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一瞬の「ガンバレ」

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

日曜の下り電車は、結構混雑していた。
空席に座ろうとした時、親子連れが視界に入ったので、
ママとお子さんが2人並んで座れるように、一席隣に移動した。
それは譲るとかいうほどのこともない、まあ当たり前のことなので、
目くばせもしなければ、当然どうぞというわけでもない。

でも、若いママさんは、そのなんでもないことに気づいたらしく
「あ、ありがとうございます」と小さく言った。
私はイヤフォンもしていたので、軽く頷くか頷かないか程度だった。

私の隣にママさん。その横にお子さんが座った。
座るとすぐに「動画みる?」と準備してスマホを手渡していた。
今は特に電車の中で、ランラランとおしゃべりもしづらい状況だし、
パッと静かに見てくれる動画は、必須コンテンツなんだと聞いたことがある。

ママさんはオシャレなパンツを履いた若い方だった。
ふと彼女の手元を見ると、本を広げていた。
ジロジロ見るのはダメだぞ……と思いつつ、なんとなくその光景が珍しくて
少しだけ目を凝らしてしまった。

右端が三角に折ってあった。
なんとなく育児に関する本みたいだった。
「あぁ、いろいろ情報収集しながら、育児をがんばっているのだなぁ」
育児経験のない私には、その大変さは計り知れないのだけれど、
さっきのありがとうございますからの、端を折ってる本の目撃で
しばししみじみ。
もしかしたら端を折っていたのは、読みかけの栞がわりだったかもしれないけれど、
こちらは勝手に美化してしまうものだ。

少しすると、その若いママさんだけがすっと立ち上がった。
ふと目をやると、少し離れたところで小さなお子さんを抱っこして立っていた
どこぞの若いパパさんにツンツンと合図して、席を譲ったのだった。
どこぞの若いパパさんは、そのまま席に座った。
お礼を言っていたのかどうかは、よく聞こえなかったけれど
まあ、きっと言ってたよね。

その後、ママさんは立ったまま本を読みつつ、お子さんに目を向けつつしながら
途中の駅で降りていった。

街ににぎわいが戻ってきて、週末にお出かけする人も増えた。
経済を回さなくちゃ。リフレッシュもしなきゃ。
でも電車が混むと、お子さん連れの人は大変だよね。
お年寄りにも同じことが言えるし、平日働く人も同じだけれど。

小さなことに気づける人は、その分、疲れることも多いだろう。
気に病む機会も少なくないのかもしれない。
あの本が彼女のお守り代わりになるかもしれないし、ケッ! と思うかもしれない。
でも、一瞬の「ガンバレ!」を心の中でつぶやいた。
そして次の瞬間、「いや、頑張りすぎるな!」とやっぱり心の中でつぶやいた。