クリッセイ PR

出会えてよかった純喫茶

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。

大坂・心斎橋は平日の夜だというのにものすごいにぎわいだった。
あれ、今日が阪神優勝した日じゃないよね? と季節外れなことを思ったり、口に出してみたり。

それが元々のこの町の風景だったのか、
何かの反動でこうなっているのか、わからないけれど、
このにぎわいを手放しで喜ぶ以上に、リスクは大きかったよなぁと
ほんの少しだけネガティブな気持ちが頭を通過した。
「もう元には戻ることはない」みたいなフレーズをたくさん聞いたから、
え、みんな戻そうとしているみたいだよ? とあの頃の人に言いたくなった。

夕飯を済ませ、お茶をすることにした。
ギラギラと輝くネオンの波を抜けながら、静かにお茶したい、珈琲が飲みたい、
なんならちょっとだけデザートも食べたい、
そう思って店を探していてたどり着いたのが
「純喫茶アメリカン」だ。

店内に一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のようだった。
入口で、「店内の写真は禁止です。テーブルの上や頼んだものを撮るのは大丈夫です」
と早口で言われた。

「はーい」と軽く返事をして、昭和に覆われた空間へ。
なるほど、撮影禁止の意味がわかった。そうしなければ、もう片っ端から
エモエモ言ってカメラを手放さない人が続出しそうな内観だった。
最初は撮影禁止のルールなどなかったのだろう。
でもきっとある時から限度を軽く超えた大撮影大会が行われるようになったのではないだろうか。
SNSを想定してそんなことを書いているが、
もしかしたら撮影禁止のルールはもっともっと前からだったかもしれない。

クラシックな映画音楽が流れる店内。
愛想は控えめな店員さん。
そのバランスがちょうどよかった。

昔ながらのホットケーキを頼んだ。
メニューの写真を見て、Kさんがホットケーキにバターが乗っているかを確認した。
「バターは塗られてるんですぅ」
関西弁の心地いいイントネーションでそう答えが返ってきた。

しばらくすると、バターが塗られた状態、しかも切れ目が入った状態の
ホットケーキが運ばれてきた。
必要以上の? 分厚さはない。
たっぷりのクリームもない。
パンケーキとは違います……
のプライドすらにじませた、
もう、子どもの頃、初めてホットケーキのビジュアルを頭にインプットした時のままの姿をしたホットケーキが目のまえにある。

たしかにバターは塗り込まれている。そしてそれはぜいたくなスイーツではなく、
ずっと変わらずあったホットケーキ、だった。

「純喫茶アメリカン」は、1946年に営業を開始しているそうだ。
戦後わずか一年。それから店名も内装も変わったりしながら、
今、「ザ・昭和」をカッコよく続けている。

ベッドタウンと呼ばれた町に暮らし、新しく出来る店はチェーン店ばかり、
気に入っていた地元の老舗も理由あって廃業したりしているわが出身地を思うと、
こういうお店が1軒でもあるってすばらしいなと思わずにはいられない。

かかっていたクラシック音楽が、なんとなく本日の閉店を誘導するようなトーンの曲になった。
行こうと決めていたわけではなく、偶然入れた純喫茶だけれど、
だからこそ、あぁ今日という一日は、いい日だったなぁと感じられた夜になった。