長だろうが、部長だろうが、社長だったとしても世の中、広い社会で見たら狭いんだよ。小さいゲージからいきなり野原にぽんと出されちゃうようなイメージだよね。結局女の人のほうが世の中に広く出ている場合が多いのかもしれない。

夫が定年したら、自分が60歳を迎えたら
その時どうする?


永井 主人が55歳で退職した時、時間が出来たから「海外旅行に行こうよ!」と私は思ったり言ったりしたんだけど、次が決まっていないうちは、1泊2日の温泉ですら行けないという感じだったなぁ。無所属の経験がない人はそういう思考になる人、多いかもしれないね。
栗原 人生はどこで何がどうなるかわからないから、なんかテンションというか性格というか、そういうのが似ていない夫婦のほうがいざという時強かったりもするのかな?
永井 
そうだね。この舞台でも中井貴一さん演じる壮介が会社でダメになった時、緑子さん演じる奥さんが頑張ったわけでしょ。そういう夫婦の妙みたいなものも感じられるよね。
栗原 夫がそうなったから妻が頑張れたっていう見方もできるしね。それがラストの「あなたがいたから……」みたいなシーンにつながっていましたよね。
永井 最後は泣かされちゃったけどさ、でも結局女性がよしよししてあげないと……みたいな感じもあったね。物語の中では娘の道子が夫婦の間に立ってナイスアシストをしたけど、その逆だって実際にはあるかもしれない。子どもがいるからうまくいく夫婦もあれば、私たちの親世代なんかでいうと、子どもがいるから別れられない、みたいな夫婦もいたりして。この辺りも時代と共に変化しているよね。
栗原 たしかに……。それにしても、60歳を過ぎて、自分はあんな風にハツラツとしていられるんだろうか……みたいなことは思います。

永井 実際60歳を定年だとして自分の仕事のことを考えたりもするんだよ。でも現場に行けば「やっぱりこの仕事好きだよなー」と思っちゃうんだよね。こういう風に先をイメージしたり、考えたりするのも女性のほうが多いのかもしれない。
栗原 なった時に初めて考えてどよーんとなっちゃうとキツイよね。
永井 イメージしていない人は、いざそうなったらどよーんとなる人の方が多いんじゃない?
栗原 『終わった人』もそうだけど、最終的には仕事のみならず、自分が必要とされているか……みたいなところが鍵になってきますよね。
永井 会社でトップになる、昇り詰めていくワザと世の中を生きていくワザは違うから厄介だったりするのかも。

この作品を夫と一緒に
観たいか問題

栗原 それにしてもリーディングであれだけ見せるというか、飽きさせないのはすごいですね。昼下がりで眠くなる時間帯だけど、全く飽きずに観られました(笑)。
永井 全体的に客席の年齢層は高かったよね?
栗原 だいぶ高かったですよ。夫婦でいらしている感じの方多かったですよね。これなら観てみたいと思ってご夫婦でチケット買ったのだとしてたら、結構画期的ですよ。
永井 で、観てみたらご主人の方はアタタタみたいな感じになっただろうけどね。
永井 今日は会場にご夫婦で来ていた方が多かったけど、これを観て夫を連れてくればよかったーとは思わなかった。
栗原 たしかに。観終わった後、妙にこっちが会話を盛り上げなきゃいけなくなりそう。

栗原 リーディングドラマで出演者は二人だけ、真ん中に直方体のベンチのようなものがあって、始まる前に私は「あれは棺桶だったりする?」なんて縁起でもないこと言いましたけど、ソファになったり、演台になったり、電車になったりでシンプルだけど流石でしたね。永井 定年は生前葬であるなんて台詞があったから、棺桶に見えてもあながち違ってなかったも? 結局あれがあの色と質感だったことでいろいろなものに想像できたね。
栗原 そういう想像が自由に出来るのが舞台のいいところですよねー。
永井 中井貴一さんってほんと、ああいう役が似合うよなぁ。映画『記憶にございません』も大好きだったんだよね。
この作品は自分の余生というか、パートナーとのゆく先を考えたり、想像したりもさせられる作品だし、そこを通ってきた人にとっては、「いろいろ乗り越えてきたよねー」とか「そんなこともあったよねー」と思える作品でした。
私は仕事柄、“終わった人”からだいぶ過ぎた人と会うことが多いし、晩年になって一人になっちゃった男性の率も少なくない。
栗原 いざという時に「終わった人」にならないようにしたいな、自分も夫も(笑)。今回もご一緒いただきありがとうございました。シリーズ化したらまた一緒に観たいです!

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今回エンタラクティブしてくださったのは……
永井 美穂(Miho Nagai)さん
介護福祉士の資格取得後、10年間介護事務所に勤務し、お年寄りの在宅介護に従事する。高齢者が在宅で安心して暮らせる部屋づくりを考えるなかで、整理収納アドバイザーの資格を取得。個人宅での訪問整理業務を行うほか、「介護者の気持ちがわかる整理の講師」としてもさまざまな業界で活躍。著書に「日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方」(大和書房/2019)「1日10分でおうちがキレイに! シンプル&最強片づけ術」(ゼロワン出版/2023)がある。2020年より「介護環境整理アドバイザー」認定講師として介護における環境整備の必要性を広く伝えている。
片づけヘルパー 永井美穂オフィシャルサイト シニア・高齢者のためのゆっくりお片付け