私のアンフォゲ飯 PR

あの暑かったギリシャで毎日食べたグリークサラダ

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、朝ドラの毎日レビューをはじめ、映画・演劇・ドラマなどエンタメ分野でご活躍のフリーライター・ノベライズ作家の木俣冬さん。蜷川幸雄さんとの思い出と海外で食べた記憶に残る一品についてお話しいただきました。

-- 木俣さんにとっての忘れられない味、鮮明に記憶に残っている食べ物のお話、聞かせてください。
木俣 ちょうど懐かしいものが出てきたので持ってきました。今から21年前の「IMPRESSION」2004年8月号(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル.inc)です。ここに掲載するレポート記事を書くお仕事をいただき、ギリシャまで行かせてもらえた時のものです。蜷川幸雄さんが手がける舞台『オイディプス王』のアテネ公演の取材でした。

-- わぁー、アテネに実存する古代劇場で、蜷川さんがギリシャ悲劇を演出された、あの時ですね! 
木俣 とてもラッキーだったなと思います。2004年のアテネ五輪の一環で実施された文化イベントとして蜷川さんがギリシャ政府から依頼を受けて実現した公演で、オイディプス王を野村萬斎さん、イオカステを麻実れいさんが演じた作品です。

-- ヘロデス・アティコスの野外劇場、木俣さんはどこから作品をご覧になったんですか?
木俣 割と上の方から観ましたが、どこからでも舞台がよく見える造りでした。歴史ある建造物がこうして残っていることがすごいですよね。上演中に舞台の背後から月が昇ってきて、それも演出のひとつのようで素敵でした。

-- 忘れられない食べ物は、そのギリシャ・アテネでの記憶でしょうか。
木俣 ギリシャではひたすら毎日グリークサラダを食べた思い出があります。ほかには何を食べたのか、全く覚えていないんです(笑)。というのも、私はほぼ一人行動だったので、朝も夜も一人で食事をすることになるんですが、料理の内容も量もわからないので、気軽に入れそうなお店で、安くてわかりやすいという理由でグリークサラダを毎回注文していました。
ほかに食べたいギリシャ料理があったわけでもなかったから、ただただそれを食べていればいいかなと。
いま、思えば、原稿を書く仕事で行ったのに食事は自腹だったのはなんでだろう?(笑)私が単独行動を勝手にしていたのかもしれません。飛行機代や宿泊費を出していただいていて、生涯一度くらいの貴重な体験をさせてもらって、原稿料までいただいて。こんなラッキーなことがあっていいのかと思ったので、いただいたギャラで、その年の秋、蜷川さん演出の英国版『ハムレット』公演をイギリスのプリマスまで向学のために観に行きました。話が逸れてますね、すみません。

-- 劇場と木俣さんが宿泊していた場所は近かったのでしょうか? 
木俣 宿から劇場へは歩いて通った記憶があります。ギリシャはとにかく暑いんです。今でこそ日本も暑いので、水を持ち歩かないと危険という認識になっていますが、20年前はそこまで習慣化していなかったですよね? でも、ギリシャはとにかく水を持ち歩かないと命に関わると言われていて、「外に出る時には必ず水を持つこと!」とアドバイスされていました。ただ、ジメっとした湿気の多い日本と違い、カラッとしていて、灼けるような暑さという表現が正しいですね。
当時のレポート記事にも書いたのですが、蜷川さんがギリシャの気候を踏まえて、「古代ギリシャで殺人が行われたら、すぐに血が乾いてしまうような土地柄であることを記憶に持って演じて欲しい」と話されていたんです。あの日差しの強さと空気の乾いた感じを実体験できたことは有意義でした。その暑くて乾いた土地で食べたグリークサラダのひんやりした感じと青い香りがギリシャの記憶です。

-- グリークサラダというと入っているものは……。
木俣 キュウリとトマト、タマネギ、オリーブに羊と山羊のミルクで作られるフェタチーズが入っていて、味つけは塩とオリーブオイルとオレガノかな。家でも簡単に作れそうですけど、作ったことはないですね。
でもギリシャでは、あのキュウリのみずみずしさと、チーズの塩気が良かったんでしょうね。今年は日本も6月からすでに暑いので、あのさっぱりしたサラダが無性に食べたくなっています。

