日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
高校生からのつきあいの友人との山梨旅を短期集中連載。世界の天然石が展示されている博物館で水晶をはじめさまざまな輝きに触れたという話が前回。
博物館の出口は広々した宝石のショップにつながっていた。
午前中は団体客でにぎわっていたということだが、私たちが訪問した時は、人はまばらでその分のんびり見学できた。
天然石の形を生かした置物、加工されたアクセサリー、研磨キットなんていうのも売られていた。
結論から言うと、そのショップで買い物はしなかった。
見る人が見れば、「この客は買う気はないな……」というのはすぐに感じ取るだろう。
そういう客には素気ない態度をとったりする店員もよくいるが、
この採石の蔵の店員さんは皆、とてもフレンドリーで明るい。
山梨は昔、天然水晶がたくさん採れたそうだ。
しかし、資源には限りがあり、また採石できた場(昇仙峡一帯)が特別名勝に指定されてからは、景観保護のため採石が禁止されたという。
つまり、現在は山梨で天然石は取れない。
が、この地には天然石の加工技術が残り、それが山梨=宝石の町として観光資源化されているのだそうだ。
実際、山梨には県立の宝石美術専門学校がある。
これは日本全国で唯一の公立のジュエリー専門学校だそうで、ジュエリー学科の学生は、
宝石美術に関する知識と技術を学びに全国から集まるのだという。
と、ここまでの話を軽やかに、でも押しつけるでもなく話してくれる店員さんに、
興味津々で相槌を打った。
学校が休みの日に、宝石の勉強を兼ねてこの店に来る学生さんもいるのだそうだ。
「つまり、地場産業として後継者育成にも力を入れているのですね?」
なんてお役所的な項目もインタビューしてしまったが、
全国で貴重な技術を持った職人さんが後継者不足にあえいでいる話はよく聞くから、
公立での取り組みにも興味が湧いた。
そんなわけで、加工技術を売りにして、現在は世界から天然石を輸入して加工しているのだというあたりも、わかりやすく説明してくれた。
こうした話を聞いている時間の私は、リュックを背負い、バッグを右肩に掛けていた。
それが冒頭の写真だ。
これを持って、館内の展示物にぶつけないよう注意して歩いていた。
すると……「これって富士山?」と声をかけられた。
「そうなんです。富士山なんです」
「やっぱりそうよね。なんか富士山みたいだなぁと思って。え、山梨で売ってるの?」
「あ、これはデザイナーズショップみたいなところのネットで見つけて……」
「そうよね、見たことないもの。いいねー」
「この中のボタンを留めると、形がこう……」
「あー、山の形になるのね。いいねー。これ山梨で売ったらいいのに」
「たくさん入るので持ってきたんですけど、そういえばここ山梨だったと思って(笑)」
こんな会話を繰り広げた。
へへへーだ。このバッグ持ってきて良かったわとニヤニヤしながら、引き続き店内を見ていた。
すると……「あれ、フジサン? フジサンよね?」と別の店員さんが別の店員さんを呼んで確認している。
「あ、そうなんです。富士山なんです~。また声かけられちゃった!」
すると、話しかけられたほうの店員さんが
「あぁ、フジサン、富士山ね。いや、お客様の名前かなと、どうして知ってるのかしら。知り合いなの? 思ったけど」
「冨士(フジ)さん? みたいな? 名字じゃないです、ないです」と私。
その場にいたみんなで大笑いした。
その先は、どこで売っていたのかと、ボタンを留めるとより富士山型になるという説明のほぼ同じやりとりが繰り広げられた。
「これ持って電車に乗る時は、つい向かい側の人によく見えるように膝の上に置くんですよ」
などと、実際私がやっている秘かな一人富士山キャンペーンの話を調子よくしたりすると、
「やっぱりいいよね、富士山は。見た人もいい気分になるもの。ここらへんは富士山は見えないから」
「え、そうなんですか?」
二人で聞き返すと、
「そう、甲府盆地のこの南側のあたりは残念ながら見えないのよ」
と教えてくれた。
「だからバッグを見て富士山かしら?と気づいたのかもね」
なんて屈託なく笑っていただいたので、
改めて右肩に掛けている富士山バッグをどーんと見せてみた。
「この後は? 宝石探しはやったの?」と聞かれたので
「これから行ってきます!」と元気に答えて、ショップを後にした。
そう、この後は宝石探しというお楽しみにGO! する。
夢中になりすぎた宝石探しとは? その様子はまた……。
(つづく)