映画の中にはさまざまな人生や日常がある。さまざまな人生や日常の中には、整理収納の考え方が息づいている。
話題の映画を、時折、整理収納目線を交えて紹介するシネマレビュー。の特別版。、夏の終わりに「東京予報」をご覧になった整理。
「シネマミタイナ」特別版として、夏の終わりに「東京予報_映画監督外山文治短編作品集」をオンラインでご覧になった整理収納アドバイザーのみのわ香波さんと今村亜弥子さん、ゲストとして今作の製作スタッフとしてチラシ製作やSNS運営などにも参加されている俳優の廣田琴美さんを迎えて感想シェア会を開催しました。
SNSで一瞬で気持ちを立て直せたり、
落ち込んだりするのが今の世代
栗原 今回お二人は、「東京予報」のクラウドファンディングに協力いただいて、そのリターンとしてのオンライン視聴権でご覧になられました。作品の上映順でうかがっていきましょう。ますば、星乃あんなさん、河村ここあさん主演の『はるうらら』はとても可愛らしい作品でしたが、いかがでしたか?
今村 若い女の子二人の心情を感じながら観ました。春ちゃんが仕掛けるいたずらは、若さゆえの行動ですよね。お父さんに本当は気づいて欲しいという気持ちが見え隠れしていて、その揺れる感情を俳優さんを通して感じることができました。ラストは答えはなくて、私たちにこの後はどうなったかを考えさせるように作られたのかな、どうしてこういうラストにしたのか監督さんに聞いてみたくなりました。映画の中の二人よりはもう大きいですが、私にも3人の娘がいるので、少し重ねてみたりもしました。
みのわ 前作の「茶飲友達」もそうでしたが、外山監督の作品はまるでドキュメンタリーを観ているような感じの撮り方だなと思いました。臨場感があって、最初のシーンの中学生たちがTikTokで踊るシーンなんかは、近くでその様子を見ているような感覚になりました。15歳という独特の、自分でもよくわからないような不安定さが、行動や台詞で伝わってきて、そういう時期だよなぁ、しかも季節は春だし……そんな風に観てほのぼのしました。
二人が喧嘩した後、もやもやしながら一人で座っていたところに、友だちからさっき撮ったTikTokの動画が送られてきたのを見た途端に笑顔になっていたシーン、現代っ子っぽいなぁと思いました。SNSで一瞬で気持ちを立て直せたり、落ち込んだりというのが、今の世代なのだろうなと思うので。
それにしてもお父さんがなんであんな小洒落たお店を始めたのか、経緯が気になりました(笑)。吉沢悠さん、好きな役者さんですし、違和感はなかったのですが……。
ラストシーンは、自分の気持ちがわからないということに彼女自身が正解を求めなくてもいいやと折り合いをつけている感じがとてもいいなと思いました。今はなんでも正しくあろうとするし、何に対しても正解を求めがちなので。
栗原 私は最初に今作を観た時に、「はるうらら」が一番印象に残って好きな作品だと答えたことを憶えています。春ちゃんが自分の気持ちをコントロール出来ないようになるところにとても臨場感があってちょっと泣かされちゃいました。廣田さんも「はるうらら」には思い入れがありますよね?
廣田 そうですね、私は「はるうらら」の卒業式の集合写真を撮るシーンでヒロインの女の子の真後ろに母親役として出演していました。実は劇場公開されてからも何回も観ているのですが、今作は等身大の女の子の複雑な感情をそのまんま提供してくれていて、大人になると隠してしまいがちな部分を瑞々しく描いているところがやはり何度観てもいいなと思います。
栗原 先ほど、春と麗は卒業後、どうなってしまうんだろう? と続きが気になると言われてましたが、どうなると思いますか? もちろん答えはないので、想像の世界で。
今村 お父さんは卒業式は来てくれなかったけど、彼女自身はお父さんのことがやっぱり気になると思うので、またあのスコーンのお店に行くんじゃないかなと思います。
みのわ 私も今村さんと同じ想像をしています。10年間全く会わなかったけれど、訪ねて行けた子なので。どんな別れ方をしたのかも気にはなりますけど。最後、彼女が何か言いそうに……息を吸って終わるじゃないですか。あれも気になりました。
廣田 ラストシーンで春と対峙した吉沢さん演じる父親は、あの時にやっと記憶の中の5歳の頃の春と今の春とがつながったような表情でお芝居をされていて素敵でした。
栗原 ちなみに映画の中でお父さんの働くカフェは、実在(LITTLE SPICE THE CAFÉ ミライ)しますよね。機会があったら聖地巡礼してみては?
