誰にでも忘れられない味がある。ふとした瞬間に思い出したり、その味と共に記憶がするするとよみがえったり。あなたのunforgettableな味から記憶を整理します。題して私のアンフォゲ飯。
今回アンフォゲ飯を語っていただいたのは、フォトグラファーのくろださくらこさんです。
目にも耳にも舌にもはじめましての異国のアンフォゲ飯をご紹介くださいました。
-- 忘れられない味のお話をうかがいたとお願いしたらすぐに「あるある! 思いついた!」と答えを返してくださいましたよね。
くろだ 忘れられない味、いつもありますよ。ブームがあるので、それが過ぎ去ると答えは変わっていきますけどね。
-- ではさっそく、今日現在のさくらこさんのアンフォゲ飯とは?
くろだ 今年の夏、旅先のセントルシアで食べた「ダブルス」が、今の私のアンフォゲ飯です。セントルシアはカリブ海にある島で、淡路島ほどの面積に20万人ほどが暮らす国。4年前にニューヨークに留学していた時に出会った彼の生まれ故郷です。
-- 「ダブルス」という料理名、初めて聞きました。この料理との出会いについて聞かせてください。
くろだ 初めて食べたのはニューヨーク。彼のお母さんがカリブ料理の屋台からテイクアウトしてきてくれたのが「ダブルス」でした。お母さん自身もカリブ料理をいろいろ作ってくれたけど、「ダブルス」はテイクアウトなの。
一口食べたら感動のゲキ旨で、すっかり夢中になってしまって、以後、彼のいるニューヨークに行く度に食べていたんです。
「ダブルス」は屋台飯で、日本で言えばたこ焼きみたいな感じかな。屋台かカリブ人がやっているパン屋さんの片隅で売られています。紙に包まれていて、一見すると正体がわからない食べ物、でも食べる度に感動があって大好きになったんです。
そして、実際に今年の夏、セントルシアで食べて、やっぱり美味しかった!
-- 大阪人が当たり前にたこ焼きを愛するように、「ダブルス」はセントルシアの人が当たり前に食するものなんですか? どんな風に売られているのか気になります。
くろだ セントルシアでは、お母さんたちが家で仕込んできた「ダブルス」の材料をボックスに詰めて、道端で作りながら売るのが普通の光景です。各家庭の味があって微妙に味や出来が違ったりするのも面白いの。滞在中に朝食としてよく食べました。
-- 「ダブルス」本当に初めてその名を聞いたので想像ができません。どんな味なんだろう?
くろだ そう思って今日は実際に「ダブルス」を食べてもらいたいなと思い作りました。日本では売っているところがなくて、作り方のレシピもなかなか見つからず、やっとたどり着いたサイトのレシピを見ながら、ああでもないこうでもないと試作を重ねて、ようやく近い味にたどり着いたの。
中力粉にカレーパウダーなどを混ぜ込んだ生地を発酵させて、それを油で揚げます。サイズは1枚が手のひらサイズくらい。これを2枚並べ重ねて、生地の上に豆カレー、キュウリ、タマリンドソースとハーブソースをかけて出来上がり。2枚並べるから「ダブルス」なの。
これを紙でくるくるっと巻いて包んだ形で売っているので、ホットドックとか恵方巻を食べるみたいな感じでかぶりついてください。
-- う、うまーい!!
くろだ でしょでしょ? うまーい!って言いたくなる感動があるんだよね。豆カレーはひよこ豆と玉ねぎで作り、お肉は入っていません。わが家ではパクチーを使っていて、これがサッパリ食べられるポイントかな。
-- 朝食として食べると聞きましたが、これを各家庭で朝ごはんとして作るのが定番ということですか?
くろだ 「ダブルス」はストリートで売っているのを買って食べるのが定番みたいなんだよね。老いも若きも朝食として食べるから、朝から列が出来たりもして、私の彼は2つも3つも買って食べたりもしてました。私は飽きちゃうのがもったいないので、もう少し食べたいと思っても一度にたくさんは買わないようにしていたかな。
-- 今年の夏、セントルシアにはどのくらい滞在されたのですか? どのように過ごしていたのかも知りたいです。
くろだ セントルシアには約1カ月滞在しました。踊ったり、料理をしたり、海に行ったり、踊ったり……(笑)。彼の家族とビーチに行って、そこでお酒を飲んだり食事をしたりする毎日でした。ファミリーは私の滞在に合わせて夏休みを取ってくれていたみたい。日本人は7人しかいない島だから、滞在期間中は行く先々で「この間キミの荷物を運んだよ」とか「この間もこの店に来たよね」のように声掛けられることも多かったです。
-- ところで彼はどんな人ですか?
くろだ そんな直球の質問! 彼は年下のフォトグラファーで、とてもポジティブかな。私の作品づくりを手伝ってもらったりした時も、ぶつかることがなくてとてもピースフルです。セントルシアは日本と同じ島国で、クリスチャンが多い。犯罪率も低いなど国としての背景も彼の性格に影響を与えているかもしれません。
今は世界のどこにいても、いつでも繋がれるのでコミュニケーションは頻繁に取れているけれど、日本からは30時間かかるので、しょっちゅう行き来するというわけにはいかない距離ですね。
そういえば「ダブルス」を作ったよと報告したら、「え、ダブルスは買うものなのに!? 」と向こうのファミリーに驚かれました(笑)。
-- 「ダブルス」は彼やファミリーとのつながりを感じられるアンフォゲ飯でもあるんですね。未知なる国のお話と、初めての味をありがとうございました。
イラスト/Miho Nagai
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