誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。
今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、企業のDXをSalesforceで伴走支援する合同会社UndertheEdgeの代表 井口賢(Ken)さんと友香(Yuka)さんご夫妻。お二人それぞれの忘れられない味と大切にしたい食への思いをうかがいました。
-- まずはKenさんの忘れられない味を教えてください。
Ken 一番初めに思い浮かんだのは、ばあちゃんの作る「鯛のすまし汁」です。ばあちゃんは現在98歳で、今は調理場には立てないので、もうあれを飲むことは出来ないのだろうなと。
-- おばあさまは料理上手な方なのですか?
Ken 料理上手かと聞かれれば、そんなに好きではなかったんやないかと思います。僕はばあちゃんっ子で、小学生の頃は、毎年夏休みの2~3週間、岐阜県にあった母方の祖父母の家に行くのが恒例でした。そういえば僕がいるその期間、朝ごはんは必ずパンの上に目玉焼きを乗っけたものが出て来たんですよね。子どもだったから毎朝同じメニューなのが嫌になってたりしたけど、今思うとアレも美味かったなあって。
それ以外、ばあちゃんが作ってくれたメニューはほとんど覚えてないんですけど、なにかの時に作って出してくれた「鯛のすまし汁」がすごく美味しかった記憶があるんです。
大人になり僕が22~23歳の頃に、ばあちゃんが岐阜県から大阪に越してきたタイミングで、ふと思い立ってばあちゃんにあの「鯛のすまし汁」を作ってもらいたくて、スーパーで鯛を買って帰ったことがありました。
-- Kenさんが自ら、食材を買って持参してリクエストしたんですね。その時のおばあさまの反応覚えてます?
Ken どやったかなぁ? ばあちゃんの反応というより、おかんがびっくりしてたんですよ。「え、あんたそんなにあれ好きなん?」みたいな。「お母さんは、あれの作り方わからへんからな」って言うて……。そうそう、それでおかんがばあちゃんに「あれ作ったって、Kenが食べたい言うてんねん」と伝えてくれて、しゃあないなぁという感じで作ってくれました。
-- 久しぶりの「鯛のすまし汁」は期待通りの味でしたか?
Ken そうそう、これこれ! ってなる期待通りの味でした。透き通ったすましの塩加減が良くて、飲むとほぐれた鯛の身が一緒に口の中に入ってきてなんとも美味い。
-- それにしてもおばあさまは嬉しかったでしょうね。孫からリクエストされて作るなんて……。
Ken そうですかね? 今度聞いてみようかな。ばあちゃん子だといいましたが、実は子どもの頃は怖かったんですよ。うちのばあちゃん、彫が深くて、鼻が高くて外国人みたいな顔で怖かった(笑)。じいちゃんは僕に甘々だったので、その分、ばあちゃんはしつけとか厳しめだったんだと思います。
でも小6の夏休みに、「中学からは忙しくなるからもう来年から来ないよ」みたいなことをばあちゃんに言ったら、これまで厳しいと思ってたばあちゃんが突然泣き始めて、「今までなんもしてやれんくてごめんな」みたいなこと言われちゃって……。そこから、ばあちゃんを大事にしようって思うようになりました。
そんなばあちゃんは神戸出身で、いずれ関西に戻って来たいという思いがあったこともあり、昨年、岐阜から母のところへ移り住んできました。だから今は月に一度くらいのペースで会いに行ってます。元気で長生きでなんでもよく食べるばあちゃんは今年99歳。100歳過ぎても元気で生きてくれると思います。
「鯛のすまし汁」はそんな思い出補正もあって忘れられない味になってるのかもしれません。
-- お母様は作れないとおっしゃってるそうですが、Yukaさん今のお話を聞いていかがですか?
Yuka 「鯛のすまし汁」作ってみたいですね。まずは家で作ってみて味見をしてもらおうかな。どんな塩使ってたのか? とか気になります。
Ken たぶん特別なものは使ってないと思んやけどなぁ(笑)
-- 今度はYukaさんの思い出の味、忘れられない味を教えてください。
Yuka わが家は私が小4の頃から母子家庭で母が忙しかったので、母が作る料理の記憶はあまり思い浮かばなくて……。それよりは、週末に家族4人でファミリーレストランや居酒屋レストランでたらふく食べる食事時間が楽しかったことを思い出します。特に「ボンズ」は大人も子どもも楽しめる和食レストランでした。
-- 「ボンズ」って初めて聞きました。チェーン店なんですか?
