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Vol.20『腐草為蛍』

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近くの運動公園に青々と草が生い茂っている、その中にぽつぽつとススキに似た白い花穂をつけた草があった。この草を見つけると、条件反射的に蛍を思い出す。子どものころに母に蛍草と教わった気がしていたが、「蛍草」を検索してみたところ、ツユクサの異名と知って驚いた。
ではあの草は何だ?ということで調べてみると「チガヤ」というイネ科の植物だった。

この「チガヤ」が白い花穂をだすと「そろそろ蛍が飛び始める時期」と子供心に記憶され、住む場所は変わった今でも、この認識は変わらないままでいる。
子どものころに住んでいた実家の隣には小さな神社があり、家と神社の間には幅1メートルほどの昔ながらの石垣の用水路が流れていて、その環境のおかげで6月になると用水路周りや神社の境内でほのかな光を放ち浮遊するような蛍を見ることができた。蛍が飛ぶこれも私の原風景のひとつであることに間違いない。

実家のそばでも見ることができた蛍だが、山里の清流の流れる場所ではもっと多くの蛍を見ることができた。実家から車で30分ほどの場所に小石原焼で有名な東峰村がある。大人になって北九州市から実家に向かって車を走らせているときに東峰村あたりを通りがかったとき、思わず車を停めた。渓流沿いの道に、それこそ雪のように蛍が飛んでいたからだ。あんなに数多くの蛍を見たのは人生で初めてだった。

最後に蛍を見たのはいつだろう?
記憶をたどる…おそらく子どもが小さな頃の仙台市内の森林公園の中でのホタル観賞会だ。もう20年近く前かもしれない。

腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
七十二候の一つ。二十四節気の芒種の次候にあたり、6月11日~6月15日ごろに相当する。
季節は仲夏。腐草為蛍は、それ自体としては「腐った草が蒸れ蛍になる」などといった意味。
古くは、暑さに蒸れて腐った草や竹の根が、蛍になると信じられていたらしい。

当たり前にあった景色は場所が変われば、当たり前ではなくなる。
その景色を見たいと望み、行動を起こさないと見ることができない。

先日観た映画「国宝」の中のいくつかのシーンと雪のように飛ぶ蛍が重なった。
来年こそは蛍舞う幻想的な景色を見にいきたい。

書・文・松杏
子供の頃から文字を書くのが好き。小学生で習っていた書道を40歳過ぎて再開。文字の美しさ、墨の表現力に魅了されている。
書と整理収納の共通点は余白とバランス。

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