日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
これは10年近く前の話。
とある編集部から定期的にいただくお仕事の中に、新築のお宅取材があった。
お施主様が待つお宅へ、ライターである私とカメラマンで伺う。
その会社の編集担当の方が、取材依頼から当日の段取りなどの手配をして、それを受けて私は当日の現場取材をするというわけ。この頃から編集さんが同行する機会は減っていた。
ご自身が取材経験もある編集さんは、段取りも完璧で、私は行けばいいだけ。
でもそのうちに、新人の編集さんから依頼が回ってくるようになった。
何度も取材経験のあるライターだから、勝手がわかっているので心配ないと思ってくれたのは、フリーランスとしては少し信頼を得た気もして、嬉しい気持ちもあった。
ある時の取材は、1日で2軒行ってくれ! というミッションだった。
結局1日潰すことになるパターンが多いので、1日に2軒は好都合ということもある。
移動は社のカメラマンさんが運転する車だ。
1軒目は房総方面のお宅だった。同じ県内でありながら、そこは私の自宅からは旅といえる距離。
最寄りの駅まで電車で向かい、車で拾ってもらったと記憶している。
撮影と取材は2~3時間。
話を聞きながら、撮影ポイントを確認し、取材内容と照らし合わせながら、ここは抑えておくべしというポイントがあればカメラマンに伝えて撮影してもらう。
撮影のためにモノを一時的に動かしたり、戻したり。
現場で声をかけながら進める取材はとても好きで、話を伺うのもとても好きなので、
苦ではない。
それでも2~3時間、家の中を行ったり来たりして、大きい体が写真に写り込まないように、その都度隠れたりしながら進めていくと、まあまあの労働だった。
1軒目の取材が無事に終わり、2軒目へ。
その場所が西東京だった。しかも、2軒目の取材には設計を担当した設計士さんが同席されることもあり、遅れるわけにはいかない。
車はアクアラインを通って、ものすごいスピードで千葉・東京を横断した。
到着優先のため、お昼もコンビニで買って、車の中でだったろうか。
結果、取材はなんとか無事に終わり、最寄り駅からまた1時間半はゆうにかかる自宅へ帰宅した。
自分へのご褒美でたしか花を買って帰ったと記憶している。
なぜそんなハードな掛け持ち取材が手配されてしまったのか。
前後で聞いた情報をつなぎ合わせるとこうだった。
・会社の命で、極力1日2軒の取材を組むなど無駄のないスケジュールを組む必要があった
・google mapで検索すると、地図上では移動時間はクリアーしていた
・手配した編集さんは現場取材経験がほとんどない新人さんだった
私も小さな編集制作会社に在籍していた経験があるので、編集部の方針、特に上からのやや乱暴なミッションに現場が振り回される状況は手に取るようにわかった。
「外注を安く使って、効率よく仕事をしろ」
そう言われていたのだろう。
さらに忙しすぎる会社では、新人の仕事をチェックする体制が機能していなかったりということもある。
「困ったら何か言ってくるだろう」と先輩や上司が思っていても、
「困るかどうかがわからない」から、報連相には至らない。
ccに上司のメールアドレスが入っているからといって、チェックが機能しているとは限らないのだ。
10年近くが経過して、こういう仕事の仕方は減っているだろうか。
無駄はどんどん削ぎ落されているかもしれない。
でも何が無駄なのかはわからずに無駄とされていることも増えている気がする。
ちなみに、この一件があって以降、その編集部では、掛け持ち取材の時は走行距離も考慮して、県をまたぐ案件は要相談、というルールが出来たそうだ。
その後もたくさん仕事をさせていただいたが、担当さんがよく変わり、
顔を合わすことがないまま一度仕事を受け、顔を合わすことがないまま、その担当さんが退社された、みたいなことも度々あった。
コロナ禍など、カケラもない頃のことだ。
なぜ今、これを思い出して書いているのかといえば、
その総移動距離200km以上のハードな取材があったのが4月だったということと、
庭にフリージアが咲いたから。
あの日、くたくたで西東京方面から電車に乗る前に自分へのご褒美で買ったのは、
色と香りが大好きなフリージアだった。たしか、たぶん……。