誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、劇団東京ヴォードヴィルショー創立50周年記念公演『その場しのぎの男たち』。
ご一緒したのは、このフィーチャーコーナー最多登場のお2人、片づけヘルパーで連載「私のアンフォゲ飯」のイラストを描いてくださっている永井美穂さんと、連載「ひつじのまなざし」でお馴染み整理収納収納アドバイザーのみのわ香波さん。
永井さんが長年応援されている東京ヴォードヴィルショーの記念公演の初日に観劇し、後日オンラインで感想シェアした模様をお届けします。
※以下、作品のネタバレを含みます。
明治24年、5日前に内閣総理大臣に就任したばかりの松方正義(佐渡稔)は困っていた。
外遊中のロシア皇太子に何者かが切りかかるという前代未聞の事件が起こったのだ。
怒ったロシアから戦争をしかけられたらどうしよう。
松方の周りには、同郷の内務大臣、西郷従道(坂本あきら)、クセしかない後藤象二郎(石井愃一)、一見、冷静沈着に見えるけど!? な外務大臣の青木周蔵(まいど豊)、やたらと発言権はあるけれどどうにも胡散臭い陸奥宗光(佐藤B作)らがいる。
この難局を乗り切るために彼らが考える策はどうにもその場しのぎのことばかり。
そこへ絶対的権力を持つ初代総理大臣の伊藤博文(伊東四朗)が登場して、またややこしやー。
極秘の任務として犯人に暗殺命令まで出てしまうからさあ大変!
東京ヴォードヴィルショー50周年は
とっても感慨深い
栗原 印象に残っているシーンから話していきましょう。
みのわ 伊東四朗さんにしか目がいきませんでした。凝視してましたね。
永井 心配で目が離せなかったよね。
(実は公演期間前に伊東四朗さんはじめ座組でコロナ陽性者が出たというニュースがあったため、初日無事に幕が開くのか心配されたのでした)
みのわ 私は伊東四朗さんの舞台を観るのが夢だったので、そのことがなかったとしても四朗さんを見つめちゃってたと思います。長い台詞の数々は紛れもなく伊藤さんでした。あ、伊東じゃなくて伊藤博文だったということです。
前情報なしで行ってしまったんですが、この作品、題材は大津事件だったんですね。
伊東さんのほかには、山本ふじこさん演じるくノ一、亀山乙女が熱量があって好きでした!
永井 私も本筋とは離れるけれど、まずはヴォードヴィルが50周年なんだなということが感慨深くて、「あぁ、私もヴォードヴィルを見続けて40年なんだな」って思いました。初日のドタバタ感が好きなんだよね。本当は最終日も観たい。初日からの進化というか熟成された感じも気になるから中日も出来れば観たい……。
今回は東京ヴォードヴィルをB作さんと共にけん引していた坂本あきらさんが客演で出ていたのが嬉しかったなぁ。
みのわ お2人は以前上演された『その場しのぎの男たち』もご覧になっているんですよね? その時と比べていかがでしたか?
栗原 ひと言で言うと、皆さん年齢を重ねられましたよねー(笑)。まあ、同じだけ自分も歳を取っているんですが。でも政治家っぽいうさん臭さには説得力が増している感じもしますよね。自分の記録を遡ってみたら、2013年に上演されたこの作品をみぃさん(永井さん)と一緒に観に行っていたことがわかりました。ちょうど10年前ですね。本多劇場でこの時は山田和也さんの演出でした。
みのわ 演出の方が違うとだいぶ変わるんですか?
栗原 でもこの作品に関していえば脚本に忠実ですよね。(脚本は三谷幸喜さん)
永井 B作さんの奥さん、あめくみちこさんも津田三蔵の妻、きを役で出ていたけど、B作さんとの二人のシーンはなんかニヤニヤして見ちゃうよね。カーテンコールでB作さんが紙を見ながら挨拶する時には心配そうにしていたし……。
ところで、なんで50周年の演目としてこの『その場しのぎの男たち』を選んだんだろうね。
みのわ 人気の演目だったからでしょうか。伊東さんを呼びたかったとか?
