フィーチャー

想像することって大切『SERI~ひとつのいのち』

誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。

今回ご紹介する作品は、ミュージカル『SERI~ひとつのいのち』。
ご一緒したのは、お片づけ+防災アドバイザーの熊本恵津子さん。

ミュージカル『SERI~ひとつのいのち』は、『未完の贈り物』(倉本美香・著)の原作をミュージカル化。生まれつき両眼の眼球がなく、知的障害も抱えていた実在の人物、倉本千璃さんとその家族の物語。千璃に山口乃々華さん、母・美香を奥村佳恵さん、父・丈晴を和田琢磨さんらが演じた。作曲・音楽監督は桑原まこさん、演出・振付を下司尚実さんが担当し、東京・博品館劇場のほか、大阪・松下IMPホールで上演。

※以下、作品のネタバレを大いに含みます。

観終わった今、
ホッとしました

熊本 観劇するにあたり、原作の『未完の贈り物「娘には目も鼻もありません」』を購入しました。でも、第1章「誕生」から第2章の「葛藤」のところで続きを読むのはやめたんです。
栗原 そうだったんですね。それは敢えて?
熊本 はい。読んでしまうと自分の中で勝手にイメージをつけて、それと付け合わせるように観てしまうかもしれないと思ったので。結果的に途中でやめておいて良かったなと今は思います。作品の世界にしっかり入り込めたので。
栗原 原作がある場合、先に読んでおく、知っておくか否かは判断が難しいですよね。
熊本 特に原作本には実際の千璃さんのお写真も載っていたので、そういう意味でも観劇後にしっかり、ゆっくり読みたいなと思ったんです。
栗原 熊本さんは、普段からミュージカルなど観劇の機会も多いと聞いていましたが、『SERI~ひとつのいのち』をご覧になっていかがでしたか?
熊本 なんかね、ホッとした。
栗原 ホッとした?
熊本 重い作品なのかも……と少し心配していたけど、ホッとしたというのが正直な感想です。ご夫婦それぞれの言い分もすごくわかる感じがして、母親の、この娘の今が大事なんだ、今、出来ることをしたいっていう思い、すごく納得しますよね。
美香役をされた奥村佳恵さん、稽古中はきっとたくさん泣いていたんだと思うんですよ。でも舞台では台詞をちゃんと言わなきゃならないじゃないですか。そこを見極めてやっていらしたんだろうなと思って……。
栗原 エモーショナルになりすぎて、ミュージカルとして成立しないということがあってはいけないと律する感じもあったのかもしれませんね。そういう姿勢もまた美香さんそのものみたいな感じもしますよね。
熊本 台詞の部分もとても聞き取りやすかったですね。夫婦のシーンが多かったから、お稽古でたくさんバランスを試したのだろうなって想像しちゃいます。

千璃の表現、音楽の美しさ
辛いシーンもすべて気になる

熊本 特に感心したのは、あの小さなセットの上でコンテンポラリーを踊ってらっしゃる千璃役の乃々華さんがすごすぎる。きっと足、傷だらけだろうなって。
栗原 
痣だらけでしょうね。博品館劇場のステージ、あの空間の中に、キャスト10名とバンドさんが4名乗っていますから、本当に限られたスペースで作り上げられています。
熊本 千璃さん本人の限られた世界という部分、千璃の環境も表現されているのかなと思えました。
演奏もとても良かったです。所々にきれいに響くフルートとか、サックスはアルトとテナー両方あったし、音のアクセントがとても効いていたなと感じました。
栗原 サックスの音色で「あ、ニューヨーク!」って思えたりして、音に反応しますよね。
熊本 休憩なしのノンストップというのは演奏も演者さんもすごいなと改めて思いますね。父・丈晴役の和田さんは、声もお顔も良かったです。ヒール役ではありましたが、オオクボ医師役の植本さんもいい芝居をされる方ですね。

栗原 気になったシーンはありましたか?
熊本 やっぱり「No Eyes」と歌う目のシーン、コンフォーマーを入れても何度も落ちてしまうシーンは、原作で読んでいた場面でもあったので、辛かったです。
栗原 
まだ続けるの? という気持ちに無責任に思ったりしちゃいますよね。
熊本 自分の想像の中にない規模の手術だと思うから、決断するにはどれだけの勇気や気力が要るんだろうと。
栗原 まして海外で、ですから。

傾聴スキルのおかけで
舞台を観る目は少し変わったかも

熊本 『
SERIのような作品を観て思うのは、よく相手の立場に立ちましょうとか言うけれど、その人の立場になることは絶対に出来ないじゃないですか。でも想像すること、イメージすることは出来るから、私がもし美香さんだったら……という目線で観ることで、他の人への対応に何か変化が生まれたり、配慮が出来るのかもしれないなと感じますね。
栗原 そうですね。パンフレットのキャストの皆さんの対談や鼎談は、相手を知ることで理解できること、理解したいと思えることってあるんじゃないかという主旨もあって行われたんです。
熊本 実は私、最近地元で高齢者への傾聴ボランティアというのをしているんです。向き不向きはあるかもしれないと言われたんですけど、自分的にはしっくり来ています。ここ数年、私より若い整理収納アドバイザーの皆さんと一緒に講座やセミナーを受けたりしてきて、若い方たちから吸収できることを楽しんでいた時期もあったんですけど、今は高齢者から学べることがいっぱいあるぞと思ってるんです。そのためにお話を聴く、傾聴を通じて知れることがとてもたくさんあるんですよね。
栗原 ちょっと私の仕事にも共通しています。取材を通じて知れること、たくさんありますから。
熊本 これまでって相談されると何かアドバイスをしなくちゃいけないと思ってしまっていたけれど、傾聴はアドバイスはしないんです。聴くだけ。これを学んでいたことで、今日の舞台を観る目は少し変わっていたかなと思いますね。
栗原 大切ですね。受け止め方、つまり舞台の観方も、本当にいろいろですよね。真正面から受け止める人もいれば、とにかく俯瞰で観る人もいる。でも一番残念なのは、知らないこと。知る機会を逃すのはもったいないと思うし、舞台作品から知れることもたくさんあるよなと、私も今作を通じて強く感じています。

栗原 私は劇中で千璃ちゃんがママとパパの手の平をパチンパチンとするシーンが好きなんです。手探りだけど、信頼があるあの感じ。
熊本 あれって千璃ちゃんの決心でもありますよね。私もあのシーンでしっかり感じました。あとは赤ちゃんを布一枚で見せるあの演出、素晴らしかったです。
栗原 本当に素晴らしいですよね、あの見せ方。
熊本 全編を通じて「届けたい」という気持ちがとても伝わる舞台でした。もっとたくさんの情報に敏感になって、これからもいろいろな作品を観たいなと改めて感じました。
栗原 これからも気になる作品、情報交換させてください。ありがとうございました。大阪の整理収納アドバイザーの皆さんとも『SERI』観劇してきます。

今回エンタラクティブしてくださったのは……
熊本 恵津子 (Etsuko Kumamoto)さん 
お片づけ+防災アドバイザー
防災士、シニア向け整理収納アドバイザーとして活動。近年は高齢者傾聴スペシャリストとして、八王子市の高齢者傾聴ボランティアとしても活動中。