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12年たって出会えたこと

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

観劇した時の紙チケットをどうしているかというと、
それまでのものはほとんど皆、取っておいた。
その昔は映画の半券も。

フリーになる前に職場を二度変わったが、その転職活動中のありあまる時間に
データ入力をした。
具体的には、日付、作品名、会場名、演出家、出演者2名、席番、チラシの有無、パンフレットの有無、同行者の有無、チケット代。
これを全て手入力した。

今ならもっと賢い方法があるのだろうけど、
当時の私はこの作業に救われていた。
その世界だけで生きている人に比べたら、観た本数は比較にならないほど少ないのだが、
仕事の合間に隔週くらいのペースで何かしらを観に劇場に行っていたことを、チケットの券面を見ながら思い出し、達成感にも似た気持ちを抱いたのだ。

後にこのデータはパンフレットを整理する時に大いに役立った。
再演され、何度も観ていた作品もあったから、これはいつのだっけ? データと付け合わせたりした。
パンフレットによっては、公演日時が記されていないものもたまにあったりして、
だからデータが役に立った。

ただし、出演者は2名しか書いていないので「あの人が若い頃、あの作品に出ていたとは!」ということを私のデータからでは拾えないのはやや残念。

例えば、ドラマで大活躍の間宮祥太郎さんの舞台デビュー作を私は観ていたことを比較的最近知った。2010年のことだ。
作品はサイモン・スティーヴンス作『ハーパー・リーガン』
トーク番組で間宮さんが、初舞台の時の話をしていて、「え、あの作品の!」と思い返したのだ。データをさかのぼってもみた。

舞台が上演された2010年の9月は、私がリストラで退職し、フリーランスになっていた頃だ。作品を観て涙が出た理由は2013年に振り返ってみてもわからずにいると書いていた。希望もあったが、なんの保障もない仕事がこの先どうなるのか漠然と不安だったことや、結婚前だったこともあって、家族の間の壁を傷みを見せながら描いていたこの作品にぐわんと揺さぶられたのだろうと思う。今、振り返ればということだ。

時が過ぎて、2022年。
『ハーパー・リーガン』を書いた劇作家・サイモン・スティーヴンスの作品の公演パンフレットの編集に携わった。

演劇を観てきて良かったなと思う。
没頭できるデータ入力という単純作業をしていたあの頃の自分に
「それも多分、無駄にはならないよ」とニヤリと教えてあげたい。

『HEISENBERG』
日程:2022年7月29日(金)~8月14日(日)
会場:中野ザ・ポケット
出演:小島聖 平田満