では、次の作品『forget-me-not』はいかがでしたか?
忘れてしまうのはその程度
という価値観を変えられた気がした
みのわ これは3本の中では一番好きでした。時代を切り取っている感があって、今ならではだなと。私が暮らしている街も昼と夜の顔が結構異なるので、この作品に登場する呼び込みをしていた3人のようなお姉さん方を夜、見かけたりすることもあるんです。でも彼女たちのその先を見る機会というのはないので、ガールズバーってこんな風なんだと思いました。そしてこの2作目を観て、この映画全体で何が言いたいのかがふんわり伝わってきたように思います。つながりたいけどうまく繋がれない。忘れないで欲しい、認めて欲しい、そんな声が聞こえるような気がしました。
ラストシーンは、あるあるだなと思う部分もありましたね。入ってくるもの(情報)が多すぎて、残りづらい。よほど意識しないと記憶にとどめておくことが難しいなということは、自分の生活においてもよくあることなので(笑)。逆に昔の記憶は消えずになぜか鮮明に残っているということもあるので、本当に生き方が難しい時代を象徴するような作品だなと感じました。普段、整理収納アドバイザーとして意識しているほうだとはいえ、改めて入れるもの、留めるものを意識したいなと思わされました。
今村 私も実は3作品の中で一番印象に残った作品でした。君島さんというお客の一人を3人は、なんだかんだ成り行きとはいえしっかり手を合わせて見送ったのに、ラストは……。
私、すぐ人の顔を忘れてしまう方なので、私だったらあるあるかもしれないけれど、彼女たちのような若い子たちが、あんなにサラッと忘れちゃうなんて……。これを観ていろいろなことを考えさせられました。忘れてしまうこと、一人で亡くなることなど、自分の暮らしや周りの人のことともダブらせて思うところがありました。
廣田 私も作品と自分を照らし合わせながら、映画を観ましたし、お二人の感想も興味深く聞かせていただきました。私はこれまでは大切なことなら憶えているだろう、忘れてしまうのはその程度のことだったのだろうと比較的ドライに思いがちでした。でもたしかに彼女たちが火葬場で君島さんに手を合わせていたり、忘れないよと言っていた時は心の底からそう思っていたんですよね。少しこれまでの価値観や考え方を変えられた気がしました。
栗原 私は最近になって、どちらかというと君島目線で感じたことがあるんです。ミカちゃんにとっては太客だった君島さんが、彼女にメッセージを残したかったという気持ちはわかるとして、彼のメモには3人の名前が書いてあったんですよね。なんでだろ? やっぱり君島さんの本当の寂しさがそこにあるような気がしたというか。ミカちゃんのために2人の名も記したのかとか、誰目線で見るかによっても気になるシーンが違うなぁなんて思いました。
上映期間のキャストのアフタートークでも度々お話がありましたが、ガールズバーの呼び込みは、実際に街で声を出して呼び込んでいる人たちのイントネーションを真似して演じたそです。先日、秋葉原方面を夕方歩いていたら、あの独特のイントネーションでした!
廣田 外山監督にとっては、現代を生きる若い女性をコメディタッチで描くというのはチャレンジだったとうかがいました。
みのわ この映画を観て、身寄りのない方が亡くなった時の最期を知りました。例えば役所の方でああいうお仕事をされている人がいるんだと知って驚きました。
栗原 ああいう役やああしたエピソードがあることで、これが私たちの日常と地続きであるということも改めて思わされますよね。
では、最後の問題作、『名前、呼んでほしい』について語っていきましょう。
廣田 大人の恋愛ですが、最初に観た時は自分と年代が近かったこともあって、一番ガツンと来るなという思いで観ました。問題のラストシーンについて、初めはとてもマイナス派でした。「おーいっ!!」ってツッコミを入れたくなったというか。でもあれはそうじゃない一面もあるのだと聞いて再び観た時には、たしかに端々に涼太にも寂しさがあった、傷ついてもいるんだなというところが見えてきました。最初にマイナスに振り切っていた感情のバランスは少し変化していきました。
みのわ 私はあのラストシーンは「何やってんだ涼太!」 でしたよ。特に印象に残ったのは田中麗奈さんが演じた沙穂の表情ですね。表現が細やかで、観ているだけで心がキューッとなりました。家族でお鍋を食べている時も、スマホのメッセージを見た時も、子どもが帰ってきて振り向く時も、どれも細やかで台詞がなくても、どうにもならない孤独感が伝わってきて素晴らしいなと思いました。この作品が一番好きというか、気になる作品にならなかったのは、どうしたっていい方向に転がらないことに時間を費やしちゃっているところかなと思います。この年齢になってくると「寂しいのはみんな一緒だから。寂しくない人なんていないから」って思っちゃうところがあります。寂しいからといって、それってどうなのよと開き直る年代なのでね。あんな旦那さんなら次の人生考えればいいんじゃない、なんて野暮な考えも浮かんだりして。本当に言いたいことはそういうことじゃないんだとも思いますけれど(笑)。
一日だけ夫婦になるという提案がありました。あの提案は別れが目の前にあるからこその気遣いがありつつの、なりきりみたいなものが見えて、やっぱり終わりがあるから輝くんだよね、などとも感じました。それを普段から出来ればいいんですけどね。
あと、「名前呼んでほしい」というタイトルですけど、最後に涼太が沙穂の名前を間違えないでくれて良かったなぁと思いました!!
