ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます
ちょうど一年前、話題の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』を1公演だけ観ることが出来た。
同キャストでの再演。プリンシパルがWキャストなので幾通りもの組み合わせがある。
「何度も観るって意味がわからない」と言う人がたまにいるけれど、例えばどなたかお一人気になる役者さんがいたとして、そのお相手は両バージョン観たくなるだろうし、作品の中で絡みの多い配役ともそれぞれのバージョンで観たくなるだろう。
今は、オフィシャルサイトのキャストスケジュールで観たい人を指定して、該当する日を検索することが出来る。その昔は、キャスト表をプリントアウトして観たいキャストの日をマーカーで塗って、とかやっていた。劇場近くのカフェでそれを眺めながらお友だちと日程を検討する……みたいな光景もよく見られたものだ。
……と、昔話をしたいわけではなかった。
とにかく今年、また観られるチャンスがやってきて、サティーンを演じる望海風斗さんと平原綾香さん、クリスチャンを演じる井上芳雄さん、甲斐翔真さんを全て観ることが出来た。
その他のキャストも書き始めると長くなってしまうのでここでは割愛。でもプリンシパルはほぼ全バージョン観ることができた。検索機能さん、ありがとう!
再演を観て改めて感じたのは、この舞台はキャストによって見え方が違う……などというものではなかった。
客席のノリによっても見え方が違うのだ。これは『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』に限ったことではないけれど、1年ぶりに赤く染まった帝国劇場に足を踏み入れ、いざ開演したら、「ノリ」が出来上がっていた。拍手、歓声がコンダクターに指示されているように正確。少し圧倒されてしまい、反動で腕を組んでしまったくらい(笑)。
そして徐々に感覚が戻って来た。そうだ、この作品世界は、自分たちがムーラン・ルージュの観客になれるのが最高なのだ。
初演観劇後のレビューでは、
~~サティーン本人も、「これが私の生きる道」と折り合いをつけて、クリスチャンへの気持ちを抑え込もうとする。その一方で、ムーラン・ルージュの華として、そのショーのはじめの夜には自分が立つのだと命を削りながらプライドの火は消さない。
と書いていた。
1年経って今回はもっとこの「プライド」に目がいった。
ムーラン・ルージュを取り仕切るジドラー(橋本さとし/松村雄基)のプライドは、仮面をつけ、煙に巻くような身のこなしで、でもこの小屋への愛を握りしめている。
デューク[モンロス公爵](伊礼彼方/K)のプライドは、揺るがない、揺るがせてはならないものとして生まれた時から持ち合わせてきた、いや、持たされてきたプライド。それはそれでしんどいよなぁ~みたいな気持ちになったり、ならなかったり。
トゥールーズ=ロートレック(上野哲也/上川一哉)のプライドは、作品中でもっともはっきりと描かれている。そこにたどり着くまでに感じたやるせなさや悲しみや怒りが、まとわりついていた。やるせなさ、悲しみ、怒り、『インサイト・ヘッド』じゃないけど、その感情が彼の人生に訪れた順番がどうであったか、アナザーストーリーを知りたくなった。
サンティアゴ(中井智彦/中河内雅貴)とニニ(藤森蓮華/加賀楓)のプライドとプライドのぶつかりあいも、クゥーッって感じだ。信頼している相手にしか身体は預けられないわけで、でもそれを彼らは彼らの人生の中で体得して今に至るのだ、そんなことを想像してしまう。
そしてクリスチャン。クリスチャンはこの物語の第一章を終えた後にきっと、すばらしいプライドを手に入れるのだろう。
すばらしいプライド、うん、なんかいいじゃない。クリスチャンにぴったりじゃない?
サティーンとの悲しい恋の結末に涙を流す人はたくさんいるけれど、いつまでも泣いていないでいられるのは、彼がすばらしいプライドを手に入れたことの証人みたいな気持ちになれるからな気がしている。
この公演の最中、パリ オリンピックが行われ、白熱の競技が繰り広げられている。
勝敗、メダルの有無はもちろん気になるけれど、それぞれの結果を受け止める選手たちもまた「すばらしいプライド」保持者ばかり。
さぁ、自分はどんなプライドを手に生きていけるだろうか。
東京公演/2024年6月20日(木)~8月7日(水)
帝国劇場
大阪公演/2024年9月14日(土)~9月28日(土)
梅田芸術劇場
出演/望海風斗/平原綾香、井上芳雄/甲斐翔真、橋本さとし/松村雄基、上野哲也/上川一哉、伊礼彼方/K、中井智彦/中河内雅貴、加賀 楓/藤森蓮華、菅谷真理恵/鈴木瑛美子、磯部杏莉/MARIA-E、大音智海/シュート・チェン ほか
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