三階席から歌舞伎・愛 PR

八月納涼歌舞伎_メチャクチャだけど美しいなぁ

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

前回の歌舞伎鑑賞から三日後、急遽チケットを購入し、「八月納涼歌舞伎」の第一部を鑑賞しました。

https://entameseiri.com/3f_kabuki-2023aug/第一部最初の演目は、「次郎長外伝 裸道中」です。
外伝とついてますので、次郎長自身が主人公でなく、周りを取り巻く人物のお話となります。
この作品は「国定忠次」などいわゆる剣劇を扱っていた新国劇で上演していた演目で、歌舞伎座では初めての上演となります。

主な登場人物は、博徒の勝五郎を中村獅童さんが、その妻 みきを中村七之助さんが、次郎長を坂東彌十郎さんが演じます。
このお話を観て思ったのは、他人に対する思いやりを大事にしてやりたいという優しい気持ちを皆が持つ姿は美しいなぁということでした。勝五郎は博打に明け暮れ、家にある家具や食器など質入れできるものは全部入れてしまっています。あまりに貧乏で、つい夫婦喧嘩が始まります。
そこへ、役人に追われている最中の次郎長一行が、次郎長の女房の具合が悪いため、休息しようと偶然勝五郎の家へと立ち寄ります。十年も前に、保下田の久六とともに世話になった次郎長一行をもてなしたいと勝五郎は思いますが、座布団や湯呑みも一つしかなく、お茶の葉もなく、つい「よそへ貸してしまった」などと強がりますが、次郎長にはなんとなくバレてしまっている様子。
セリフはなくても彌十郎さんの表情からこのことが読み取れました。

勝五郎の女房みきがどこからか工面してきた酒と料理。おかわりをいわれると、酒が残ってる徳利に水を入れて対処するも、「味がかわった」とか言われて笑って誤魔化す始末。
この辺りは七之助さんがコミカルに演じていてとても楽しかったです。

次郎長は、そんなことはすべてお見通しで、すぐに皆にもう寝ると言って全員床にゴロ寝させます。粋ですね。
深夜、勝五郎がみきに酒と料理をどうやって工面したか聞き出すと、大工と植木屋から鋸と鍬を借りてきて勝手に質入れして工面していました。それを聞いた上で、勝五郎は世話になった次郎長一行に旅立つ際に少しでも金を渡さないと行けないと、今寝ている次郎長一行の服を質入し、博打で増やして来ると言って出ていってしまいます。当然負けて帰ってきます。

勝五郎は、次郎長に詫びを入れ腹を切ると言いますが、みきは自分を売って次郎長一行の着物だけは質から出してくれと泣きながら言います。そこに話を聞いていた次郎長一行が出てきます。みきが身を売って戻ってきた服を着るわけには行かないと言って、男はふんどし一丁、次郎長の妻は襦袢の上に煎餅布団を巻き付けた格好で旅を続けると次郎長は言います。その後、今や十手を預かる身分になった保下田の久六(中村吉之丞)が登場しますが次郎長に恩がある勝五郎は、久六一味をやっつけ話は終わります。
話の筋だけを考えると、むちゃくちゃ過ぎて全く理解できない方も多いかもしれませんが、中村獅童さん演じる勝五郎の、どんな破天荒な生活をしても昔世話になった人へ少しでももてなしたいという気持ち(もてなす方法はメチャクチャですが)、
中村七之助さん演じるみきの、どうしょうもない亭主を助けてなんとかしてやろうと人を騙したり自分の身を売ろうとする夫への愛(なんとかしようとする方法はメチャクチャですが)、
坂東彌十郎さんの演じる、勝五郎みき夫婦の、自分たちが非常に貧乏にもかかわらず、役人に追われている自分たちをもてなそうという気持ちを汲んで何も文句言わず、裸同然の姿で旅を続ける器の大きさとともに、二人の気持ちを慮る優しさを御三方の芝居力があるからこそ、滑稽無糖な話ではなく、人情味のあるお話として観ることができました。

私は博打、ギャンブルの類を一切やりません。勝てる気がしないので(笑)。
実際に博打で身を滅ぼしてるような人を見るとかなりイラッとしますが、
物語の中でなら許せてしまうから不思議です。
作調は大好きな田中傳左衛門さんだったのもこの作品が魅力的だった理由の一つです。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年「八月納涼歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

 

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、仁左衛門丈の悪役と田中傳左衛門さんの鼓の音色。