三階席から歌舞伎・愛 PR

十二月大歌舞伎_鬼と技術の伝承に興奮

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

歌舞伎座で「十二月大歌舞伎」を観てきました。
今月の一番は、第三部の「信濃路紅葉鬼揃」(しなのじもみじのおにぞろい)です。
中村七之助さん演じる武士、平維茂が信濃の戸隠山で紅葉狩をしている上臈(じょうろう・女中の役職名のこと)ご一行と行き合い、酒宴に招き入れられて、酔って寝てしまう。実はその坂東玉三郎さんをはじめとする上臈たちは、獲物を狙う鬼女だったという話。
寝ている間に、尾上松緑さん演じる山神が出てきて「あいつら鬼だぞ」と忠告するけれど、
酔った維茂は全然起きる気配がない。仕方がなく山神は身を守るための太刀をその場に置いて立ち去って……。
しばらくすると、美しい着物姿から鬼の顔に身形を変えた6人が出てきてずらり。

この作品に目がハートになったのは、なんといっても鼓で田中傳左衛門さんが演奏していること。お囃子の奏法を決める作調というのも傳左衛門さんが担当されています。

そして目を引いたのが、玉三郎さんを筆頭に6人の鬼女が登場するのですが、
一人が目立つのではなく群舞であることが素晴らしかったのです。
玉三郎さん以外は、成駒屋の中村三兄弟、橋之助、福之助、歌之助さんに、尾上左近、上村吉太朗さんという若手です。
玉三郎さんの技術を伝承するという思いがこの構成にも詰まっているようで、ジーンとするというか興奮しました。
真っ赤な毛を携えて、六人が連なったり、輪になったりする舞は見ごたえがありました。
もちろん、鬼がやられる時の玉三郎さんの口元なんかは、もういかにも化け物のそれで、オペラグラスが離せません。あ、マニアックですみません。
七之助さんが立役というのも珍しいですよね。

第二部の「男女道成寺」(めおとどうじょうじ)は中村勘九郎さんが白拍子花子、尾上右近さんが白拍子桜子 実は狂言師左近を演じます。
後半、左近を演じる右近さんが(まぎらわしい)、おかめと太鼓持ちとお客の三つの面を、代わる代わるに口にくわえて着けながら踊るのが見事でした。くるっと回って振り向くと違う顔、また違う顔というのが、見ていてわかりやすく楽しいんですよね。

第二部のもう一つの演目は「ぢいさんばあさん」。森鴎外原作の新歌舞伎です。
普段、この手の作品はあまり好まないタイプなのですが、十二月大歌舞伎は第一部も早替わりの多い「新版 伊達の十役」(しんばんだてのじゅうやく)があったりと、派手な演目が続いていたので、対照的にゆったりとして登場人物も、主に出てくるのは美濃部伊織の中村勘九郎さん、伊織の妻のるんを尾上菊之助さん、下島甚右衛門を演じる坂東彦三郎さんの三人とシンプル。

伊織とるんは仲の良い夫婦。親族の不祥事から離れ離れになった挙句、単身で暮らす京都で、伊織は買った刀で人を斬ってしまい、越前へお預けの身になってしまいます。
仲良し夫婦は長い間離れ離れの日々がつづき、最後は三十七年ぶりに再会を果たします。

序幕では細かった桜の枝が立派な幹になり、新しかった家はすっかり汚れたり、古びていたりで、長い年月が経過したことがわかるという美術にも注目。
もちろん、伊織とるんも白髪のぢいさんばあさんになって出てきます。
ばあさんになった菊之助さんは、声や体の動きなどもすっかり年寄り感が出ていました。

普段だったら、少し眠気に襲われたりしそうなものですが、なにせ派手なものが続いていたので、心穏やかに観れてジーンと来てしまったりしたのです。
演目のバランスによっても見方が変わるというのは、自分でも意外な発見でした。

コロナ禍で、団体客などがいない歌舞伎座。
お客様に見応えのある演目を準備してくれているのかなと思います。
今年もほぼ毎月観ることが出来たことに満足ですが、やはりもう少し活気が戻ると嬉しいなと思います。
そして、早く大向う(〇〇屋!)の掛け声が戻ってきて欲しいと思っています。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「十二月大歌舞伎」公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。