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真夏のニャン事件簿

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

そこは通いなれたコインランドリー。義母宅のすぐ近くにある。
この1年くらいは、ほぼ週イチで利用していた。

今日はここに、わが仕事部屋のカーペットを持ち込んだ。
季節的には少し遅すぎるくらいのタイミングである。

生憎、洗濯乾燥機が埋まっていたため、洗濯&脱水と乾燥を二段階ですることになった。
日曜日だし、仕方がない。
乾燥機にかけている間は義母宅に戻り、台所の片付けをせっせと進めた。
アラームが鳴り、持ち帰り用の大きな手提げを持参して再びランドリーへ。

自動ドアを抜け、ランドリー内に入るとミャーミャーと鳴く声が聞こえた。
気のせいだと思い、乾いたカーペットを1番の乾燥機から取り出した。
ミャーミャーミャー。
やはり鳴き声が聞こえる気がする。
店内に流れる案内の音楽か? 入店時に鳴き声が鳴る仕組みだったっけ?
いや、そのどちらでもない。

次の瞬間、ぞわわっとした。
嘘、嘘だよね?
そう思った瞬間、ミャーミャーミャー……鳴き声のような音がパタリと消えた。
耳をすましても聞こえない。
店内には私、一人だ。
ぞわわぞわわ。

とんでもなく良からぬことを考えそうになり、慌ててカーペットをたたんだ。
4畳半用のサイズなのでかなり大きいこともあり、うまく畳めない。
動揺が走っていた。

いや、そんなことは……。
でも、最近おかしな事件が毎日のように日本のあちらこちらで起こっている。
嘘、だよね? そんなわけないって……。
動揺しながら、カーペットの端を掴みつつ、まわっている洗濯機や乾燥機を恐る恐る見る。
どうしよう、いや、そんなわけはない。
もし、そんな恐ろしいことがあったら私はキャーッとかギャーッと大声を出すのだろうか。
駐車場に停まっている車の中に人がいる。
あの人は洗濯が終わるのを待っている人だろうか。
だとしたら。
黒い車だ。
こっちを見て……はいない。
ナンバーを覚えるべきか。
いや、もう一度まわっている洗濯機や乾燥機を見るべきなのか。

落ち着こう、落ち着け。
ミャーミャーという声はもう聞こえない。
そうだ、完全な私の空耳だよ。ばかじゃない、私。
うん、そう。

この自問自答の時間は果たして何秒くらいの出来事だったろうか。
……次の瞬間、一人の女性がコインランドリーに入ってきた。
袋も持たず、洗濯ものも抱えていない。
その人は手にペットボトルと紙皿だけを持っていた。

「仔猫がいるの」
「えっ!!」
一瞬頭の中が真っ白になり、そのあとすぐにホッと肩の力が抜けた。

「えっ!! どこですか?」
「ここの隅にね……、だから今、とりあえずお水だけでもあげようと思って買って来たの。あー、あっちに行った。良かった動けたわ」

どうやら仔猫が迷い込み、洗濯台が置かれている床の隅にうずくまっていたようだ。
迷い込んだのか、捨てられたということもあるのだろうか。
その仔猫は驚いて、反対側のラックの下に潜り込み、今度はそこでずっとじっとしている。

「こういう時、どうしたらいいんでしょうね?」
そのお水を持ってきた方に聞かれたので、
「清掃の係の人はたぶん明日の朝まで来ないと思うので、とりあえず緊急連絡のあの電話で伝えるといいんじゃないでしょうか」
なぜか慣れた感じで私はそう答えた。

「そうですね。あぁ、でも良かった一人じゃなくて」
たぶん私より年上のその女性にそんな風に言われて、私も思わず言った。
「私こそ良かったですー。さっき入って来たらミャーミャーと聞こえた気がして。まさか、そんなことあったらどうしよう、もうこのランドリー使えなくなるーとか思って……」

私は物心ついた頃から体が大きいこともあり、地面に近いほうには注意がいかないタイプである。
恐る恐るチラ見した乾燥機も上段で回っているものだけを見ていた。
床にギリギリでうずくまる仔猫にはまったく注意が届かなかった。

その女性がインターホンで電話をかけるが、自動音声が流れた後、再び呼び出し音になり、しばらくするとまた自動音声になる。
隣に不在の際は……とフリーダイヤルが書かれていたので、今度は私がそちらに電話してみるものの同じ状況だった。

その女性に「もう少しかけてみます。お急ぎですよね、どうぞ」
お言葉に甘え、仔猫の写真だけ図々しく撮った後、ランドリーをあとにした。

あの仔猫は涼を求めて店内に入ったのだろうか。
それとも捨てられたのだろうか。でも箱に入っていたりするわけではなかったからやはり迷いこんだのだろうか。

あの時の私は、涼を求めて一瞬あんな発想になったのだろうか。
いや、あまりの暑さに気がどうかしていたのだろうか。
悪いほうの妄想が当たることがなくてよかった。
とにかくあの仔猫に幸せな未来がありますように