三階席から歌舞伎・愛 PR

歌舞伎町で観る!_歌舞伎町大歌舞伎

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

今回は、いつもの歌舞伎座を離れ、東急歌舞伎町タワー6階のTHEATER MILANO-Zaで上演されている「歌舞伎町大歌舞伎」を観に行ってきました。
私事ですが、入籍日の5月10日が近いこともあり、今回は奥様と一緒の観劇です。

いつもは、3階席からの観劇ですが、今回は、1階の前から10列目の席。役者さんの表情もよく見えます。
歌舞伎町大歌舞伎の舞台は、歌舞伎座より幅も狭く、花道もなし。どういう演出になるのか始まる前からワクワクでした。

最初の演目は、舞踊です。
前半は「一、正札附根元草摺(しょうふだつきこんげんくさずり)」です。
正月などめでたい時に演じられる曽我物(そがもの)もののひとつで、曽我五郎時致を中村虎之介さんが、小林朝比奈の妹、舞鶴を中村鶴松さんが演じます。

長唄や三味線の演奏に乗って踊る「曽我物」といわれる歌舞伎ならではの派手やかな荒事舞踊になります。
この舞踊では、曽我五郎が、父の仇のところへ血気盛んに駆けだそうとするところを、草摺(くさずり)をひいて舞鶴が止める場面が展開されます。
草摺ってご存知ですか? 甲冑の胴から腿にかけて垂れている部分、ミニスカートみたいな感じになっている防護部分のことです。

中村虎之介さんは、曽我五郎の荒々しさを見事に表現し、ぱっちりした目をこれでもかというくらい大きく見開いて見栄を切っていました。
中村鶴松さん演じる舞鶴も、女性でありながら荒武者の曽我五郎を力強く引き止めたり、逆に色仕掛けで引き留めようとしたり、幅広い演技ですばらしかったと思いました。
古典演目の持つ様式美を堪能いたしました。

後半の舞踊演目は「流星」です。天上を舞台に、彦星と織姫が七夕の逢瀬を楽しむところに、流星が登場し、雷夫婦の喧嘩をおもしろおかしく語り始めます。
語りといっても役者、この場合は「流星」が台詞として語るのではなく、浄瑠璃の清元延寿太夫他3名が唄います。清元延寿太夫さんは、歌舞伎役者 尾上右近さんのお父様です。
実は、私が観た日は、最初、なんとなく4人のキーがあまり合っていないような違和感を感じました。まぁ人間のやることなので、そんなこともあるのかも……と思いました。
とはいえ、近くで直に耳にすると迫力があります。

今年の正月、新春浅草歌舞伎で、中村種之助さんがこの「流星」を演じた舞台を拝見しました。その時は、流星が面をかぶり、夫雷、妻雷、子雷、婆雷という登場人物に合わせ、面を変えていくという演出でしたが、今回、流星を演じる中村勘九郎さんは、面はかぶらず、表情や姿勢等を変えるだけで、夫雷、妻雷、子雷、婆雷を演じ分けていました。
小道具は使わなくても演じ分けてみせるといったところでしょうか?
中村勘九郎さんの踊りは、それぞれキャラ立ちしていて、芝居も舞踊もこなせる中村勘九郎さんの魅力を再認識いたしました。

幕間にロビーに出てみると、いつもの歌舞伎座とは違い、ドリンク類も少しおしゃれです。キャッシュレス決済のみとは、さすが東宝歌舞伎町タワー。


また、プログラムの中身をじっくり見ると、中村勘九郎さん、中村七之助さん、中村虎之介さん、中村鶴松さんの4人が歌舞伎町のホスト仕様になった写真が掲載されているページがありました。この写真、実際に新宿・渋谷の街を走ったアドトラックにも使用されたもので、聞くところによると苦情らしきものも入ったらしいです。
でも、それぞれホストによくいるタイプといういで立ち、メイクでとても似合っていましたし、洒落っ気があって面白いなと個人的には思います。

休憩明けは、落語を歌舞伎にした作品「二、福叶神恋噺(ふくかなうかみのこいばな)」です。
腕のいい大工なのに仕事が長続きせず、妹おみつの許嫁にまで金を借りてしまうダメ男なのに、なぜか憎めない辰五郎を中村虎之介さん、そんな辰五郎に憑りついてしまうが放っておけず世話を焼いてしまう貧乏神のおびんを中村七之助さんが演じます。
貧乏神は、額に汗水たらして働く人間の力を糧にするものですが、全く働く様子の無い辰五郎に業を煮やしたおびん。違う人間に憑りつくわけにもいかず、何とか辰五郎を働かせようとして、質屋に入れた大工の道具箱を請け出すために金を貸してやる始末。
それなのに辰五郎は働きだしたものの直ぐに元通り。このダメ男ぶりを、中村虎之介さんが見事に演じています。ダメ男なんだけど、なぜか手助けしてしまいそうになる可愛げがあるというのでしょうか?
辰五郎が働かないので、貧乏神なのに貧乏神らしからぬ風で内職をしたり、家事全般をやったりと甲斐甲斐しく世話をするおびん。家の掃除をする場面では、二本のハタキを使って「京鹿子娘道成寺」をパロディにして踊ります。
「京鹿子娘道成寺」をこれまで何度も見事に踊ってきている七之助さんです。本当の「型」を持っている方が、パロディを演じるのですから、面白くないわけがありません。歌舞伎通のお客様にもかなりウケていました。

その後も、辰五郎は働かず、おびん以外にも、煮売り屋のむすめ おきゃぴ(中村かなめ)は、朝餉代わりにみそ汁を持ってきたり、他人に甘えて過ごします。
おびんに甘えてばかりの辰五郎をみて、妹 おみつ(中村鶴松)は愛想をつかし、許嫁と祝言を決めます。祝言には、辰五郎を呼びません。辰五郎は、おみつの心情を聞いた大家の久兵衛(中村山左衛門)から話を聞き、おみつにせめて兄らしいことをしたいと改心します。

すると、辰五郎の買った富くじが当たったとなりますが行方が分かりません。実は、おびんが、掃除の際、拾ったものを頭陀袋(ずたぶくろ)にしまっていました。
辰五郎は改心し、富くじがあたり、辰五郎の家を改修して妹夫婦たちと同居するようになったりと、貧乏神が実は福の神だったというめでたいお話しでした。

ストーリー自体も面白かったのですが、そこまで深く考えなくても、中村虎之介さんの演じる、腕はいいのに働かず、愛嬌があってほっとけない辰五郎のダメ男っぷりや、中村七之助さん演じる貧乏神なんだけども甲斐甲斐しく世話を焼いてしまうおびんのお人よしっぷりをみているだけでも、満足できます。
中村虎之介さんについては、これまで若手ゆえ目立つお役にもなかなかつけなかったかもしれませんが、これからは「新春浅草歌舞伎」や巡業等でも、大きい役の経験を積んでいただき、中村虎之介さん目当てに観に行く人が増えるのでは? と期待が高まる素晴らしい出来だったと感じました。

歌舞伎町で歌舞伎、やっぱり中村屋は傾いているなと思った五月でした。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。