日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
久しぶりに美味しいピザを食べた。
義母を連れて行った……
わけではない。
義母とピザと言えばその昔、ハーブ園にドライブした時のことだ。
ランチはジェノベーゼパスタとマルゲリータピッツァを注文し、3人で取り分けながら食べることにした。
それまで普通に機嫌は悪くなかった義母だったが、
運ばれてきた食べ物を見て、ほぼ無口になった。
取り分けて、義母も何口かは食べたが、しばらくすると「私はいいよ」といって、
皿を遠のけた。だいぶ前の話なので、うろ覚えではあるが、
世界一まずそうにジェノベーゼパスタを食べる顔として、私の脳にインプットされている。
私はジェノベーゼが大好き、夫はマルゲリータピザが大好き。
そのどちらも世界一まずそうに食べた義母。
今、考えれば合点はいく。
義母は洋風なものを食べつけない。緑のパスタをほとんど初めてみたのかもしれない。
しかもハーブ園のジェノベーゼ。とにかく鮮やかな緑だったのだ。
おまけに麺類を美味しそうに食べたのをみたことがない。
メン食いではないのだ。
義母はピザも食べつけない。手作り感のあるもちもちのピザ生地は、当時入れ歯だった義母には
食べづらい食べ物だったのかもしれない。
合点がいくもう一つは、義母が昭和一桁の人なのに、農家の娘だったのに、緑の野菜が嫌いということだ。
ホウレンソウはごま和えにして甘くすれば食べる。
煮物にインゲンが入っていると減りが悪い。
生野菜サラダは食べない。デイの副菜の食べ残しがある時は多分生野菜サラダの時だ。
甘酢にすればきゅうりなんかは食べるけれども。
挙げたらキリがないが、美味しく食べてくれないならと、作り置きおかずには入れないので、
最近の本当のところはわからないが、
そういう義母からしたら、上記のパスタ&ピザは「ムリ!」だったのだろう。
その後立ち寄ったお土産やさんでまんじゅうの試食はもぐもぐ食べていたので、
決して体調が悪かったわけではないことも付記しておこう。
そんなわけで、ピザを前にすると何かの反動で「だーいすきっ!」となる私がいる。
先日のピッツェリアでは、同席した方々と異なる味を交換したりしながら、
ナイフ&フォークで食べていた。
「うん、おいしい!」
「生地の厚さもいいね!」
みたいな感じで。
耳の部分は少し分厚く、食べ応えがあるピザだった。いや、ピッツァだった。
さらに一口食べようとナイフ&フォークを入れた次の瞬間、私の皿からピッツァの耳の部分が
ボトッと床に落ちた。
嗚呼、なんともったいないことを。
落とした床が気になり下を見るもののピッツァの耳が見当たらない。
どこだどこだと体をくねらす私。
「大丈夫、椅子の真下に落ちてるから」
そう言われても私からは見えなくてモジモジして、一瞬体をかがめて拾おうとする。
やっぱり見当たらなくて、体をくねらす私。
「最後に拾います」
そういって、食事を続けた。
この一連の動きが義母宅での食事中とビガーンと重なった。
最近、義母は食べながらテーブルの下にこぼすことが増えた。
落としたことがわかると体を折り曲げて拾おうとする。
拾おうとするとテーブルの上の箸やお椀をひっくり返すのではないかと心配になるから
「いいよいいよ、後で拾えば。まだ食べ終わるまでに落とすから」
随分な言い方だな。ごめんなさい。
でもそう言われても「うん」と言いながら拾い続けることもあって、
一回の食事で何度かこのやりとりをすることもある。
ピッツァの耳を落として、ちょっと義母の気持ちがわかる私。
なんか複雑。
食事が終わり、会計を済まし、店を出るタイミングで、椅子の真下に落としていたピッツァの耳を拾った。
「憶えてたの? えらーい」
同席した先輩がそういってくれた。
なんだかちょっと反省。
普段の義母宅では、食事を終えるとおかずを落としたことをすっかり忘れている義母に
「お義母さん、落としたおかず拾ってくださーい」と言ってテーブルをずずーっとずらして
自分で拾ってもらう。
いや、ありがとうは言うよ、ちゃんとね。
でも次の時は「拾ってくれたの? さすが! ありがとう」と言おう。