-- どんな器、どういうサイズ感で出てきたんでしょう。大きい皿に、小鉢がセットされて出てくる感じでしょうか。
木俣 私が行ったところは、安い食堂みたいなところだったので、シンプルな白い器で給食みたいにポンと出された記憶です。
滞在中一度だけ、『オイディプス王』を翻訳した山形治江先生に食事に連れていっていただきましたが、正直そこで何を食べたのか全く思い出せないんです(笑)。忘れられない食の記事なのにディテールを覚えてなくて申し訳ないんですが、演劇が目的の旅かつひとり旅だと食事が二の次になってしまうんですよね。

-- グリークサラダ、合計で何食くらい召し上がったのでしょう。
木俣 自分で書いた記事を確認したら、ギリシャにはアテネ公演の初日前のお稽古から最終日まで滞在していたので、3泊4日はいたはず。何かと頼んでいた記憶です。

-- 木俣さんは、蜷川さんの舞台のパンフレットに記事を書かれたり、書籍『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画、構成など、さまざま作品で蜷川幸雄さんとお仕事をされていらっしゃいますよね。
木俣 
映画やドラマや演劇やアニメの取材の仕事をしていたのですが、2003年の藤原竜也さん主演の『ハムレット』からご縁があって、蜷川さん作品のパンフレットの編集に携わるようになりました。蜷川さんが私の書いた稽古場レポートを気に入ってくださったのがきっかけだったのかなと思います。その流れで『オイディプス王』のパンフレットもやらせていただき、アテネ公演の翌年、2005年は蜷川さんの70歳記念の作品「NINAGAWA VS COCOONシリーズ」が上演されました。その4作品のパンフレットを全て担当させていただきました。振り返ると、さまざまなことにチャレンジ出来た時期だと思います。

-- 私が木俣さんのお名前を知ったのは2006年の藤原竜也さん主演の『オレステス』のパンフレットでした。演劇のほかにも映画、アニメ、ドラマなどさまざまなエンタメで活躍されていて、最近では、堤幸彦監督がユキヒコツツミ名義で製作された映画『THE KILLER GOLDFISH』のパンフレットも手掛けられていますね。

木俣 堤監督とのご縁も、ドラマ「ケイゾク」(99年)でナイロン100℃のみのすけさんや大倉孝二さんを起用されていて、堤監督はセンスがいいと思ったのがきっかけです。特定のジャンルや共同体のような場所に定住し続けるのがあまり得意ではないので、興味の赴くままふらふらしていて。結果的にいろいろなジャンルに携わってきたことが私の仕事のベースになっています。例えば舞台『身毒丸』のパンフレットに、庵野秀明監督からメッセージをいただいたとき、蜷川さんに喜んでもらえたようです。そのように演劇と違うジャンルの方をおつなぎすることや、いわゆる演劇評論家とは違う視点を面白がっていただけていたのかなと思います。 

-- 木俣さんのインタビュー記事やコラムが大好きなので、これからもさまざまなジャンルでのご活躍を楽しみにしています。暑い日がまだまだ続くので、さっぱりしたグリークサラダで水分補給、塩分補給したくなりました。ギリシャ料理もぜひご一緒したいです!! 貴重なお話をありがとうございました。

イラスト/Miho Nagai

木俣 冬(Fuyu Kimata)さん
テレビドラマ、映画、演劇に関する取材、評論などを行う。主な著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』(キネマ旬報社)、『ケイゾク、SPEC、カイドク』(ヴィレッジブックス)。企画、構成した書籍に『蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)、『庵野秀明のフタリシバイ〜孤掌鳴難〜』ノベライズに『ちょっと思い出しただけ』(脚本:松居大悟 リトルモア)、『小説 嵐電』(脚本:鈴木卓爾、浅利宏 宮帯出版社)、『コンフィデンスマンJP』(脚本:古沢良太 扶桑社文庫)、『連続テレビ小説 なつぞら』(脚本:大森寿美男 NHK出版)、『大河ドラマ どうする家康』(脚本:古沢良太 NHK出版)などがある。ダイヤモンド・オンラインの「続・続朝ドライフ」にて毎日朝ドラレビューを更新中。

 


     

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