日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
腹痛を訴えた夫がついにその痛みに耐えかねて、外出先から自分で119を呼んで緊急手術からの入院となったのが前回。
救急で運ばれ、総胆管結石で内視鏡治療を経て石を取りだしていた。
入院したのは大きくて立派な病院。たまたまこの日は一般病棟が満室のため個室に入れてもらっていた。もちろんベッドの差額はナシ! 私が確認出来たことと言ったらその程度のことだった。
術後は安静にしていたが、とにかく痛みの原因がわかって、その原因だった石を取れたことでホッとしたように見えた夫。カメラを向けたらベッドに横になりながらピースしたりしてね。
翌朝は特に痛みもなく、「病院に来てくれるならバッテリーと充電ケーブルを持ってきてほしい」とリクエストできるほどだった。
主治医の説明を家族が聞くターンがやってくるかと思いきや、「ご希望の時間と先生の都合を確認してください」みたいな説明で、マストじゃない感じ。
夫も自分は状況を聞いているから、その後も私にそれを特に要求してこないし。
なーんか、やっぱりセルフなんだよなー。いや、いいんだけど。助かるんだけどさ、原稿の締め切りも迫っているしね。いいさ、いいのさ。
ひとまず状況としては、胆嚢炎もあるから退院は数値をみてから決まるとのこと。数日かかるかも……みたいな話だった。
とはいえ、胆嚢にも石があることを告げられていた夫には、場合によっては胆嚢摘出の手術が必要になるかもと告げられていたという。取るより取らなくて済むならその方がいいのではないか? とも考えてしまいがちだが、基本的に私への相談や迷いみたいな話にはならない。自分のことは自分で……大人な夫である。
そんな状況も相まって、この時の私はまあまあライトに考えていた。その病名で調べて割とすぐに退院する事例も多く見かけたので、退院時に着る服を見繕って翌日には持参していた。
しょうがないよね、病院に縁がなさすぎて、あまり長居しなくて済むのなら幸い……の気持ちが勝ってしまったのだもの。
それからと言えば、病院食の写真が届いたり、入院手続きについて必要なことの確認のやりとりなどをポツポツとしたりで、私は予定通り締切間際の原稿にも取り掛かることが出来ていた。
入院から2日後の朝。「痛いよ」、「くるしい」、「助けて」、「もうヤダ」、そんな四文字ずつの悲鳴メッセージが届く。
「可哀想に……」痛みをわかってあげられない私は、「可哀想に」という言葉(文字)を発している自分に驚いた。可哀想って本当にそう思う時に使う言葉なんだなぁと……。
感じ悪い風に「かわいそうに!」とか、同情している風で実はしていない人が言う「かわいそうにね」みたいなどちらかというとあまりいい使い方じゃない感じのニュアンスしかイメージしていなかったから、目の前で(スマホの中だけど)痛みからくる弱音を発する大人に、夫に、心から「可哀想に……」と、そう思ったのだ。
そうして午前10時。夫から電話がかかってきた。
「これから手術で胆嚢をとってもらうから。ヴー、グエー、ヴー……」
苦しそうな声のままの余韻を残したまま、電話はブチッと切れた。
「えっと、私は? とりあえず……えっと、」台詞みたいにこちらの問いかけは途中のまま、ブツッ。
まさかのセルフ119を呼んでは慌てて取り消し、つぎに実際にまさかのセルフ119で救急搬送され、手術も。いやさすがにそれはセルフではないけれど、自分で決めて同意書も書いて、決定&決行された。
胆嚢は取ってしまってもその後の生活に困ることはあまりない臓器なのだと、少し調べると事例がいろいろ出てきた。
午後になって病院の看護師さんから電話がかかってきた。
手術が無事に終わったこと、その他もろもろ簡単な経緯をお話してくれたけれど、超絶早口で、しかもこちらはそういう電話が来ると思っていなかったので、
「ああ、そうですか。あぁ、そうなんですね」
みたいな相槌を打ったか打たないか。
私が聞けたことと言えば、
「退院までは経過にもよるとは思いますけど、おおよそどのくらいになるものでしょうか。1週間程度でしょうか」
だった。
担当看護師さんは、
「本当に経過によって個人差がありますのでわかりませんが、1週間から10日くらいになるかもしれません」
そんな風に答えが返って来た。
その辺りになるとさっきの早口におろおろしていた私は消え、
まあ、1週間か? と訊いたら10日くらいになるかもと答えるだろう。退院が早くなるに越したことはないわけだから念のためそう言うよな……なんて冷静に聞いていた。
夕方、面会に行くと、ザ・術後の病人という姿で夫が横たわっていた。
会話もあまりままならず、早々に帰ることにした。
病院の人のいうことを聞いて、あなたは声が小さいからちょっと言って伝わってなくても、痛かったら痛いと、あきらめずにちゃんとわかってもらうまで言ってね、そんなことを諭すみたいに伝えた。
術後の入院患者に容赦なくコミュニケーションのススメを言う私、実はこの時、救急搬送された日の待ち時間に薄着だったせいで、久々に鼻かぜをひいてしまい、実はいろいろ弱っていたよう。パワーは減退していたみたいだ。
病院から駅までの道、公園の前を通り、信号を渡ると沿道に小ぶりのキンモクセイが並んでいた。私の背丈より少し高いくらいの高さで、花の香りがマスク越しにも伝わってきた。
一瞬マスクを外して大きくキンモクセイの香りを吸い込んだ。
五感のどこかが機能すれば、大丈夫だって思える。
予告しておくと、夫はその後、順調に回復する。でも、ネタにしていいと言うからあともうちょっと引っ張ってみようかな。次回はとあるハラスメント? のお話。
※写真はいつかのアナゴの刺身。夫と食べたわけではないけど。
(つづく)
																			
																			
																			
																			
																			
																			
																			
																			
											
							
							
							
															
							
							
							
															
							
							
							
															
										
					
