フィーチャー PR

家族を守るとは? をとことん考える『老いと建築』

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する作品は『老いと建築』。
ご一緒したのは、整理収納アドバイザーで『日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方』(大和書房)の著者・永井美穂さん(みぃさん)と、『子どもを伸ばす片づけテクニック 頭がよくなる整理術』(主婦と生活社)の著者・大法まみさん(のりさん)。

『老いと建築』は、長塚圭史さん率いる人気劇団 阿佐ヶ谷スパイダースの書き下ろし新作です。
年老いた女、「わたし」とその家族、家族を取り囲む人たちと家が主役の物語。見てはいけないものを見てしまったような、踏み入れてはいけない場所に足を踏み入れたような、不思議な世界が広がります。

※以下、作品のネタバレを大いに含みます。

家がある。その中央にわたし(村岡希美)が座っている。とても強い女であることは、彼女の一挙手一投足でわかる。娘の仁子(志甫まゆ子)と、孫の基督(坂本慶介)、喜子(藤間爽子)には、それぞれ少し不穏な距離がある。息子の一郎(富岡晃一郎)は、不思議少女のオーラを放つガールフレンドのりぼん(木村美月)を連れて来た。建築家(伊達暁)に注文して建てた、わたしのこだわりが詰まった自慢の家は、家族の歴史を見てきた。その歴史は、明るく美しい思い出ばかりではないようで……。

ヘルパーの対応の仕方が
とにかくリアルでウケた

大法 面白かった。うまいなぁというのが第一声。阿佐ヶ谷スパイダースを観るのは初めてだけど、こんなにうまくて面白いならもっと早く観ておけばよかったと思いました。特に主役の村岡さん、すばらしかった。
栗原 多くの舞台に出てらっしゃいます。曲者も演じるし、強い女も弱い女も、セクシーな役も何でも演じる俳優さんです。
永井 すごく綺麗な人だったね。
大法 綺麗だし、老人の観察をとてもよくしたうえで役作りしていたよね。
栗原 みぃさんは、片づけヘルパーとしてたくさんの老いと向き合っていますけど、プロの目からみてどうでした?
永井 私はこの作品に介護士(ヘルパー)が出てくること自体にすごくウケちゃった。ヘルパーの朝岡(森一生)にとにかく目がいったけど、話の流し方とか、対応の仕方とかがとてもリアルだった。
大法 話の流し方かぁ。なんでそんなこと知ってるんだろうね。
栗原 やっぱりそれは役作りのために研究するんじゃないですかね。

今の孫世代はあそこまで祖父母に
辛辣にならないと思う

栗原 結構強烈なキャラクターも出てきて、笑いどころもありましたよね。
大法 「りぼんだよ!」。おもしろかった。シリアスなシーンも多いけど、彼女の存在で緩急がついていたよね。そういう面でもうまく出来ているなぁって。
永井 キャラクターで言えば、だらしのない親父・英二を演じた長塚圭史さんも、存在感があるというか、「こういう人いそうだな」っていう感じだった。
大法 孫の言動はちょっと気になったかなぁ。実際の孫と祖父母との関係を近くで見ている身としてはね。今の20代、孫世代の子はあそこまで祖父母に対して辛辣にならないと思うから。
栗原 なるほどー。だからこそ彼女たちはやっぱり歪みがある家で育ったってこと、なのかなぁ。
永井 家と家庭環境という関係性は舞台を観ていてすごく感じた。
大法 主人公のわたしは、何の仕事をしていた人なんだっけ?
永井 デザイナーじゃない? ストッキングの。
栗原 あ、そうだ、ストッキングでヒットを出したって言ってた。
大法 服飾デザイナーとかで。
栗原 ご主人はアート系のクリエイターで、私が稼ぐからあなたは働かなくていいって言っちゃったんでしょうね。だから「お母さんはパパから仕事を取り上げた」っていう子どもからのセリフがあったし。
大法 お父さんが資産家で、だからあんなに立派な家も注文建築で建てられた。
永井 お坊ちゃまくんだったんだよね。
栗原 家族の中ではお兄さんの一郎も最初の印象から徐々に変わっていきましたね。
大法 ちゃらんぽらんかと思いきや結構ちゃんとしていたお兄さんだったよね。

「不必要なものを取り除く」
モノだけじゃない不必要なものとは

栗原 私たち整理収納アドバイザーにはおなじみの「不必要なものを取り除く」というセリフも出てきて、それもニヤリというか、驚いてしまいました。『老いと建築』というタイトルの作品だから、きっとリンクするところがあると思ってましたけど、ずばりのワードが出て来たので。
大法 不必要な、ムダと思うものが実は必要だったりするからね。
永井 あのセリフに出てきた「不必要なもの」っていうのは、モノだけじゃないなとも思った。
栗原 モノでいえば、みぃさんが「等身大の馬」というエピソードワードが出て来た時に、すごく笑っていましたけど、あれってシニアのお宅に行って、なんでこのサイズのものがあるの? とか、なんでこれがあるの? に日ごろから出くわしているからなのかなって思ったんですけど……。
永井 置いていかれたまんまになっているモノはあるよね。木彫りの大きな置物が結構目立つところに長年置かれていて、すごく気に入っているわけではないというから「どかそうか?」って聞いたら「寂しい」って言われたことがあるの。気に入っていなくてもないと寂しいって。
栗原 やっぱりあるあるなんですね。義母の家にもあるなぁ。でっかい木彫りの猿の置物。夏は帽子掛けになってます(笑)。

