誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、新橋演舞場で上演されている東京喜劇 熱海五郎一座『スマイル フォーエバー~ちょいワル淑女と愛の魔法~』です。
ご一緒したのは、連載「ひつじのまなざし」でお馴染み整理収納収納アドバイザーのみのわ香波さん。
共通の偏愛人について、たっぷり感想を語り合いました。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
ある日、一人の老人(伊東四朗)が銀行で強盗事件に遭遇した。その場に居合わせたのは、東京都知事の大沼桜子(松下由樹)とその娘。犯人の撃った弾は、ありえない軌道を描き、皆命拾いをした。それは老人実はハナー・ホッターが使った魔法のおかげだった。
事件の真相に乗り出すべく杉田左京(東貴博)と亀川薫(ラサール石井)が駆けつける。
後日、自分が原因で都知事の娘から笑顔が消えたことを知ったハナーは、魔法学校定時制に再入学し、特別な魔法を習得することを試みる。魔法学校には担任のサンダー・ボルタ―(三宅裕司)、クラスメートにムード・フリーザー(渡辺正行)、ゴッド・トリッカー(小倉久寛)、クッション・ルーラー(春風亭昇太)など曲者が揃っていた。
老人は当初の目的を果たすことが出来るのか……。
伊東四朗さんがまさかの
ハ〇ー・〇ッター!?
栗原 待ち望んでいた日でしたね! 伊東四朗さんが出演される舞台があったら次も必ず観ましょう! と話していて、熱海五郎一座の情報を知ってから「これは絶対!!」と気合を入れていました。
みのわ 新橋演舞場で伊東四朗さんが観られるなんて感激! わくわくしちゃって駅に15分も早く着いちゃったくらいでした。
栗原 私も三宅裕司さん率いる熱海五郎一座は、いつも気にはなりつつ観る機会がなかったから、もう今回を逃すわけにはいいかないと! なにがすごいって新橋演舞場ほぼ満席でした。初日からほとんどそうだとカーテンコールのとき言ってましたよね。
みのわ 伊東さんがどんな役柄なのか興味深々だったのですが、まさかの魔法使い役!
栗原 設定があの! でした。四朗さんの役名はハナー・ホッター。この感じ大好き(笑)。
みのわ 伊東さんはもちろん、メインキャストの皆さんの平均年齢はかなり高くて親近感わきました(笑)。そんな中、設定は魔法学校だし、まさかのクリーピーナッツは歌うし……。
栗原 往年のギャグもびっくりするほど早い段階でぶっこんでくれて「私たち得」でした。
軽演劇の楽しみを
とことん満喫
みのわ 出演者は10代の若者から御年87歳の伊東さんまでかなりの幅でしたが、一体感がすばらしかった。お互いへの信頼と温かな雰囲気が会場にも伝わり、一体になっていく感じがしました。一緒に楽しもう!という気持ちが全体にあふれていました。
栗原 たしかに……。ひょっとしたらハリー・ポッターはよく知らない人もいたと思うし(私も実はよく知らない)、それでも心配いらずに笑ってみていられる感じ、それこそが「東京喜劇」なんだろうなぁ。
みのわ パンフレットに「軽演劇」という表記もありましたよね。客席は我々より年長者がほとんどで、男女バランスよく入っていた印象です。 ご夫婦で、お友達と、「わっはっは」と笑える空間。コロナを乗り越えて今の幸せをかみしめる瞬間でもありました。
栗原 コロナを乗り越えてと言えば、幕間に客席でお弁当を食べるのも演舞場の楽しみ。コロナ禍ではもちろん禁止でしたけど、劇場に入って売店に並んでお弁当買って30分の幕間で美味しくいただきましたね。
みのわ 客席で食べていいなんて本当に嬉しかったし、おいしかったです。
栗原 今日は厚焼きたまごサンドとカツサンドを分け合って食べましたけど、厚焼きたまご
サンドは味も美味しいけど、今回の「スマイル フォーエバー」の中に出てくるネタにもちょっと被るからそんなことも楽しかったし、オススメ。
舞台の上に充満している
居心地の良さの理由とは
みのわ 伊東さん演じる魔法使いはハリー・ポッターみたいに大活躍はしないけど、そこが良かったです。本当に気づかないくらいの困りごとや「え?それ魔法使わなくてよくな
い?」そして「せっかく使った魔法がそれ?」と突っ込みたくなるような事をちょっとだ
け解決して「ふふっ」と喜んでるようなそんな人。
栗原 魔法をかけるときの呪文もわかりやすくていい! 四朗さんがあの「ニンッ!」みたいなテンションで言うから最高です。
みのわ しかも自分のためには魔力を使わず、人の笑顔のために使っている。
こんな魔法使いを見てたら優しい気持ちになって、自分もちょっとだけ何か人のためにし
てみようかなという気持ちになりました。
栗原 ほんとほんと。四朗さんと共に、もう一人のゲストキャストが松下由樹さんでした。スタイル良くて、いきいきしていてとても良かった。
みのわ 圧巻の演技でした。一人芝居は振り切っていて本当にお腹を抱えたし、まさかのアクションもあり歌もあり、のびのびと楽しそうに演じてましたね。でも最後にはちょっとほろりとさせるその技量はさすが!
