歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。
三月大歌舞伎の「新・三国志」で大活躍だった澤瀉屋の皆さんによる四月大歌舞伎の演目は第一部の「天一坊大岡政談」です。
この演目は派手な仕掛けや変わった演出があるわけでもなく、かといって古典でもない、つまり芝居で見せる作品でした。
稀代の悪事を働く天一坊を演じるのは、ご存じ、市川猿之助さんです。
何度も申し上げていますが、私は化け物や悪人を演じる猿之助さんが大好き。
なぜかと問われても、明解な答えは出ないのですが、悪党を演じるというだけでワクワクしてしまいます。
序幕で早くもその悪党ぶりが楽しめます。
小坊主の法澤は天涯孤独の身の上。今は感応院というお寺にいます。
ひょんなことから老女のお三(市川笑三郎)の身の上話を聞き、自分が八代将軍 徳川吉宗の御落胤と偽れる証拠の品、墨付と短刀を手に入れる機会を得ます。
手に入れるために、そして罪を隠すべくでっち上げの証拠を残そうと次々と悪事を働く法澤。
私は決して乱暴な人間でもないし、悪事に手を染めたことももちろんありませんが、
猿之助さんが悪事を働く芝居、ニヤリと殺す場面などは、なぜか爽快、というか楽しい。
もしやちょっと疲れているのでしょうか。いや、違う。猿之助さんの芝居がいいのです。
二幕目に入ると片岡愛之助さん演じる山内伊賀亮が登場。
法澤は墨付と短刀を切り札にして、伊賀亮を仲間に引き入れる。
一度は拒んだ伊賀亮を、器の大きい悪者であるところを見せて誘う感じは、
策士が似合う猿之助さんにぴったり。
ここから法澤は天一坊と名乗り江戸へ向かいます。
そこで相対するのが大岡越前守。
誰もが聞いたことのある名前でしょう。演じるのは尾上松緑さんです。
天一坊が本当に将軍の御落胤なのかを詮議する大岡と天一坊に変わって反論する伊賀亮。
網代問答と呼ばれるやりとりは、今でいえばディベートでしょうか。
テンポよく流れるようなやりとりが印象的でした。
そして、ここでは愛之助さん演じる伊賀亮のほうが論破するのです。
しかし、そこはやはりあの大岡越前守です。
最後はしっかり証拠固めをし、天一坊の悪事の数々をあぶりだし観念させるという
いわゆる勧善懲悪で幕となります。
猿之助さんは、高貴な感じを装う時の声色は細くて高めの声、
本性を出す時は荒めで低めの声。
この演じ分けがさすがでした。
そして後半の猿之助さんにはあまりセリフはありません。
その分、表情の変化でしっかり魅せてくれます。
顔芸、リアクション芸とも言えるかも?
芝居で見せるこの作品は、古典ではないのでセリフも現代調ですし、
大岡越前のような名前に馴染のある登場人物が出てくる作品なので、歌舞伎に馴染みがあまりない人にも入りやすいかもしれません。
春だからでしょうか、今日の三階席は3~4名連れの若いお客さんがちらほらいたようです。歌舞伎座の三階席にも春の訪れ、劇場のにぎわい復活を少し感じられたような気がします。
舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「四月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。