誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する作品は星屑の会 演劇リハビリ公演 『王将』。
ご一緒したのは、この舞台をご紹介くださった、MC、フリーアナウンサーで一般社団法人 日本片づけ整理収納協議会 事務局長のあさがみちこさん、Sunny Days代表で、一般社団法人 親・子の片づけ教育研究所(ファミ片) 理事の橋口真樹子さんと、本webマガジンの連載「ひつじのまなざし」でもおなじみのひつじPlanning 整理収納アドバイザーのみのわ香波さん。
星屑の会とはラサール石井さん、小宮孝泰さん、でんでんさんらで立ち上げたユニットだ。
星屑の会は、人気シリーズ『星屑の町』の2016年上演と2019年の再演で一旦幕を閉じたが、ファンからの熱いリクエストに応え、2026年に『星屑の町~忘却篇』としての上演が決定しているという。
メンバーたちのためのリハビリ公演と銘打たれた今回は、作・北條秀司の『王将』を上演。
もちろん餃子屋の話ではない。浪花の名棋士・坂田三吉の生涯を描いた作品だ。
この作品は三部作の超大作で、2021年には5時間を超す全三部作を長塚圭史さん演出によりKAAT神奈川芸術劇場で一挙に上演したことでも話題を呼んだ。
今回の星屑の会の『王将』は、2時間半にギュギュっと凝縮した芝居。
坂田三吉を、でんでんさんが演じた。劇場は下北沢 小劇場B1。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
明治から昭和初期に活躍した大阪生まれの将棋棋士 坂田三吉は、若い頃は町で噂の将棋指しだった。村田英雄が歌った「王将」の歌詞♪吹けば飛ぶよな将棋の駒に、賭けた命を笑えば笑えとあるように、寝ても覚めても将棋一筋、将棋馬鹿。
坂田に期待をかけて動く後援会の面々や家族の献身的なサポートもあって頭角をあらわした三吉は、型破りな棋士人生を歩んでいく。
将棋界の権威、後輩の台頭、戦争など、坂田の生きた人生は、華々しいだけではなかった。彼と彼を取り巻く人たちのあたたかくて、ちょっぴり苦い生き様とは……。
舞台を観るとその人のことが気になって
調べたくなる
橋口 坂田三吉という人が活躍した時代のことを空気感として知っている人が観たら、もっとこの作品を楽しめただろうなと途中から結構悔しくなっちゃって、最後の方は観客の中にいたシニア世代の人たちの反応が気になっちゃった。
みのわ 実在の人ですもんね。
栗原 たしかに関西に住んでいて子どもの頃、将棋やってたなんていう人だったら観方が違うかもしれないですね。
橋口 私は演劇とか映画を観た後、その人の人生とか歴史が気になって、結構ググるんだよね。夫婦で観に行った時なんかも、観終わって食事しながら、お互いいろいろ調べまくってしばらく無言……みたいなことあるし(笑)。
あさが 調べるなんてえらーい。でもそれいいね。
みのわ 坂田三吉さんのことを歌った村田英雄さんの「王将」は、懐メロとか紅白とかで昔聴いたことがある程度で、坂田三吉自身のことは詳しく知らなかったです。
栗原 私も歌と村田さんのイメージで他人を寄せ付けないような怖い人なのかと勝手に思ってました。
橋口 全然そんなことなかったよね。
あさが あれはでんでんさんが演じるからああなるのかね。
みのわ 映画では勝新(勝新太郎)さんがやってますよね。妻の小春の役は実の妻の中村玉緒さんだったらしいですよ。ちょっと見てみたいと思いました。
橋口 勝新さんとでんでんさんだとだいぶ違う気がするよね。
ハチャメチャとかストイックな人生に
ついていけるのか問題
みのわ 今日の主役の坂田三吉とか、朝ドラ(NHK「カムカムエヴリバディ」)の錠一郎(オダギリジョー)とか、映画「キネマの神様」のゴウ(2021年/菅田将暉・沢田研二主演)みたいに自分の好きなことに一直線になっちゃう人の家族のことを考えちゃいますね。昭和というか、今、ああいう人ってあまり見かけないし、周りで支えるだけで一生を終える人もあまりいないのかなって。奥さんの小春(竹内都子さん)も娘の玉江(戸田恵子さん)もずっと坂田三吉の近くにいて、それを不幸だとは思っていないし。でも今ってあまりそれを良しとしないような流れもありますよね。
町も人もどこを切っても同じみたいな感じじゃなくて、いろいろな人がいて、坂田三吉みたいな人もいて……というほうがたくさんのことが生まれる気がするな、なんて。そんなことも思っちゃいました。
栗原 あれくらいずば抜けていたらついて行く人がいるのかも?