栗原 演出では、自慢の家がキシッ、ギシッて鳴る音が印象的で、それが回を重ねるごとにゾワッゾワッとしちゃいました。最初は木が呼吸している音に聞こえていたんですけどね。新築とかリノベーション物件を取材することが多いので、「木は呼吸するし、成長するので経年変化も楽しみです」とかよく話題に出るんですけれど、あの音が時空のゆがみの音に聞こえてきて、本当にゾワッでした。
大法 どこかが狂っていく感じね。絶妙に薄―く聴こえるBGMもすごい演出だったなぁ。
栗原 どこかで誰かの携帯が鳴ってるのかと思って気になってましたよ。
永井 気になるといえば、あの家の間取りはどうなってるんだろうってすごく気になった。
大法 あの家がある「場」自体がどんどん移っていくしね。
栗原 不思議な世界観でしたよね。要塞のような家で大切なものを守るためには……という業のようなものを抱えた「わたし」はとにかくインパクトがありました。
永井 娘や孫を守るために生きた彼女の姿をみて、最後はぼろぼろ泣いちゃった。実際の現場でも、家族を守るためにあえてしたことに、許せないという思いを持ったまま亡くなっていくという人もたくさん見てきたから。
あの作品の中の「わたし」は、ねじれていても家族を守るために覚悟しているから、そのねじれを正そうとしなかったんじゃないかな。
大法・栗原 そうだねぇ……。

ロシア料理食後にいただいたダマスクローズのジャムを入れていただくロシア紅茶<Cafe RUSSIA 吉祥寺>

映画『ファーザー』ともリンク
これは今、とても身近にある問題

永井 私は舞台を観る前に下調べをするタイプじゃないんだけど、今回は特に観た後にいろいろ語りたいってことだったから、内容もまったく見ないで来ました。
大法 私もそうですよ。演劇も映画もあらすじは見ないで、どんな展開になるのかを楽しみにするタイプ。
栗原 私もほとんど前情報を入れません。でもこれは本当に二極化しているというか、しっかりレビューなどを読んでから観たいという方もいるんですよね。
今回もそうですが、何もない状態で見て、どこに引っ掛かったか、どんなシーンが印象的だったかを聞けるのが好きなんです。
大法 今回は特にタイトルが勝ってるよね。『老いと建築』というタイトルを教えてもらって、すぐ行く!って思ったもの。そして、実際に観たらタイトル負けしていなかった。
栗原 美術もすごく良かったですよね。重厚なテーブルとスツールと柱と。
大法 美しかったし、劇場に入った瞬間にすごいと思った。
永井 時間の流れとか場面展開がとにかく不思議だったな。
栗原 たしかに。あれで時空が歪むというか。テーブルのそばにいても同じ時空にいない、あの感じもわざとらしくなくて、見ればみるほど不思議な感じもしたし。のりさんと私は、アンソニー・ホプキンスの主演映画『ファーザー』を一緒に見ていたので。
大法 あの作品ともつながったね。『ファーザー』は、認知症になったお父さんの目線で描かれた作品だったけど、この舞台はそれに言及したりすることがなかったのがむしろ良かった。お涙ちょうだいみたいな結末じゃなかったし。あ、泣いていた人は隣にいたけど(笑)。
永井 私は数々のおばあちゃんたちと触れ合ってきたから、それが重なって泣いちゃったんだよね。
栗原 お芝居って結局、自分の人生との接点があったりすることで、感情が深まると思うので、みぃさんの人生、仕事とリンクしていたんですよね。もしあの作品を年老いた人に対峙したことがない人が観たらあの時空の歪みは創作の世界と捉えるかもしれないけれど、接点がある私たちが観たら、また違う感覚ですよね。
大法 年齢が上の方も客席に結構多くいたから、そういう方たちもいろいろ感じることが多かっただろうね。若い人にも観て欲しいと思える作品だよね。
栗原 今日はお付き合いいただきありがとうございました。

今回エンタラクティブしてくださったのは……

永井 美穂(Miho Nagai)さん
介護福祉士の資格取得後、10年間介護事務所に勤務し、お年寄りの在宅介護に従事する。高齢者が在宅で安心して暮らせる部屋づくりを考えるなかで、整理収納アドバイザーの資格を取得。個人宅での訪問整理業務を行うほか、「介護者の気持ちがわかる整理の講師」としてもさまざまな業界で活躍。著書に「日本初の片づけヘルパーが教える 親の健康を守る実家の片づけ方」(大和書房/2019)がある。2020年より「介護環境整理アドバイザー」認定講師として介護における環境整備の必要性を広く伝えている。
片づけヘルパー 永井美穂オフィシャルサイト シニア・高齢者のためのゆっくりお片付け

大法 まみ(Mami Onori)さん
広告分野で20余年、プランナー兼コピーライターとして活動。また、整理収納アドバイザーとして、「誰にでも」「今日からすぐに」始められる、易しい整理学の確立と普及に尽力。全国の企業・学校等において、参加者を元気にする「物と心の整理」に関する講演を数多く行う。プライベートでは一男一女の母。徳山藩士・増野助三の曾孫。趣味は仏像鑑賞、日本の名湯探訪、歌(ゴスペル・鼻歌ほか)。2019年に日本音楽療法学会認定音楽療法士の資格を取得し、音楽療法を広める活動もライフワークのひとつとしている。著書に「子どもを伸ばす片づけテクニック 頭がよくなる整理術」(主婦と生活社/2015)がある。
整理収納アドバイザー 大法まみOfficial Site 頭がよくなる整理術