拝啓、ステージの神様。 PR

めくるめいた『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』

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ステージには神様がいるらしい。 だったら客席からも呼びかけてみたい。編集&ライターの栗原晶子が、観劇の入口と感激の出口をレビューします。
※レビュー内の役者名、敬称略
※ネタバレ含みます

帝国劇場が赤く染まっていると聞いていた。
それはそれはゴージャスな「ムーラン・ルージュ」の世界が広がっているのだと聞いていた。だからだったのか、私的にはめずらしく全身黒ずくめの服を着て、帝国劇場を訪れた。
噂通り、劇場ロビーも劇場内も赤く染まっていた。
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』

開演前、幕間、終演後は写真も動画も撮影OKだという。動画も良かったんだね。
ロビーではワインなんかも売られていて、どうぞムーラン・ルージュの世界に浸ってください……という丸っとした演出がされている。
でもトイレはお馴染みの長蛇の列ができるし、キャストボード(その日の配役がわかる写真ボード)の撮影のための長蛇の列もあった。
それがあまりにもムーラン・ルージュの世界とは雰囲気が異なるので、私は早めに客席に着いた。

あ、あの象がいる! サティーンのお部屋だったよね。
ショーが始まる前のなんとなくザワザワした雰囲気もいい。
開演の少し前からキャストが舞台上に登場し、ゆっくりゆっくりパフォーマンスをしているけれど、なんとなく見ている人もいれば、気づかずおしゃべりしている人もいて、ひたすら写真を撮り続けている人もいれば、スマホで別のことをしている人もいる。
もうこの雑多な感じさえ、ムーラン・ルージュ! の世界なのかもと思い、キョロキョロしながら開演時間を待った。

そして始まった。激しく美しいショーの開幕をクラブのオーナー・ジドラー(橋本さとし)が告げると、耳馴みのあるナンバーに乗せて、華麗なダンスショーが始まる。

ストーリーはとても単純だ。
ナイトクラブ・ムーランルージュは経営難。
そのクラブのミューズ、輝くダイヤモンドと呼ばれるサティーン(平原綾香)は、ある日、アメリカ人作家のクリスチャン(井上芳雄)と恋に落ちた。
クリスチャンはボヘミアンの友人画家のロートレック(上川一哉)やタンゴダンサーのサンティアゴ(中河内雅貴)らと新しい作品を作り、このナイトクラブに売り込みに行った際に、手違いでサティーンと運命の出逢いを果たしたのだ。
しかし、オーナーのジドラーは、クラブ存続のために公爵のデューク(伊礼彼方)をサティーンのパトロンにと引き合わせた。デュークはムーラン・ルージュとサティーンをすべて自分のものにすべく振る舞う。
新作に向け、稽古が繰り返される中、二人は周りの目を盗んで愛を育んでいったが、サティーンには命の期限が迫っていた……。

単純なストーリーとは別に、音楽や構成は複雑というか、めくるめく展開で進んでいく。
あ、あの曲! お、この曲!! と流れる度に記憶と気分が反射神経を起こしまくる。
そして、もう少し聴きたいと思うところでメドレーになって次の曲に移ったりするものだから、もう刺激されちゃった観客の血圧は上がる一方だ。

芸術家たちのほとばしる思いもユニークでコーティングしつつ、それぞれのシーンに反映されていた。
聞きわけのいい大人になった自分は、クリスチャンの恋をただただキラキラとは応援できない気分でいた。
サティーン本人も、「これが私の生きる道」と折り合いをつけて、クリスチャンへの気持ちを抑え込もうとする。その一方で、ムーラン・ルージュの華として、そのショーのはじめの夜には自分が立つのだと命を削りながらプライドの火は消さない。

聞きわけのいい大人になった自分は、いつしか、そこまでの気持ちがあるのなら、意地でもこのショーをやり遂げて! クリスチャンへの思いも叶えるべきよ! みたいな気持ちになる。
単純なストーリーに、極上の音楽やダンスがあって、刺激されまくった聞きわけのいい大人たちは、そんな風にステージの虜になる。

そうした客席というか会場の空気に呼応するみたいに、クリスチャンとサティーンの感情がマックスになったところでムーラン・ルージュの物語に幕が下りる。
このめくるめく感よ! と思っているところでフィナーレでまた『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』の観客である私たちは、「ムーラン・ルージュ」の客になりきれる。

客席で声をあげてもいい、その環境になった今、観れてよかった。
だって、これをヒューヒュー、ヤーヤー言わずに観ることなんてあまりに辛すぎるもの。

劇場を出るとかなりの湿度が体にまとわりついた。
でもこのさわやかじゃない感じも、ムーラン・ルージュの世界観みたいな気がしたのは、
あの時間、あの赤に包まれていたせいに違いない。

公演パンフレットは2500円。赤×黒のムーラン・ルージュの世界観に包まれたデザインと、このミュージカルが生まれ、上演に至る背景もぎっしり詰めこまれています。
拝啓、ステージの神様。
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映画『ムーラン・ルージュ』