誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する舞台作品は、チーズtheater第7回本公演『ある風景』。
戸田彬弘さん作・演出による劇団チーズtheaterの5年ぶりの本公演です。
ご一緒したのは、整理収納収納アドバイザーの今村亜弥子さん。
テーマや設定をダイレクトに受け取りつつ、観劇後にしみじみ語りました。
開幕前に掲載した稽古場レポートはコチラ
2023年、一人の女性が亡くなった。その女性、鈴木陽子(みやなおこ)は認知症を患っていた夫の介護を経て、見送ってからは静岡で一人暮らしをしていた。独立し、それぞれ離れて暮らしている3人の子どもたちはコロナ禍もあり、滅多に帰らない。盆に久しぶりに帰ってくるのを楽しみに待つ日々だ。
2019年、長男の肇(小出恵介)は、恋人の紫(小島梨里杏)を連れて実家に来た。なかなか結婚に踏み出せない二人にはそれぞれ事情がある。
シングルマザーの長女・南(大浦千佳)には、思春期の一人息子の柚(蒼大)がいる。今は構成作家の卵として忙しくしている次女・夏(當山美智子)にも過去があり。
鈴木家のほかにも親子、夫婦、それぞれの暮らしがあった。親の思い、子の思いがさまざまに交錯しながら、浮き上がる風景とは……。
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
随所にちりばめられていた
息子の母親あるある
栗原 とてもいい席でしみじみ観れたね。印象的だった役や場面を話しましょう。
今村 小出恵介さん、とても良かった。お母さんをないがしろにしているわけじゃないけど、なんとなくしっかりしきれない息子像をうまく表現していたなぁ。
栗原 お母さんとの距離感、ちょっと照れくささもある感じとかね。
今村 息子がいるお母さんってああいう感じだろうなっていうのがすごくリアルだった。息子が出かける時にいちいち後ろにくっついていって見送るとか、娘にはしないあの感じ。
栗原 結局、母親は息子が好きだもんね。
今村 あとやっぱりフルーチェ。昔、よく食べたよーって思って懐かしかった。
栗原 実はフルーチェと母との思い出って、以前も別の作品を観に行った後のおしゃべりに出てきたことがあったの。お母さんが大人になってからも実家に帰るとフルーチェ作って出してくれてたんだって。だから今回の作品に出て来てとてもびっくりしたの。私たちの子どもの頃からある簡単デザートの定番だもんね。亜弥ちゃんも食べてたんだー。何味だった?
今村 たぶんイチゴだったと思う。自分の子どもが生まれた後もよく作ったよ。「あ、フルーチェって今もあるんだ」って思って。
栗原 今なお現役だよね。マンゴー味とか、昔はなかったラインナップも充実しているらしいよ(笑)。フルーチェいい仕事してたよね。
今村 フルーチェをふまえた紫さんとの会話でも、彼女とかお嫁さんあるあるみたいなのがすごくリアルだった。
栗原 あんな機微がどうして書けるんだろうね。
今村 フルーチェもそうだけど、冷蔵庫にはビールがたくさん入ってた。仕事柄、冷蔵庫の中身も気になって見ちゃった。あれも息子たちが帰ってくるからだよね。
お母さんがヘアカラーを見ている時の表情もよかった。カウンターやテーブルの上に置かれているものもすごく気になったけど、なんでヘアカラー2種類も? と初めはわからなかったけど、そうか……って。
栗原 地方あるあるみたいな設定もあったね。ご近所さんが買い物ついでに車乗せて行くよーとか、何かと気にかけてくれる感じ。今ならすごく実感できる、ああいうの大事だよね。今村 私の母は離れたところで一人暮らしをしてるけど、やっぱりご近所の息子さんがとても気にかけてくれていて、ついでの買い物とか用聞きしてくれて助かってるの。本当にああいうのもリアルだった。
栗原 自分の親ともマメに連絡取ったほうがいいけど、そういうご近所さんとも連絡先交換しておくの、大事だよね。(週イチ義母宅経験者として実感こめてみました)
足や仕草から伝わる感情
関係性をいろいろ想像したくなる
栗原 私は大浦千佳さん演じる南とお母さんのシーンで泣かされちゃった。なぁんかね、「この手を見ればわかるよ」ってお母さんが言ってくれるところとか。まあ、私の手は触っても苦労知らずで全然わからないんだけどね(自虐です)。
「着いたなら電話くらいしなさいよ」みたいなセリフもめっちゃリアルだった。
今村 そう、すごいリアルだった。親戚との関係性というか、距離感にもすごくリアルを感じたな。
栗原 実は、今日座った席がちょうど真ん中だったからというのもあるんだけど、肇を演じた小出さんの足の演技? 足づかい? にすごい表情がある気がしたんだよね。ちょっと落ち着かない感じとか、あれが意識的なのか無意識的なのかはわからないけど、足の動きにも感情が表れてるって思って、結構釘付けだったんだよね。
今村 足は気づかなかったけど、体とか動き、仕草に感情が表現されているっていうのは、小出さん以外でも感じたかも。
栗原 配信される映像は4つのカメラで撮っているって言ってたから、そういう細かいところにも注目して観れるかもね。
栗原 そのほかに気になった役者さんいた?