栗原 三谷さんの脚本作品だからお客さんが入るというのも理由にありそうですよね。
※その後、少し調べたところ、10年前の40周年でこの演目を上演する際のチラシに10年後の50周年でもこれを演っていたらすごいことだと予言していたそう。もっというと20年前の30周年の時もこの作品を上演していたという歴史があるそうです。
裏でのドタバタを想像できるのが
演劇の面白さ
みのわ セットが重厚感があって素敵でしたね。
栗原 あの裏動線、舞台上には見えない部分も見たくなるというか、想像してしまうよね。
みのわ たしかに、映画『有頂天ホテル』(三谷幸喜・作・監督)みたいな感じで、裏でもドタバタが繰り広げられている感じ。イメージを掻き立てられながら観てました。ロシア皇太子は誰がやるんだろうって思ったけど、最後まで出てこないんだな、と途中で気づきました。
栗原 舞台ってそういうことが出来ますよね。映像だったらロシア皇太子らしき人の大きな背中とかをぼんやり写したりしちゃいそうだけど、舞台の場合はお客さんの想像力も借りて作られているのがやっぱり面白いよね。
永井 B作さんはあの陸奥宗光の役につくづく合っているよなぁって思った。
栗原 わかります。ずーっと同じ役を演じ続けているから一心同体みたいな感じですよね。
永井 B作さんって絶妙にいい人の役は似合わない感じがいいよね。
みのわ それにしてもタイトルの通り「その場しのぎだよなー」と場面が変わる度に思って呆れながら笑っちゃいました。
栗原 10年前はお茶の間で見ている感覚でカラカラ笑っていたらしいのだけど、今回観たら、「もう……だから、まったく政治家ってやつは……」みたいな気分でした。
みのわ それはどうしてでしょうね。私たちが大人になったから!?
栗原 政治の腐敗が表に出やすくなったから、より想像がつくということもあるかもしれませんよ。
※ここからしばし、昔話に突入。伊東四朗さんLOVE、昔のバラエティー番組「見ごろ食べごろ笑いごろ」の話で盛り上がりました。コタツに乗ったら怒られたよーなどなど。
「全部出し」しないと
のちのちこじらせちゃう
みのわ この作品、整理収納に絡めるとしてたらやっぱり何事も「その場しのぎじゃいけませんよ」というくらいですかね、言えることは。
永井・栗原 ちゃんと整理収納に絡めようとしてエラーイ!!
栗原 でもたしかに、ここに出てくる政治家たちはそれぞれ思っていることはあっても言わずに引っ込めたり、ごまかそうとしたりして、思いを「全部出し」してないよね。そのせいで余計面倒なことになってしまう。人間関係においても、例えば家族内でも思っているのに言わないことが、一見穏便に済ませるためとして処理されそうだけど、結局それがあとあとこじらせる原因になってしまうよね。
みのわ 大人のしがらみがあるとなかなか全部出しは出来ないし、保身に走りがち。でも家族ならそれは必要ないから思いは全部出ししてもいいんじゃないかな。それにしたって政治家はその場しのぎじゃなく、もっとちゃんとして欲しいですけどね。
永井 2人が話をまとめようとしているのが面白い(笑)。
初日を改めて振り返ると、伊東四朗さんをはじめとして役者さんたちの間が絶妙だったよね。
栗原 少しだけドキドキはしちゃいましたけど、間なの? 台詞が出て来ないの? みたいな。でもやっぱりあの絶妙な間で笑わせる喜劇ってすごいなぁと思います。
永井 これ、いつもみたいに記事にまとまる?
みのわ 栗さん、うまくまとめてください。
栗原 なんとかやってみますよ。あ、その場しのぎでそんなこと言っちゃあダメですね。
劇団東京ヴォードヴィルショー創立50周年記念公演『その場しのぎの男たち』
2023年7月21日(金)~30日(日)
紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
作/三谷幸喜
演出/鵜山仁(文学座)
出演/佐藤B作、佐渡稔、石井愃一、山口良一、たかはし等、あめくみちこ、山本ふじこ、大森ヒロシ、瀬戸陽一朗、中田浄、まいど豊、市瀬理都子、京極圭、玉垣光彦、村田一晃、大迫右典、喜多村千尋
【客演】伊東四朗・坂本あきら