アトリエMの本棚 PR

火車 / 宮部みゆき

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。

火車 / 宮部みゆき

休職中の刑事である本間のもとに、亡くなった妻の親戚である男性 和也から頼まれごとが持ち込まれた。急に失踪してしまった彼の婚約者を探してほしい、と。

28歳のその女性 彰子は、婚約者と一緒に、結婚生活の楽しい買い物をしているとき、手持ちの現金が不足してちょっと困ったことがあった。1枚もクレジットカードを持ったことのない彼女は、「何かと不便だから作っておいたら?」と、銀行員である婚約者の和也に勧められて、初めてのクレジットカードを彼の銀行で作ることにした。同僚に頼んで、便宜を図ってもらい、通常より早く作れる、はずだった。ところが和也は、その同僚に言われたのだ。

「この彼女との結婚、ちょっと考えた方がいいんじゃない?」
彰子の名前は、銀行系と信販会社系、両方の信用情報機関のブラックリストに載っていた。彼女は過去に自己破産をしていたのだ。カードが作れない、ということを婚約者の口から伝えられた時、彼女はすうっと青ざめた。まるで、『自分』が自己破産したことを初めて知ったかのように。そのあと彰子は、自らの意思で姿を消した。

なんの説明もなく、どうして姿を消してしまったのかさっぱりわからない和也は、遠縁である本間が刑事で、現在、休職中であるところに、この相談を持ち込んだのだ。

刑事のノウハウと、コネを使って彰子の行方を追う本間。前の職場、その前の職場、天涯孤独だから家族はいないが、親しかった友人……行方を辿っていくにつれ、さまざまな事実が判明してくる。彼女は、なぜこんなにも完璧に痕跡を消して失踪しなくてはならなかったのか。現れたもう一人の女性 喬子の存在。亡くなった母親は自殺か他殺か?
彰子は、喬子は生きているのか? この2人の関係……

かなり分厚いこの本、ページを繰るのがもどかしいほど、先が知りたくてたまらない。あっという間に、読了。

今でこそ、自己破産のことは、たいていの人は理解していると思うけれど、この本が書かれた当時は、まだものすごく怖いものだと思う人も多かっただろう。私も、
「自己破産すると、前科一犯とかになっちゃうんでしょ……?」とか、
「選挙権も無くなっちゃうんだよね……?」とか言う声も聞いたことがある。
実際は、ぜんぜんそんなことはなくて、自己破産の手続き中に制限される職種があったりするが、自分から言わない限り、周りに知られることもない。
「あちこちに借金しまくってさあ、自己破産して、返さなければいいんだよ」
なんて考えの人も、いないではないが、自己破産は、一種の救済措置だ。どうしても借金をしなくてはならなかった人、連帯保証人になってしまった人、買い物依存症による借金を重ねてしまった人。人にはいろいろな事情がある。

「自己破産しちゃいなよ」とは言わないけれど、1つの選択肢としてそれもあるということを頭に入れて、自分の事情を踏まえて考えたら、きっとまた違った結論が出る。それを知っていたら、この本の彰子や喬子、またその周りの人の人生も、もっと違ったものになっていたかも。

平成10年発行のこの本、和也の勤め先が「第一勧銀だったか、三和銀行だったか……」ってくだりがあるのだけれど、懐かしい。何回か名前が変わって、今は、みずほ銀行と、UFJ銀行だもんね。

文・こばやしいちこ
小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

★このページでご紹介しているシルバーアクセサリーはアトリエM&Mでお求めいただけます。