私のアンフォゲ飯 PR

仕上げはおまかせあれ! の炊き込みご飯

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誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。

今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、ミュージカルやイベントの企画・プロデュースなどを手掛けるTheatre at Dawn(シアター・アット・ドーン)代表の平野美奈さん。幼い頃に作って食べたあの味と体験についてお話をうかがいました。

-- 平野さんの忘れられない味をお聞かせください。
平野 私の両親は共働きだったので、学校が終わり、学童保育から帰ると家で留守番をするのが日課でした。月末はお母さんの仕事が忙しく、帰りが遅くなることが多かったんです。そんな時は、夕飯を温めて食べるというミッションが私に課せられていました。なかでもよく憶えているのが炊き込みご飯です。ただ電子レンジで温めて食べる食事ではなく、ご飯が炊けたら炊き込みの具材を混ぜて作るという工程があったので、子どもだった私にとってはちょっと特別なメニューでした。

-- ぜひ詳しい手順を教えてください。
平野 
炊飯器でご飯が炊けたら、母が作っておいてくれた冷蔵庫にある炊き込みご飯の具を出してきて、炊飯器にどさっと入れる。そして蒸らす。10分待つ。そして混ぜる……という手順でした。私にとってはそれが料理をしている気になれるちょっとカッコイイ作業で、出来上がると「よしっ!」と自慢できる時間だったんです。子どもでしたから、混ぜ方だって上手ではなかっただろうし、ご飯粒もふっくらじゃなく潰れたりしていたんじゃないかな、たぶんべちゃべちゃの仕上がりだったと思うんです。でもそれが本当にご馳走で、おいしいおいしいとたくさん食べた記憶があります。
帰宅したお母さんに得意気に「おいしかったよ!!」と報告すると、「よーく食べたね」と褒められました。

-- 仕上げを任された名誉な気分、みたいなものがプラスされていたのかな。もりもり食べてるシーンを想像しちゃいます。改めて、お母さんの炊き込みご飯についてうかがいます。
平野 具は、しいたけ、たけのこ、にんじん、こんにゃく、鶏肉、ひじきあたりかな。それらを醤油で煮たものがザル付きのボウルに、ラップをかけた状態で冷蔵庫に用意されていました。
お母さんは仕事も家事もしっかりこなすきちんとした人。わが家は父がやさしい担当、お母さんがきちんとしましょう担当だったと思います。前の晩にその炊き込みご飯の具を煮ているところを見ていたし、仕上げの手順もしっかり教えてくれていました。……あぁそうだ、わが家にはホワイトボードがあってそこに書いてくれていたかもしれません。
炊き込みご飯の作り方の中では「蒸らす」という工程が気に入ってたんですけど、その蒸らしている時間は決して混ぜない……というテクニックに子どもながらにワクワクしていたんですよね。仕上げに紅ショウガを乗せて美味しく食べていました。

-- お母さまが翌日のために準備するところも見ていたんですね。ちなみにお母さまの口グセって覚えてますか?
平野 
えーっ、なんだろう? 北海道弁で「あずましい」という言葉をよく言ってたかも。「あずましくないでしょうに……」みたいな使い方?
(「あずましい」……ここちよい、落ち着く、居心地がいいなどの意)

-- その並べ方じゃあずましくないでしょうに……みたいな使い方?
平野 
そんな感じです! 言われてた、言われてました!! やっぱりお母さんはきっちりしていることを大事にしている人だったのかもしれませんね。
たぶんきっちりした性格は6歳下の妹が継いでいて、私はとにかく自由な子でした。母親が帰ってくるまでは、私自身が決めて過ごせる自由な時間を満喫していました。
でも世間のイメージとか、お母さんからするとそう思ってはいなかったみたいです。雪が降りしきるなか、お母さんが夜帰ってくると、家の前に私の小さな足跡だけがぽつんぽつんとついているものだから、それを見て涙が出たというんです。この話は、隣町に住んでいて、よく私たちを預かってくれていたお祖母ちゃんから聞いたことがありました。お母さんからすると「申し訳ない」という思いがあったみたい。
2025年11月に再演したミュージカル『You Know Me~あなたとの旅~』に、作者の高橋亜子さんご自身がモデルとなっている千明という登場人物がいます。私は結構、千明に感情移入したんですが、それは働く母の元で育つ娘という共通点だったかもしれません。でもやっぱり「寂しい」という感情ではなかったし、亜子さんも当時を振り返ると「寂しいとか悲しい気持ちばかりではなかった」と仰ってたのが印象に残っています。ご覧いただいた方からも、登場人物にご自身の境遇を重ねて、私も千明の気持ちがわかる、母の気持ちに共感する……と連日たくさんの感想をいただきました。

