三階席から歌舞伎・愛 PR

二月大歌舞伎__物騒ですが悪役がいい

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歌舞伎をほぼ毎月楽しんでいる50代男性。毎月観るために、座席はいつも三階席。
印象に残った場面や役者さんについて書いています。

歌舞伎座新開場十周年 二月大歌舞伎を観てきたのでご紹介します。
歌舞伎座に行く時、というより出かける時は時間に余裕を持って行くタイプです。
今月はもうすぐ歌舞伎座に着くという地下鉄日比谷線で、列車緊急停止ボタンが押されて開演に間に合わないかもしれないという状況が起こりました。
結果的には、開演約5分前、ギリギリに着席する形で間に合いました。
いつも通り三階席なので、開演前にダッシュするのはキツイですから、やはり時間に余裕を持って行くことは大事ですね。

今回は第三部、通し狂言 霊験亀山鉾(れいげんかめやまほこ)をご紹介します。
この作品は、「亀山の仇討 片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候」
と銘打たれています。
ここで言う一世一代(いっせいちだい)とは、演じ納めを意味しています。
つまり「この演目を私が演じるのは今回が最後ですよ……」ということです。

四世鶴屋南北の作品を片岡仁左衛門さん監修で上演です。
実際にこの演目を最初から最後まで上演すると4時間以上かかる大作のようなのですが、
平成14年、2002年から国立劇場などで仁左衛門さんが数回この演目を上演されてたことが筋書きの上演記録でわかります。

今回の歌舞伎座では序幕の甲州石和宿棒鼻の場より大詰 勢州亀山祭敵討の場までが上演されました。

悪い男をさせたら、片岡仁左衛門の右に出る人はいません。
私も自分のプロフィールの好きなものの中に「仁左衛門丈の悪役」と書くほどで、
今作も悪役ぶりを楽しみに観ました。

歌舞伎では、二役以上を一人の役者が演じることはよくあります。
〇〇実は●●という表記で途中で化けたり、正体を隠していて実は……というケースも多いですね。
今作は二役を演じる人が三人もいるのが面白かったです。ここを事前に頭に入れておくと複雑なストーリーの少しは手助けになりそうです。
藤田水右衛門/隠亡の八郎兵衛 片岡仁左衛門
石井源之丞/石井下部袖介 中村芝翫
大岸頼母/掛塚官兵衛 中村鴈治郎

亀山の仇討というのは、元禄14年に実際に起きた事件だそう。
筋書きには藤田水右衛門を中心とした人物相関図が載っていますが、
返り討ちと仇討ち、殺害の矢印だらけ。物騒ではあります。

仁左衛門さん演じる八郎兵衛は、左のこめかみに大きなほくろがあります。
これは以前演じた歌舞伎役者が当たり役だったため、それを真似して取り入れたのだといいます。験を担ぐというか、そうしたことを楽しむ感じも粋だなと思います。

仁左衛門さんの演じ分け、水右衛門の時はものすごく低い感じで声を出して、非道な男を表していました。
仇討ちの詮議をされる場面では水右衛門と掛塚官兵衛(中村鴈治郎)が実は結託していて、
水右衛門に果し合いを挑む石井兵介(坂東亀蔵)を毒殺してしまいます。
とどめを刺すシーンが普段になく残酷で、大の字になった兵介をまたいで、首をゆっくりぎこぎこする様を演じきっていました。
まあ、物騒ではあります。

今回は一人二役をする人が3人いたと書きましたが、二役の面白さに付き物なのが早変わりです。
顔が似ているから人違いをするという設定も相まって、観ているこちらも混乱しそうになりますが、早変わりの演出があることで「おおっ」となり、それもまた見所になるのです。

仁左衛門さん演じる八郎兵衛は隠亡です。隠亡とは火葬場で火をつける仕事、遺体を荼毘にふす役目です。
仇同士の水右衛門と源之丞(中村芝翫)の場面で、源之丞は惨殺され、次なる棺桶が出てくる場面では、ふたつの棺桶が取り違えられます。
取り違えも歌舞伎ではよく出てくる場面です。

源之丞といい仲だった芸者のおつま(中村雀右衛門)は、八郎兵衛を斬り井戸に落としますが、そこへ棺桶に潜んでいた水右衛門が現れます。つまりここが早変わりですね。
結局、おつまも手に掛けられてしまいます。
水右衛門は指を折りながら、これまで7人を手に掛けたとニヒヒヒヒと笑うのです。
とにかく物騒ではありますが、悪役をやらせたらもう仁左衛門さんは天下一品なのです。
そんな7人も手に掛ける悪者が最後はどうなるかといえば、それはある意味皆さん安心の結末です。

演目から考えると、これは正月には向かないし、春めいてきた時期にも似合わない。
となると、二月大歌舞伎で上演されるのは具合がいいのかもしれません。
初めに触れた、過去の上演記録を見ると、10月に二度、11月に一度上演されています。
いや、平成21年、2009年の1月に上演されていました。
場所は大阪松竹座なので納得がいきますね。西の花形、片岡仁左衛門の一世一代が見られて良かったです。
物騒ではありますが、あの仁左衛門さんが指折り数えながらニヒヒヒヒと笑う顔が頭から離れません。

CHECK!

舞台写真付きの詳しい歌舞伎レポートは、エンタメターミナルの記事「歌舞伎座新開場十周年「二月大歌舞伎」が開幕!公演レポート、舞台写真掲載」をご覧ください。

文・片岡巳左衛門
47歳ではじめて歌舞伎を観て、役者の生の声と華やかな衣装、舞踊の足拍子の音に魅せられる。
以来、たくさんの演目に触れたいとほぼ毎月、三階席からの歌舞伎鑑賞を続けている。
特に心躍るのは、猿之助丈の化け物や仁左衛門丈の悪役。