アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。
意地悪な食卓 / 新津きよみ
イヤミスの女王の1人である新津きよみさんの、「食」にまつわる短編集。「食」とは言っても、読んだ後に何かが食べたくなるわけではありません。むしろ、食欲が失せるかも……?
都会で、美食に、おしゃれにとにあけくれていた友人が、携帯も繋がらない長寿村という村で突然田舎暮らしを始めた。しきりに遊びに来るように、との手紙を受けて、友人が魅せられた村の秘密に興味があったのもあり、長寿村を訪ねる主人公。化粧もせず、作ったりもらったりした野菜で、ご近所さんとも密接に助け合い、ほぼ自給自足の生活。そんな生活とは対極にいたはずの友人がなぜ急に?
この村に留まる秘密に触れてしまった主人公は……。(『珍味』)
急逝した姉の遺した手作りの梅酒。これを姉の親しい友人、ゆかりのある人たちみんなで飲みながら姉を偲ぶ会をしたら、出てくる出てくる、姉の思い出の話。姉の自慢の美味しい梅酒を飲みながら、アルコールのせいだけとは言えないほど滑らかになる出席者の口から語られる、美しく優しいはずだった姉の別の顔。友人たちの本音。そして、姉の死にまつわる秘密。(『遺品』)
ホームヘルパーの主人公は、職場で、かつて小学生だった時の担任の先生に再会した。先生は覚えていないようだが、主人公は覚えていた。遇った瞬間にわかった。わすれたくても忘れられない。なぜなら、食の細かった主人公は、この元教師に無理やり給食を完食することを強いられたという、嫌な思い出があるからだ。あの時とは逆に、食事の介助をしながら、ひそかに復讐心を募らせる主人公。(『給食』)
給食を無理やり食べさせられた過去のある主人公の短編を読んで、思い出したことがある。昔、弟が保育園に通っていた頃の話。弟と年齢の離れている私は、小さなお母さんよろしく、弟の保育園のお迎えなどを買って出ていた。
弟が4歳か5歳のころだったろうか? その時は、母と私で一緒に弟を迎えに行ったと思う。支度して、帰るとき、弟が一番なついていた、かわいらしい優しい保育士さんがいたのだが、その先生が母に、
「今日、給食の時、ちょっと……ありまして……お家に帰ってからも気を付けてみてあげてください……」
と、目を潤ませて言ってきた。
バナナが嫌いで、食べられないわが弟。なんでも、給食の時にバナナが出て、ちょっと厳しめの保育士さんに食べることを強要されたのだそう。それだけではない。怒られて怖かったのか、無理して一生懸命に食べたのだろう。でも、受け付けられず吐いてしまった。そして何と言うこと! その保育士さんはその吐いたバナナを食べさせたのだそうだ……
すごく覚えている。小学生だった私も、弟が不憫で怒りで身体が震えた。今思い出しても、腹が立つ。
今だったら、SNSに投稿するとか、保育園の園長先生に言うとか、してたかもしれないけれど、当時、そういったことはしなかったと記憶している。私はコドモだったし、母も、怒ってはいたけれど、方法が見つからず、それから「先生」というのは偉い、という時代だった。今だったら大問題だ。マスコミだって押し寄せたかもしれない。いや、当時だって大問題だけど。
ただただ、幼い弟を抱きしめた。
大人になってからも、家族で当時のことを話すことはある。すると弟はやっぱり覚えていて、すごく嫌な思い出だって。そりゃ、そうだ。
もちろん、今だってバナナは食べられない。