橋口 でんでんさんが演じた坂田さんは、ハチャメチャなように見えたけど、今の時代で言ったら藤井聡太さんなんかも、あのずば抜けた才能を家族中が支えていると思うし、浅田真央ちゃんとかもね。結果出す人はその過程でものすごく周りを巻き込みまくっているんだろうなとも思うよね。暮らしや仕事のマネージメント的関わりという意味で。
あさが 生まれながらの環境で、家長を支えるのが当たり前、みたいな世界もあるよね、例えば歌舞伎の家系とか。
栗原 ところで周りに将棋をやる人っていますか?
橋口 知り合いのお子さんは、中学生くらいでその道を目指しているけど、それすごくない?息子の同級生でもいたよ。でも厳しい道だよね、プロになるのに年齢制限あるしね。
あさが でも坂田三吉もそうだけど、人生って何がどこでどう変わるかわからないよね。芸人さんとかバンドマンとか、遅咲きもいれば転身して花開く人もいるし。
橋口 たしかに、坂田も最初は周りからプロになるのを止められていたんだもんね。
栗原 将棋のこと以外はまるでダメ、そんな愛すべき将棋馬鹿の感じをでんでんさんに見事に見せていただいたという感じでしたね。そういう人は物語になりますよね。
みのわ なるなるー。
橋口 なるよー、絵になるよー。結果出せればハチャメチャなことやっても武勇伝になるけれど、現実には結果を出せないまま本人も家族も苦しい、が続く事も多いだろうし。
あんな役もこんな役も
名バイプレーヤーがずらり
あさが 小春を演じた竹内都子さんと、後援会の宮田を演じた菅原大吉さんは、実生活でご夫婦なんだよ。お二人があの空間で共演するというのはなかなか貴重よ。
みのわ そうなんですかー!! 知らなかった。
栗原 菅原さんのお声が良かったなぁ。
あさが でんでんさんの三吉は、愛しさと切なさと悲哀もあって素晴らしかったよね。たとえ5分しゃべらなくてもずっと観ていられるって思ったなぁ。
栗原 たしかに! 独特の間が良かったし、歳を重ねれば重ねるほど良かった。
みのわ ついつい見入っちゃいました。
橋口 誰がっていうことじゃなくて、皆さん熟練で素晴らしかった。その存在感で自然に笑えたりもしたし。
栗原 名バイプレーヤーが勢ぞろいでした。
あさが こんな豪華なメンバーがあんなに小さい箱(劇場)に揃うのはすごいことだよ。
みのわ あんなに近い距離で観られるとは思いませんでした。これ、1週間毎日公演あるんですね。すごい。
橋口 リハビリ公演っていう位置付けも面白かった。
栗原 戸田恵子さんや竹内都子さんが少女の役もこなしてました。
一同 (笑)。
あさが 有薗芳記さんも5歳児の役やってたしね。
橋口 あれは面白かった! こういう規模のお芝居だからこそ、遊びがあって、観る側と演じる側の暗黙の了解みたいな空気がありました。
みのわ よく役者さんが、客席との一体感とか空気感っていう表現をされますけど、今日の舞台を観て、ああ、これかと思いました。
なぜ坂田三吉は
物語になったのだろう
みのわ 約2時間半の舞台を観ながら、この作品は何を伝えようとしているんだろうと考えていました。将棋棋士 坂田三吉は何もないところからはじめて、勝ち負けに貪欲こだわった人生でしたけれど、そういう男の生き様みたいなものをいいなと思って書かれた作品なのかな。
栗原 実在の人を書くというのは、ただただその人が好きだから、とか、どうしてこういう人生を送ったんだろう? という疑問を突き詰めていったりとか、いろいろなパターンがありそうですよね。
橋口 将棋に人生を賭けた男性の一生、自分だったらそこまで突き詰められないからこその憧れとかも書く理由にあるのかも。
みのわ そうですね。どちらにしてもこの舞台を観る機会がなければ、将棋の坂田三吉について気にする機会はなかったと思うので、今日は新しいことを知れて楽しかったです。
栗原 2026年の公演も気になりますね。リハビリ公演を観たからには、復活公演も観なくちゃという気になっています。まだしばらく先ですが、予定が合えばその時もぜひご一緒しましょう。今日はありがとうございました。
演劇リハビリ公演 『王将』
2022年 3月13日(日)〜3月20日(日)
下北沢 小劇場 B1
作/北條秀司、構成台本・演出/水谷龍二
出演/でんでん、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、有薗芳記、菅原大吉、朝倉伸二、江端英久、星野園美、竹内都子、戸田恵子