Yuka 「白木屋」みたいな、なんでもあるお店でした。
Ken 僕らが中高生の頃はあちこちにあったよな。それこそ「ほっけの開き」もあれば「バターコーン」も出てくるし。和も洋も酒もジュースもあるようなお店です。
Yuka メニュー数が多くて、家族で行く居酒屋レストランという感じでした。
Ken 今、調べてもあんまり出て来ないんですよね。
-- Yukaさんのお気に入りメニューは何でしたか?
Yuka お気に入りというか、バターとつくメニューは全部食べたことがあると思います。だから今、私がつくる料理、バターを使う率が高いですし、ブラックペッパーをきかせた料理が多いのもたぶんあの頃から……。
Ken 「ボンズ」きっかけなんや!
Yuka 付け合わせにはこれが合うとか、そういうのはあの頃の外食から学んだ気がしますね。肉には焦げ目が必要だし。
Ken 「ボンズ」のサイコロステーキあったな!
-- ご夫婦にとって忘れたくない味もあるとうかがいました。
Ken 子どもたちが実家に遊びに行っていて、二人きりで夜ご飯を作って食べたペペロンチーノが死ぬほどうまかったんです。
Yuka そうやな。別に凝ったことは一つもしていないですけど。
-- なぜ美味しかったのでしょう。ぜひ分析して教えてください。
Yuka わが家は5人家族なのですが、パスタって5人分作ろうと思ったら大味になってしまうじゃないですか。そもそも家で2人でご飯を食べるというのはとてもレアなことなんです。あの日は、買い物も一緒にして、家に帰ってキッチンに並んで2人で丁寧にちゃんと作ったんです。
Ken 鷹の爪も輪切りにしてオリーブオイルで炒めてな。
Yuka その工程を含めて久しぶりに2人で作って食べたという特別感もあったからか、本当に美味しくて。「お店で食べるくらい美味しいな」と言いながら食べたことがとても印象に残っています。
Ken 5人分のパスタとなると、麺を茹でてソースをかけて……にならざるを得ないし、小さい子もいるのでメニューも限られるし。
-- 2人でそのペペロンチーノを作ったのは、いつ頃のことですか?
Ken 1~2年前の春休みだったかな。子どもたちは彼女の実家に預かってもらってたんです。
Yuka 出張かなにかのタイミングだったと思います。記念日とか特別な日というわけではなかったよな。
Ken なんかちょっとずつ記憶がよみがえってきたんやけど、電車でどこかに出かけた日やったな。
Yuka 外食もいいけど、たまには家で作って食べるか……という話になったんよな。
Ken その方がゆっくりできるし。
-- せっかくなのでお買い物から振り返りましょう! 美味しいペペロンチーノが出来るまで、何を買って、どんなこだわりで作ったのですか?
Yuka ベーコンは買ったな。ニンニクも鷹の爪も。
Ken パスタもこだわりの麺を選んだよな。
Yuka オリーブオイルは、いつも買ってるお気に入りのものを使いました。
Ken 家の裏にある行きつけのスーパーで、あの日はもしかしたらワインか何かも買ったかも。
-- さあ、いざ実食! お二人にとってどんな味のペペロンチーノだったのか教えてください。
Yuka このアンフォゲ飯の話を聞く前から、また二人で料理して食べたいねという話はたまにしていました。出張先などで二人で食べに行ったりすることもあるし、お客様との会食の機会もよくありますけど、案外、高級なお店で食べるより「二人で作ったあの時のペペロンチーノが美味しかったなぁ」と思い出すことが多いんです。
Ken 作るプロセスや、その時間も含めてなんか良かったんですよね。あれ以来、そういう機会、なかなか持ててないよな。
Yuka ない(キッパリ)。あ、旅先ではあったかな。一棟貸しの宿のキッチンで。
Ken 家族で淡路島に行った時、あれも楽しかった。やけど、二人でゆっくり料理というのはあれ以来ないな。ペペロンチーノは忘れられないではなく、忘れたくない味やな。
Yuka またああいう時間も作りたいな。
-- 食そのもの以上に、それを誰とどんなシチュエーションで食べたかが大切なのかもしれませんね。お忙しいと思いますが、また二人でキッチンでお料理してゆっくり食べる時間、作ってくださいね。今日は素敵な家族のお話をありがとうございました。
イラスト/Miho Nagai
合同会社UndertheEdgeとは
Salesforceの導入支援やAppExchangeアプリの開発を行う企業。さまざまな業界の導入経験を基に、顧客の課題解決を目指した提案や設計を提供し、Salesforceを活用した効率化をサポート。自社開発のオリジナルアプリも展開しており、2024年10月にはSalesforce内の画像や電子書類をレコードと紐づけてフォルダ管理できる「Folders」を発表。
公式サイト https://www.under-the-edge.com/
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