三階席から歌舞伎・愛 PR

三月大歌舞伎_叔父から甥へ。嗚呼、石川五右衛門

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

今月は第三部の「石川五右衛門」も紹介させてください。
五右衛門を演じたのは、松本幸四郎さんです。
タイトルを見ると増補双級巴とあります。これは、石川五右衛門のエピソードをまとめちゃう豪華絢爛なお話という意味です。

石川五右衛門の大詰が南禅寺山門の場。有名な楼門五三桐の場面です。
15分くらいの短い場面なのですが、煙管を手に山門の上から五右衛門が「絶景かな、絶景かな。……」という名場面としてお馴染みです。

この演目を得意としていたのが、昨年11月に亡くなられた中村吉右衛門さんでした。
今回、吉右衛門さんの甥である松本幸四郎さんが五右衛門を演じたわけです。
「絶景かな、絶景かな。……」の台詞回しは、叫ぶのではなく、絞り出すような言い方が吉右衛門さんのそれに似ていて、とても格好良かったです。

私が座っているのはこのコーナーのタイトルの通り三階席なのですが、今回はちょっと悲しいことがありました。
この場面、はじめは山門の二階の部分だけが舞台に出ています。それがせり上がると一階部分にいる此下藤吉久吉(わかりやすくいえば秀吉のことですね)が登場するのですが、上がってしまったら五右衛門の胸から上が三階席からは見えないという……。
悲しすぎます。
まあね、「絶景かな、絶景かな。……」のシーンはバリバリ見えるんです。最後の最後は五右衛門の顔が見えません。
悲しすぎます、よね。

物語は五右衛門と久吉が昔、丁稚で仲間だったという設定なのですが、久吉は中村錦之助さんが演じられました。
同じ演目を平成18年には、五右衛門を中村吉右衛門さん、久吉を幸四郎さん(当時は市川染五郎)という、叔父と甥が演じています。
歌舞伎は同じ演目が繰り返し上演されますが、配役が全く同じ形で再演されるかというと、そうとも言えないわけです。
その組み合わせではあの時が最初で最後みたいなパターンもあるということ。
「新・三国志」のところでも書きましたが、歌舞伎はこうして伝統を継いでいくものであり、そこに美学を感じます。

ところで石川五右衛門が歌舞伎で人気なのは、秀吉と同時代に生きた人物であること。最後は釜茹で(釜の中には油)の刑にあったという事実。
そして天下の大泥棒で義賊だというドラマ性なのではないでしょうか。有名だけれど素性がわからないというところも人気の理由のようです。

今回、山門がせり上がると五右衛門の胸から上が三階席からは見えないという悲しすぎることがありましたが、その前の「足利館別館奥庭の場」の最後には、見せ場の宙乗り、つづら抜けがありました。
これはもうばっちり。
宙乗りを見るなら最後の最後まで見える三階席がなんといってもおススメです。
負け惜しみじゃあ、ありませんよ。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座「三月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。