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行ったり来たりの東京ロースト

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日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

久しぶりの飛行機だった。LCCで成田から関西空港へ。
荷物も少ない気楽な1泊2日だったが、PCを持参しないと決めていたので、
諸々済ませておかなければいけないことが多く、結局、搭乗日前日は睡眠時間1時間。
まあ、人間、やってやれないことはない。

久しぶりの飛行機、久しぶりのLCC、そして眠気もあり、勘が鈍いまま機内に乗り込んだ。
「こんなに狭かったっけ?」と自分がワイドになったことを棚に上げて思っていた。
離陸してしばらくすると客室乗務員の方から声をかけられた。
眠りに堕ちはじめていたタイミングだ。

「〇〇〇〇〇さんでいらっしゃいますか?」
おそらく外国人名だった気がする。
「いえ、違います」
よく聞き取れなかったクセに違いますとはっきり答えた。

……と、次の瞬間ハッと我にかえる。
「あれ、私座席間違えてます? 26Aなんですけど。え?」
「こちらはFになります」

右の窓際に陣取っていた私は、一つ空けて通路側のおじさんがうるさいなぁと少しイラッとしていたのだが、それを聞いて慌てて席を立とうとした。

「そのままで大丈夫です」
お釈迦様のような微笑みで、客室乗務員がそう言った。
私が座ってしまったF席に該当する人はいなかったらしい。
私が座るはずだったA席の隣の2席は外国の方が座っていた。

しばらくすると機長からの機内アナウンスが流れた。
フライトは順調で予定時刻より早く到着する見込みだという。
そして、右手には富士山がきれいに見えていますと教えてくれた。

本当だ!座席を間違えた上に、こんなラッキーをありがとう。
少し寝ぼけながらそんなことを思った。

さて、無事に関西空港に到着した。
私はとにかく朝からずっとコーヒーが飲みたかった。
一つ席を空けた隣のおっさんが、機内でコーヒーを注文していた。
「コーヒーくれる?」の言い方がなんか偉そうで気に入らなかったのは、
私も飲みたかったせいか、おっさんが成金っぽかったからか。
成金っぽいのにLCC乗ってて、コーヒーくらいで偉そうで、あとなんか動画みたいなのを見て声出して笑っている感じが丸っと気に入らなかった。
いや、眠かったのだ。寝ぼけていたところもある。
おっさんはさほど悪い人でもなかったかもしれない。
そもそもおっさんとか言いながら、私より年下だったりするかもしれない。
そんなこんなでますます「コーヒー飲みたい!」の口になっていた。

到着ロビーに出ると、すぐ目の前にスターバックスのスタンドがあった。
購入しようと一瞬迷ったが、これから電車で待ち合わせの駅まで向かうことになっていたので、時間に余裕はあるけれど、駅に近づいてからゆっくり行こうとスタバを横目に通り過ぎた。

関西空港に来たのはいつ以来だろう? 来たとしても遠い昔に1度くらいのはずだ。
案内表示だけを頼りにすぐ隣の駅に向かった。


Google mapを開き、カフェマークを探す。
空港にはさきほど通り過ぎたスタバを含め何か所か表示されるものの、駅を挟んで向こう側は少ない。
それでも向こう側のラウンジカフェに向かった。
そこは空港利用者のための会員制ネットカフェのようだ。
説明を聞いて、自分が持っているクレジットカードを出してみたが、
対象はゴールド会員のみらしい。それ以外は会員登録が必要だという云々。
寝ぼけた頭に恥ずかしさがプラスされる。
しかし、ネットカフェなのに案内の人が
「ただいまWi-fiがつながらない状態なのですがよろしいでしょうか?」とすまなそうに言ったので、「それならいいです」という顔をして退散した。

隣のビルにPRONTがあると表示があった。
しかし、そこは11:00オープンだそうだ。時刻は8:45。
私はコーヒーが飲みたいだけなのだ。

仕方なく、ローソンに入った。
炭酸水を手にレジに向かい、「それとコーヒー。ホットコーヒーをお願いします」と注文すると、
「すみません、うちはコーヒーの機械が入ってないので、まちカフェやってないんです」
関西弁のやわらかなイントネーションで申し訳なさそうに言われた。
なんということだろう。私はコーヒーが飲みたいだけなのに。

乗る予定の電車の時刻をアップアップしながら確認して、まだ間に合うことも確認して、
結局さきほどの空港到着ロビーに戻った。

そして、安定の笑顔と声掛けをしてくれるスタバの店員さんにコーヒーをオーダーした。
本日のコーヒー、ホットで。
次の瞬間、店員さんが笑顔でコーヒーを手渡してくれながらこう言った。
「本日のコーヒー、東京ローストでご用意しております」

……。
いや、いいのだ。コーヒーが飲みたかったのだから。PRONTでもローソンまちカフェでもどこでもいい、コーヒーが飲みたかったのだ。

関空で飲んだ東京ローストは、もちろん美味しかった。
そして旅の初めからネタを一本もらったぞ! と思えたのも事実である。

翌朝、和歌山のスターバックスでも本日のコーヒーをオーダーした。
それは完全に好奇心もあった。今日も、この店舗でも東京ローストなのかどうか。
結果は、「本日のコーヒーは、ケニアになります」だった。