栗原 松下さんはちょいわる淑女、まさかの東京都知事・大沼桜子役でした。いろいろタイミング良すぎる。衣裳も緑系が多かったし(笑)。
そして私はなんといっても三宅裕司さん。実はなんとなく失礼ながら「三宅さんももうなかなかの年齢だよなぁー」なんて始まる前には思っていたけれど、座長はすごい、ツッコミもさえまくって年齢を全く感じさせなかった。
みのわ 伊東さんはもちろんですけど、三宅さんの度量の深さを感じました。演者同士の尊敬の念があって、「ばかだなあ」って笑い合える気安さもある。この居心地の良い空間は一朝一夕にはできないのだろうな、演者同士の尊敬の念があってこそなのだろうなと思います。あの空気感、いつまでも浸っていたい気持ちよさでした。ゲストの方たちもきっとそんな空間に身を置いて演じるのは楽しいのではないかなあ。
「ひつじのまなざし」でも書きましたが、空間をいくらきれいに形作っても、それだけで
は居心地の良い場所にはならないと思うんですよね。そこにいる人が居心地よいってどんなことだろうと話したりしながら試行錯誤するその過程がとっても大事な気がします。
その過程こそが発見があり面白いとも思います。
栗原 たしかに……。出演者の皆さんって、それぞれもうトップというか、いろいろ率いていたりする人ばかりですもんね。渡辺正行さんはリーダーだし、ラサール石井さんは舞台の演出されたりもするし、春風亭昇太さんは落語芸術協会会長だし。けど、皆さん、いろいろちゃんと!? イジられてました(笑)。
みのわ 演者の方々はそれぞれの個性が本当に良く活きていて、それぞれが愛おしい存在になっていました。誰もが自分らしくいられるから居心地が良いのかもしれないと思いました。伊東四朗さんと舞台で共演できるというのも、皆さん嬉しそうでしたよね。
栗原 この舞台には、劇団スーパー・エキセントリック・シアターの皆さんもたくさん出てました。ベテランの方々は、歌もすごく上手くでビックリしました。若者たちも皆、がんがんとんぼ切ってましたし。……あれ、イマドキとんぼを切るって言わない???
みのわ 整理収納に絡めた感想は、居心地のいい居場所づくりということに関して以外は全然出来なかったですね(汗)
栗原 でもでも、都知事の桜子さんとその娘の菜乃晴ちゃんとの親子の場面で、まさかの「捨てる」というキーワードが多発してましたよ。ちゃんと四朗さん演じるハナー・ホッターの魔法でうまく収まったしね。
みのわ 伊東さんの喜劇俳優としての技術と最後のご挨拶で拝見できた満面の笑顔、最高でした。あの笑顔は私に大きな勇気をくれました。87歳になってもなお高みへとチャレンジする、そこにちょっとしたユーモアを忘れない本当に素敵な方だとわかりました。
栗原 ラブが止まりませんよね。最後の最後のカーテンコール、四朗さんにロックオンで、目を離しませんでしたもん。ちゃんと手も振ってくれてましたし。
みのわ 一日2回公演もある1カ月の長丁場、本当にすごいと思います。私たちが疲れたなんて言ってられませんね。
栗原 反省しまーす。そういえば、幕が下りた後に見たある現象がとても気になっちゃったんだけど、それについては場所を変えてまた書こうかな。
みのわ そうでした! くりさん、ぜひあの現象に名前をつけてください(笑)。
熱海五郎一座『スマイル フォーエバー~ちょいワル淑女と愛の魔法~』
2024年6月2日(日)~6月27日(木)
新橋演舞場
作/吉髙寿男
出演・構成・演出/三宅裕司
出演/渡辺正幸、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東貴博/深沢邦之、劇団スーパー・エキセントリック・シアター、伊東四朗、松下由樹