三階席から歌舞伎・愛 PR

八月納涼歌舞伎_夏らしく本水が帰ってきた

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

まだまだ新型コロナウイルス感染症は、歌舞伎に影響が出ています。
今月は八月納涼歌舞伎が歌舞伎座で上演中ですが、私が観に行った日も、出演できない役者さんがいて、急遽役替えがありました。
それでも先月の公演中止に比べれば、観に行けたのでラッキーです。
今回は、第二部と第三部を観ました。

第二部で印象的だったのは、
澤瀉十種の内 浮世風呂 です。
なぜか舞踊が好きなんです。

「浮世風呂」は風呂屋の三助が主人公。
三助ってご存じですか? 銭湯で風呂を沸かしたり、客の背中を流したりする仕事をする人のことです。
三助 政吉役は、市川猿之助さん。朝、日が昇るところから、お湯を沸かしたり、板で湯をかき混ぜたりなど、三助の一日の仕事の様子を舞踊で見せます。

ユニークなのは、三助が風呂場に出てくるなめくじに惚れられるところ。
以前はなめくじの着ぐるみをかぶって出てきていたそうですが、猿翁さんがこのなめくじ役を女形にして今に至るとのこと。
髪飾りに触覚がついています。今回は市川團子さんが休演のため、なめくじ役は市川笑野さんが努められました。
なめくじのクドキなので積極的に三助にアプローチするのですが、そこはそれ、なめくじなのでクネクネ、もじもじしたり。
ちなみに、以前、猿之助さんが女形で亀治郎さんだった頃には、このなめくじを演じています。

結局なめくじだけに塩をかけられて死んでしまい、すっぽんから引っ込みます。
最後の最後は、にぎやかに踊って終わります。とにかく20分間踊りっぱなし。
私自身、なぜ舞踊が好きなのかはわからないのですが、まあ、好きなんです。
楽しかったです。

そして第三部。こちらも猿之助さんが大活躍した
「東海道中膝栗家 弥次喜多流離譚(やじきたリターンズ)」です。
すっかりシリーズ化した松本幸四郎さんの弥次郎兵衛と、市川猿之助さんの喜多八コンビが、もうはちゃめちゃでパロディーの応酬で進みます。

今回は初っ端から、歌舞伎の名作「俊寛」をパロっているのです。
「俊寛」は、流された部下のことを思い、自分は一人島に残り見送るという、切なくしみじみとした名シーンが有名なお話ですが、
弥次喜多は、とにかく好き放題。喜多八は女はべらすわ、そこに海賊はやってくるわでてんやわんや。
その海賊の名は海賊王ジョニー・テープと副官ジャック・スワロウ。
はい、ふざけているんです。でも、猿之助さんは「ワンピース歌舞伎」を上演した実績もありますから、この辺りもサービス精神旺盛な内容にニヤリという感じです。
弥次喜多は金を盗んで船で長崎出島へたどり着きます。

そこで出会ったオリビアという娘に弥次郎兵衛が一目ぼれ。
オリビアは本来、市川染五郎さんが演じる予定でした。この日は市川笑三郎さんがオリビアに扮します。
オリビアはカステラ売りの娘という設定。長崎ですからね。はい、ふざけてます。

オリビアが憧れの歌舞伎役者に会うのが夢と聞き、弥次喜多一行は江戸に向かいます。
道中で今度は喜多八がお夏という娘に一目ぼれ。
お夏は本来、市川團子さんが演じる予定でした。この日は市川笑也さんがお夏に扮します。

オリビアとお夏の会いたい歌舞伎役者が同じ人物だとわかり、4人は江戸を目指します。
喜多八が歌舞伎座で大道具のアルバイトしていたというのは、ここまでのシリーズで何度も使われている設定で、だから歌舞伎役者に会わせてやるなんてことを言ってのけるのもまたお約束。

弥次喜多が奪った宝を奪い返しに追ってきた片岡亀蔵さん演じる長崎奉行与力の釜掛之丞(この名前もふざけてます)、その掛之丞を追う捕手たちとの大立ち回りは、夏らしい本水を使った大きな仕掛け。
上からズドーンと落ちてくる水しぶきを避けるために、前5列目くらいまでの席にはビニールシートが用意されていました。
久しぶりの光景を見ながら
「ああ、戻ってきたなぁ」なんてしみじみ思ったのでした。

ここで一幕が終了。
後半もパロディーの応酬なのですが、だいぶ長くなってきましたので、
三階席から歌舞伎・愛もいったんここで休憩。
続きはまたおつきあいください。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。