三階席から歌舞伎・愛 PR

孝玉最高!片棒をかつぐの語源を知った_四月大歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

歌舞伎座での「四月大歌舞伎」。
いつもは、中央から上手側で席を取って観ているのですが、今回は、三階の舞台に向かって左側、下手側の席での観劇となり、新たな発見もありました。
よく上手側の御簾の中だったり、舞台端で浄瑠璃の方が演奏されますが、今回は下手側ということで三味線や長唄が、自分の方にストレートに届いて、体に響く感じがしてとても新鮮に感じました。また、舞台を観る視線の方向が違うせいなのかはわかりませんが、ベテラン勢のお芝居になぜか魅了された一日となりました。

昼の部では、最初の演目「一、双蝶々曲輪日記-引窓」(ふたつちょうちょうくるわにっき)が印象に残りました。「引窓」というと、登場人物の中では、写真等で取り上げられる力士の濡髪長五郎の姿を思い浮かべる方も多いですが、今回、私が印象に残ったのは、与兵衛を演じた中村梅玉さんです。

「引窓」というのは、照明が現在のように発達しておらず、月のあかりを家の中に取り込むため、縄をひいて開閉する窓のことです。窓を開けて月の光を入れれば部屋の中は明るくて朝~昼、閉めれば暗くて夜というのがキーになります。

南与兵衛は、町民から代官に取り立てられます。継母のお幸(中村東蔵)の実子の長五郎(尾上松緑)が、大阪で人を殺めて、お幸に会いに来ます。代官に取り立てられた身分であることを考えたら、長五郎を捕まえて手柄にしたいところですが、長五郎の捜索を命じられているのは夜の間だけ。

後妻で南家に嫁いだお幸を思い、長五郎を匿っているのに気づかないふりをしたり、逃げるように丁寧に逃げ道をお幸に教えたりします。あげくのはてに、夜になり代官として長五郎捜索にあたらないといけないのに、引窓を開けて月の光が入ってくるので、もう朝だ、お勤めの時間は終わったなどと言い張ります。
この一連の南与兵衛の、お勤めに励まなければいけないという気持ちと、継母を悲しませたくないという気持ちの間で揺れるところを、引窓を使って表現しているところが一番面白かったです。

南与兵衛を中村勘九郎さん、濡髪長五郎を中村獅童さん、お幸を中村扇雀さんの組み合わせでみたいかなぁなんて思ってみたりもしました。

夜の部は、仁左衛門さん玉三郎さん共演の演目が二つもあります。
玉三郎さんは大劇場からの撤退をほのめかしたりもしていたのでものすごくうれしく思います。今回は仁左衛門さんの悪役もかっこいい役も両方楽しめました。

まずは夜の部「一、於染久松色読販」(おそめひさまつうきなのよみうり)。
惚れた男のために平気で悪事を働く“悪婆”土手のお六を玉三郎さん、亭主の喜兵衛を仁左衛門さんが演じます。夫婦とも、理由は違えど、百両という大金が必要で、死体を使って、油屋から強請り取ろうとします。
油屋に死体とともに、乗り込み、強請るため、お六が悪態をつく場面は凄みがあり、迫力満点。その後、死体が実は仮死状態でお灸をすえたら生きかえってしまい、二人の目論見ははずれてしまいますが、少しも悪びれず、平然としています。この嘘がばれても堂々としている感じが、大物感を感じさせ、芝居をおもしろく感じさせるのだと思います。
最後、店をでていく際には、死体を運んできた担ぎ手がいないので、二人で担いで退場します。有名な場面です。最後まで堂々としています。

「かかぁ、片棒かつげ」と喜兵衛がお六に語り掛け、慣用句の語源も知ることができる最後となりました。花道を二人で籠を担いで退場する様子は、悪役ですが、カッコよさを感じます。「孝玉コンビ」あと何回観れるのでしょうか?
この演目については、他の役者さんで演じられるのが、まだ想像できません。

二演目は、「二、神田祭」です。江戸の庶民の憧れの存在である鳶頭と芸者を仁左衛門さんと玉三郎さんが演じます。まず、舞踊がどうのという前に、お二人の立ち姿を観るだけで、錦絵を見ているかのようで、満足してしまいます。
特に、仁左衛門さんについては、2014年6月に右肩手術から「お祭り」という演目で、舞台復帰された時にも鳶頭を演じられ、その立ち姿のカッコよさに引き込まれ、ファンになりました。私のペンネームの由来にもなっております。舞踊の場面では、玉三郎さんの芸者も艶やかで素敵です。
お二人が舞台上にいるだけで「何も言えねぇ」という感じです。だいぶ古い表現ですが。これも、代わりに誰が演じたら面白いのか、まだ思いつきません。

本日は、中村梅玉さん、片岡仁左衛門さん、坂東玉三郎さんというベテランの方に心動かされた一日でした。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事
「四月大歌舞伎」 公演レポート、舞台写真掲載をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。