栗原 たしかにあそこで名前間違えたら、全然トーンの違う映画になりますよ!(笑)。

この作品ではフィクションだけど、
世の中には結構こういうことが身近にある
今村 みのわさんの視点、面白いです。でも私も観ていて、名前呼んでほしいと言われてどうするのかな? 呼ぶの、呼ばないの、どっち? というのは気になりました。名前を呼んでもらったことで、彼女は終止符を打てたのかなとも思いました。不倫かぁ…と思いながら観始めましたけど、結構日常でこういうことってあるんですよね。子どもたちのママ友、パパ友の間にも似たようなことがあったと噂に聞いたことがあったんです。この作品ではフィクションだけど、世の中には結構こういうことが身近にあるんだよなと思っちゃいました。
それからこのタイトルを改めて見るにつけ、ママになった時に、〇〇ちゃんのママって呼ばれるのが当たり前の世界というのを私自身も経験しましたし、社宅に入った時もまだ子供がいない時に、近所のお子さんから「誰のママなの?」と聞かれたことがあったなと思い出したんです。下の名前なんてほぼ知られていなかった時期がありました。この感覚って女性ならではなのかなと思います。
田中麗奈さん演じる沙穂も、ご主人があんな感じじゃなければ、〇〇ちゃんのママと言われても寂しくなかったと思います。
栗原 これもアフタートークで何度かお話されていたのを聞いたのですが、あの鍋のシーンは鍋を食べているという簡単なト書き以外はほぼエチュードで出来上がったそうです。
みのわ えぇー、すごいー!(驚)
今村 信じられないー(驚)
みのわ 鍋の具を旦那さんがまだカタいよみたいに言った時の沙穂ちゃんの顔とか、なんかすごかったですよ。こんなことってあるの? と思いながら観てたりもしたけど、今村さんからさっき聞いて、実際にもあるんだーって思っちゃいました。
今村 噂でしか聞いていなかったけど、実際に引越してっちゃったから、本当だったのかなぁ。先ほど、答えがない、どんな解釈をしてもいいんだから……という話題がありましたけど、答えのないことを考えたり、問い続けたりするのにも気力や体力を使うんだなぁと3作品を観て感じちゃいました。だから私は2本目のあのちょっとコメディタッチな作品が観やすいと感じたのかもしれません。
栗原 答えを見つけなくちゃいけない症候群みたいなのは現代病、社会病だよななんて感じもしますよね。廣田さん、ここまで参加されてみていかがでしたか?
廣田 ひとつの映画作品に対して、こんなにも豊かな感想を聴けるなんて! 皆さんがそれぞれに作品から何かを受け取って感じてくださっているんだなと正直驚きましたし、感動してしまいました。
みのわ 外山監督の作品は、普段見られない世界をドキュメンタリーのように見せてもらえる気がして、とっても興味深いです。
今村 感想を伝えたり、書いたりするのは苦手なんですけど、こうやってお話ししながら作品を思い返せるのはいろいろな意見が聞けて楽しかったです。
栗原 SNSで上手に感想をつぶやいたり、文字にしたり出来る人もいますけど、こんな風に誰かの感想を聞いて、思いがつながったり、私もそこ気になってたとか、そういえば……と感想が膨らんでいくのもいいですよね。感想シェア会、ぜひまたやりましょう。ご参加ありがとうございました。

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