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移植医たち / 谷村志穂

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中から、読者におすすめの一冊をご紹介します。

移植医たち / 谷村志穂

1984年、ある医学部附属病院に、アメリカから臓器移植で有名な医師、セイゲルが講義にやってきた。それを聞こうと、全国からこの病院に医師が集まってきたが、半分以上が冷やかしだ。当時は、臓器移植は「人体実験」とまで言われていたのだから、その分野で有名なセイゲルは変わり者の、恐ろしい怪物……しかし、怖いもの見たさの医師たちの中に3名ほど、意思を固めた者が。

研究に没頭するあまり、妻子に出て行かれたことも気づかなかったというセイゲル。パワフルで才気にあふれた医師にすっかり魅了されてしまう佐竹山医師。同じ医師仲間や先輩医師に「移植というのは、どう考えても気色が悪い」とさえ言わしめてしまうこの分野に飛び込むのは、過去に、若き肝臓がんの若い患者を助けられなかった、という後悔があるというのも大きな理由だろう。あの時、移植という技術があれば……

そんなセイゲルに魅せられて、セイゲルから学びたいと、日本から佐竹山医師含め男女3人の医師が渡米する。最初は給料も出ない。勉強させてもらうのだから。世界中から多数の医師が集まるのだから、満足に学べるとも限らない。ここでは日本人の美徳とする『控えめで前に出ない』、という性質は役に立たない。むしろ、セイゲルに、「やれるか?」と聞かれたら、出来なくたって、自信がなくたって「やれます!」と答えないと、学べるチャンスを逃すのだ。過酷な学びの場……
学びたい、取得したい、と必死の医師たちは、どんなことにもくらいついていく。

併設されている動物ラボには犬、チンパンジー、ヒヒ、ネズミ達が。ここでは、移植の手技をまず動物で練習するのだ。健康なビーグルから、種類の異なるやはり健康な犬に移植を行う。もちろん、この犬たちに手術は必要ない。健康なのだから。移植の手術が成功するのは大前提。ここで必要なのは、その後の免疫抑制剤の効果、効能。一日でも長く生かすために記録する。動物実験だ。でもやる方だって、ツラくないわけがない。動物ラボでの仕事をすっかり任されて、セイゲル医師から全幅の信頼を受けるようになった凌子先生。後進に指導する立場にもなり、相変わらず毎日クールに仕事をこなしていたが、ある時、1人の後輩が、ネズミの移植を命じられて、つい、「ネズミの移植かよ」と漏らした。すると、
「ここではどんな動物でもヒトと同じだと思ってちょうだい。どの命も決して無駄にしないで」
凌子先生は、ぴしゃりと言い放つ。シビれる場面だ。
「移植医療の成功率を高めるためには、動物実験を続けることが必須なんだよ」と、セ
イゲルも言う。
無数の犬たちの命が、彼らを移植医に育ててくれた。

彼らは、ただ、移植でしか助からないこの命を、生きていたいと涙する目の前の患者を助けたいだけなのに、まだ移植がスタンダードではない日本では白い目で見られたりする。移植の手術が成功すると、『煙草の箱にも満たない大きさ』の記事で報道され、医師たちは、
「今回も小さな記事となって、おめでとう」と、皮肉る。日本では、失敗の方が大きな記事になるのだ。

日本の医師が優秀で腕が良いのに、なぜ巨額のお金がかかってもみんな米国へ行くのか?
それは、臓器移植法が施行されて26年たつ日本で、ドナーの数が増えていないからだ。
臓器移植を希望している人たちに対して、圧倒的にドナーが不足している。この、伸び悩んでいる理由の一つに、日本では、脳死からの臓器提供について、生前に示された意思を確認できた人から臓器提供を行う「オプティングイン」の考え方を採用していることだ。世界で臓器提供数が多い国は、生前に“提供しない”という意思が示されていないかぎり臓器提供を行う「オプティングアウト」を採用している国が多い。

まだ、私の臓器は使う予定なので、でも、すこ~し、せめてほんのすこ~しでも誰かの役に立てたらな、と、チクチクと献血に励むくらいしか出来ないけど。
私の血漿が、血小板が、赤い血液が、誰かを助けていますように。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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