三階席から歌舞伎・愛 PR

新作歌舞伎_プペル~天明の護美人間~THE 海老蔵

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
初心者ならではの目線で、印象に残った場面や役者さんについて書いてみます。

新橋演舞場で上演されている新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』を観てきました。
毎年、一月の新橋演舞場には、市川海老蔵さんが出演します。正月の名物として口上のあとの「にらみ」で一年の無病息災を祈願するというのを楽しみにしていますが、今回は、新作歌舞伎ということで口上はありませんでした。

『プペル~天明の護美人間~』は、絵本や映画で多くのファンを獲得し、最近はミュージカルとしても上演されたという『えんとつ町のプペル』の歌舞伎版です。
脚本は絵本の原作者でもある西野亮廣さんです。
歌舞伎ということで、時代設定も江戸時代だし、音楽、衣装、舞台装置などすべてが歌舞伎仕様ということで、どんなものになるか非常に楽しみでした。

いつもは歌舞伎座の三階ですが、今回は新橋演舞場の三階席から観劇いたしました。
歌舞伎座と違い、演舞場の三階席からは花道が全く見えません。
歌舞伎座では、「すっぽん」(花道の七三くらいのところにある仕掛け・せりのこと)くらいまでは何とか見えるのですが、新橋演舞場ではそれも全く見えません。
その代わり、客席の隅にモニターが設置されており、花道で役者さんが芝居する様子は画面越しに観ることになります。少しさみしい感じがするのは仕方ないところですね。

今回は、原作が『えんとつ町のプペル』ということで、客席には歌舞伎を初めてご覧になる方も多く来場されていたようです。
もちろん、市川海老蔵さんの大ファンで欠かさず観ているというファンの方も。
拍手のタイミングや熱量は、歌舞伎座で観るときとは少し違う感じもしました。

ちなみに、今作は、市川海老蔵さんのお子さん、市川ぼたんさんと堀越勸玄さんが日替わりで出演する親子共演も話題ですが、この日は市川ぼたんさんが出演する日でした。

序幕の前の「発端」。
熊八(原作ではブルーノ)が「浅間山の噴火以来、空を覆っている黒雲の向こうには星がある」という話をして、老中田沼意次の手下に殺される場面から物語がスタートします。
映画では、ブルーノの死は明確に描写されてはいませんでした。
(もちろん、歌舞伎を観に行くために、映画は予習として見ていきました。)

その後、護美人間の誕生のシーンです。ゴミ人間を護美人間と書きます。美を護るで、護美なんですよね。
歌舞伎では、熊八が殺害された後、熊八の心臓が赤い球となり、舞台をさまよい、セリの中へ落ちていくと、鮮やかな赤色を青色を使った衣装を身にまとった市川海老蔵さんが登場しました。この赤色がとても鮮やかで現代的で、通常の歌舞伎とは一味違う感じもしました。
赤と青の二色使いは、動脈と静脈を表していたのでしょうか。

続いて、張り子の大きな竜3匹を使った「龍踊(じゃおどり)」の面々が登場し、舞台中を動き回り、心臓の鼓動を表現するために海老蔵さん自ら太鼓を叩きだします。
映画では、ゴミが一つずつくっついてきて、ゴミ人間誕生となりますが、歌舞伎では、太鼓を含めた音楽の演奏や「龍踊(じゃおどり)」のうごめく中、早替わりで、護美人間となった海老蔵さんの登場です。
この登場の時の拍手は特に熱かったですね。歌舞伎の醍醐味も感じられました。

映画との違いはいくつもあり、父親である熊八は生き返り、老中と対決するなど海老蔵さんが大活躍の演出です。
「はる」(映画ではルビッチ)が主人公ではないのがオリジナル感がありました。
また中村児太郎さんや市川右團次さんも出演していますが、ばっちりと目立つ場面は少なく、海老蔵さんのカッコよさとぼたんさんの可愛さで成立している舞台に感じました。

手拍子が鳴りやまず、歌舞伎では通常ないカーテンコールが5回もありました。これは新春ですから、賑やかだし、初めて歌舞伎を観た方には心に残る演出なのかなというところ。

歌舞伎では、同じ演目を違う役者さんの組み合わせで観る楽しさもありますが、
今回は好きな役者が観れればそれだけでいいという別の観方で楽しみました。
海老蔵さんの魅力は、見得を切るときなどの凛々しい顔と、荒々しいセリフを放つときのハリのある声。
『プペル』でもそれはしっかり堪能できました。

一月は歌舞伎座にも行く予定です。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。