-- 私も鍵っ子だったので、ちょっとわかります。実は子どもは子どもで案外たくましくて、自分で時間をプロデュース? してそれを楽しめたりもするんですよね。具体的にはどんな風に過ごしていましたか?
平野 
お友だちの家に遊びに行くこともあったし、わが家にもよく友だちを呼んでいました。ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ねてトランポリンしたり、家の中でドッジボールしたり、水鉄砲しちゃったり(笑)。それから、家の前でいつも待ってくれている近所の野良猫をお家の中にこっそり入れて遊んだりもしていてとにかく自由でした。
なかでも一番仲が良かったのはアメリカンショートヘアの「なごやん」。みゃーと鳴くから「なごやん」と名付けていました。

-- そんな小学生時代を過ごしていた平野さんが舞台(ミュージカル)に出会ったのはいつなのでしょうか。
平野 
小学3年生の時、お母さんが連れて行ってくれた劇団四季の『キャッツ』がミュージカルとの出会いです。同じクラスに観劇した子がいて、彼女が『キャッツ』の曲が入ったテープを持っていたのでずーっと一緒に聞いたり歌ったりしていました。
札幌のキャッツシアターで観たその1年後に、今度は同じく劇団四季の『オペラ座の怪人』を観てドはまりしました。トータルで5回観ました。
1993年に札幌に劇団四季初の専用劇場として誕生した「JRシアター」。そこで閉館までに上演された全20作品は全て観ています。
せっせとファンレターを書き、CDを繰り返し聴く熱心なファンでした。

-- ファンレターを書くほどご贔屓のキャストがいらっしゃったんですね!
平野 
『夢から醒めた夢』でピコ役を演じた保坂知寿さんが大好きになって、よくファンレターを書いていました。保坂さんの歌声やコメディエンヌぶりが大好きで……。
後に(2018年)、その保坂さんとお仕事をご一緒できる人生……あの頃の自分に教えてあげたいです!
東京に出てきて、OLをしながら朝活に参加し学ぶ中で、観劇好きの自分がわくわくできるイベントを企画・主催するようになり、今に至ります。流れに身を任せながら面白そうなことにトライしてみる……、それこそいたずらしてるくらいの気分でやってきました。

-- お母さんが帰ってくるのを自由に楽しみながら待っていたあの頃の時間と通じていますね。
平野 
そうなのかもしれません。2025年は比較的ストイックに仕事と向き合ってきたので、次の年はわくわくを積み上げながら笑顔でまた新しいことにチャレンジしていきたいなと思っています。

-- 最後にもう一つだけ。今、ご自身で炊き込みご飯を作ることってありますか?
平野 
あります。大好きです!! 母の味に似ているのかな? 私の場合は、あと混ぜじゃなくて炊く時に具を入れるいわゆる炊き込みご飯です。私が作った炊き込みご飯をお母さんに食べてもらったことは……ないですね。考えたことがなかったなぁ。今度作って食べてもらおうかな。

-- ぜひぜひ年末年始に! きっとお母様喜ばれますよ。その時の感想もぜひ聞かせてくださいね。

イラスト/Miho Nagai

平野美奈(Mina Hirano)さん
札幌市出身。米国ハイデルバーグ大学にて人類学を専攻、スペイン語を副専攻。人類の文明と多様性を学ぶ。東京・丸の内での外資ファンド秘書、街づくりの企画運営会社ディレクターを経て独立。秘書時代に朝活を通じてサードプレイス活動の面白さを知り、朝活コミュニティに向けた企画を自ら行う。その後、子供の頃から好きだった舞台鑑賞を広めるイベントプロデュースを2012年より開始。2018年 Theatre at Dawn, llc(シアター・アット・ドーン合同会社)を設立。イベント、撮影、配信、映像編集、Webサイト制作、ファンクラブ運営、エージェント業、舞台制作、舞台広報、翻訳など活動の幅を広げている。初めての劇場体験は(たぶん)札幌こぐま座。初めてみたミュージカルは1992年『CATS』札幌公演。Suageのスープカレーが好き。
公式サイト Theatre at Dawn

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