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笑うハーレキン / 道尾秀介

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アトリエM_こばやしいちこによるオリジナルブックレビュー。たくさん読んだ本の中かにおら、読者すすめの一冊をご紹介します。

笑うハーレキン / 道尾秀介

腕の良い家具職人の東口は、自身が経営していた会社も、妻も子供も失い、川辺の空き地でホームレスをしながら、手元に残った携帯電話と小さなトラックで細々と仕事を続けていた。自分だけ食えりゃあ、十分だ、と考えれば、気楽なこういう生活も悪くない。仲間も出来た。釣った魚や、もらった野菜などで、時々は鍋やバーベキューをして、拾った新聞や本からの知識を披露しあったりするのも楽しい。ホームレス仲間の飼っている犬が仔犬を産んだ、となったらみんなで協力して子育てしたり、お互いの身体を心配しあったりする。なかなかにいい関係だ。

しかし、拭い去れない、「俺はみんなとは違う」という思い。
どうしてホームレスになったのか、お互いに聞いたりはしないけれど、俺は、運悪く、すべてが良くないほうに転んでこうなったのだ。本来はここにいる人間じゃないんだ。そんな内面を仮面で隠して、川辺でみんなと生活を共にする東口。そんな彼のもとに転がり込んできた、何かわけがありそうな正体不明の若い女性。いつの間にかみんなとも仲良くなり、川辺で一緒に暮らすようになっていく。

そんな一見平和な日々、ホームレスを利用して、犯罪の片棒を担がせようと、彼らにヤクザが忍び寄って来る。運ぶだけで、数枚の紙幣がもらえる。これは犯罪に違いないと、薄々、いやはっきりとわかっていても、お金の誘惑にあらがえず、手を染めてしまう。そして、東口に舞い込んできた、妙に割がいい奇妙な家具の修理依頼。もうすっかり仲間・家族のようになってしまったホームレスたちと、力を合わせて危険に立ち向かうのは痛快だ。

思い出した。数年前、家の近所の陸橋の下に男性のホームレスが住んでいた。ダンボールで上手に屋根付きのベッドの様なものを作り、昼間は屋根を開けてそこに姿勢正しく正座をしていつも読書をしていた。ベッドの中には数冊の文庫本。カバーもとれた、読み古したような古い本だ。時々は、近くの会社の若い社員と談笑したりなんかしている。そのさまも、若者が意見を仰ぎに来たような、尊敬のようなものが漂っている。なんだか身綺麗だし、思っていたホームレス像とは雰囲気が違った。

だから私たち家族は、
「きっと、あの人は大企業の社長さんで、事情があってああして体験しているんだよ。それで、いつも、社員さんが来て、
『社長、もうこのようなことはおやめください』
とか言って連れ戻そうとするんだけれど、社長はわりとあの生活が気に入っちゃって、家に帰ろうとしないのよ」
と噂していた。
私たちの推理が正しいのかはわからないけれど、いつの間にか、彼は陸橋の下から姿を消したけれど。

良くも悪くも、ずっと本当の顔を隠さずに生きていくことは難しい。本当はカチンときたけれど、それを隠したり、落ち込んでいるけれど心配させちゃうから元気なふりをしたり、泣きたいけれど涙こらえて、顔で笑って心で泣いて……ニンゲンって、オトナって辛いなあ。笑顔の効果って、すごいらしい。免疫力を高める効果もある。そして、それは作り笑いでもOK。どうせなら、ニコニコの仮面を被って、頑張るのだ。

ハーレキンとは道化師のことだそうだ。
ハーレキンに涙を書いたものが、ピエロとも言われている。おどけているけれど、実は悲しみを抱えている。
ちなみに、みんな大好きMのマークのハンバーガー屋さんの彼は、ピエロではなくハーレキンらしいよ。

文と写真・こばやしいちこ

小さな頃から本が好き
映画が好き
美味しいものが好き
おせっかいに人に勧めたがり
愛犬・さくら(黒のトイプードル)を溺愛しながら、
毎日なにかしら本を読んでいます。

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