栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
日曜日の午前中の地下鉄は空いているはずと勝手に思っていた。
けれど、天気もいいその日は想像以上に車内が混みあっていて、シートに掛けることは出来なかった。パソコンを入れてきたから荷物も重いし、目が疲れているからスマホ見るのも疲れるし。
そう思いながら、半蔵門線の車内をキョロキョロ見渡していた。……と、ドア横の広告が目にとまった。
亀屋万年堂の「初穂餅」の広告だった。
新米ふさおとめに下総醤油を使ったみたらしあんが入った期間限定。
餅の断面が見えて、そこからとろりとした餡がみえる。
下総醤油は、千葉県人としては自慢の調味料。
みたらしあんは、誘惑のとろり。
そして、期間限定。そして自分の中ではお久しぶり感のある亀屋万年堂。
この期間限定の「初穂餅」は、直営店のみ取り扱いと書かれている。
なんだかついている感じがする。
呼ばれている感じがする。
そう思いながら、約2時間の撮影取材を済ませた。
撮影が終わるころに、カメラマンさんの友人が経営する美味しいカレーの店が最寄り駅近くにあると聞き、昼をまたいだ時間帯だったこともあり、すっかりカレー腹になっていた。
でも帰りがけ、そのカレー店は人気で、その日のランチは売切れ御免でクローズしてしまったことを聞かされた。
「初穂餅」という目的が私にはある。そして店に向かった。
久しぶりのナボナ、しかもいろいろな種類を目の前にしてテンションがあがりつつ、
「初穂餅」を探す。
あった! 思ったより小ぶりだ。でもなんだか縁起が良さそうな気がして、ラスト2パックのうちの1パック(3個入り)を手にした。当然のことながら? ナボナも選んで、お会計へ。
壁には電車内で見たのと同じ広告が貼ってあった。
レシートを受け取りながら、つい、余計な一言が出た。いつものように。
「これ電車の広告で見て、美味しそうだなと思って、限定だし直営店あるし……と思って買いに来たんです」
「そうだったんですね。今日の分は残りわずかだったので良かったです」
「はい、間に合って、買えて良かったです」
余計な一言だ。おしゃべりなおばちゃんの典型という感じだろう。
でも嬉しさに変えられなかった。いつものように。
そして心の中で後付けする。
この何気ない会話がもしかしたら、伝わるんじゃない。
「電車の広告を見て初穂餅を買いに来たというお客さんがいましたよ」
「じゃあ、やっぱり電車の広告も効果あるんだな」
はい、今、あの電鉄さんとあの広告代理店さんが救われましたよ。
広告は今、費用対効果がより厳しくなってますからね、今年でこの広告最後かもしれなかったけど、それなら来季も出稿しようかという話になるかもしれないでしょ。そうでしょ。
え、妄想が過ぎるって!? マーケティングを舐めるなよって!?
でもね、少なくても私は次にあの駅を訪れる用事がある時には、
おすすめの食べられなかったカレー屋さんのオープン時間を確認するし、
亀屋万年堂の季節限定商品をチェックすると思う。
帰宅してからいただいた「初穂餅」は、とても美味しくて、なんだか縁起がいい気がした。
2個入りじゃなく、3個入りをわざわざ買ったのは、
半分に切って中身が見えるように写真を撮るため。え、2個でも良かったのではって!?
いや、でも1個はそのまま食べてしっかり味わいたいじゃない。
後付けは経済を回すんだよね。