今村 紫役の小島梨里杏さん、すごくあの役に似合ってた。
栗原 喪服姿も美しかったねー。
今村 彼女は肇と別れていたけど、お母さんの葬儀には来てくれたじゃない。肇くんが彼女に声をかけたのは、話がしたかったのか、別れてからどれくらいたっているのかとか、気になった。別れてても来てくれた彼女の気持ちはすごくわかるの、お母さんは自分のことを理解してくれた人でもあったから。肇くんのほうはまだ思いがあるってことなのかなぁ? っていうところがわからないから気になった。なんとなくゴニョっとなって終わったから。先が気になる。
栗原 たしかに、二人で話そうみたいなところのままゴニョっとしたもんね。あの先はどうなると思う?
今村 彼女は話をしようと言われても濁していた感じがあるから、もう話をしたところで……って感じなのかな。肇くんは彼女と別れてみてやっぱり……みたいな気持ちになったのかも。そんな風に肇くんが変わっていてくれたらいいなぁっていう気がしたなぁ。あの頃、結婚に踏み切れなかった肇くんの気持ちもわかる気がしたから。
息子の一行動は
100の言葉を超える
栗原 リアルで言えば、奥田夫妻(續木淳平さん、中野歩さん)もリアルだったね。進が、親になれるのかなぁって漠然と悩む感じとか。
今村 そういう旦那になんかイライラしちゃうのとかも妊婦さんあるあるなんだよね。
栗原 陽子さんはどんな風に3人の子どもたちを育てたんだろうね。長男は一人目だし男の子だし、小さい頃は特にお母さん好き好き~だよね。
今村 そうなると二番目で女の子は気が強くてしっかりものになるね。
栗原 その二番目の娘が男の子の母親でシングルマザーで。でも忙しいし、息子思春期だし、カリカリしちゃうのとかもわかるよね。
今村 でもやっぱり息子にとって母親の存在って特別だし、お母さんが一生懸命仕事しているっていうのも理解しているから、あのシーンとセリフもすごく良かった。
栗原 あの一行動で100のありがとうを超えるよね。
今村 男の子のすることだなぁって思ったし、自分の親との関係を見ても思う。私が10回声を掛けたり、何かしたりすることより息子(弟)の一回が大きいもんね。
私は娘だけだから経験がないけど、息子がいたらきっとそうなったろうなとも思う(笑)。
栗原 そうだと思う~~。それにしても今日の作品の中にも、いろいろな夫婦や親子、家族のカタチがあったね。
今村 お母さんの過去もあったしね。
栗原 いやあ、なかなか驚きだよね、子どもからすると。
今村 でもいろんな事情がありながら別れた陽子さんの今の思いとかも聞いていたからこそ、元夫の玉田さん(松戸俊二さん)は、陽子の子どもたちに対してはがゆいというか、伝えておきたいという思いがあったんだろうね。人間模様が詰まっていたね。
栗原 コロナで帰らなかった人は多いから、身につまされた人もいたんじゃないかな。
今村 田舎だと親の方がご近所さんの手前、帰ってこないでくれって強く言ってたんだよね、当時。
栗原 稽古場取材をさせていただいた時に、日向ちゃん(大熊杏優さん)と瑞穂(中野歩さん)のシーンを見せてもらったのね。その時の瑞穂と今日の瑞穂はしゃべり方とかが変わってた。どう見えた?
今村 ちょっとぶっきらぼうというか、少し強めに日向に言ってたけど、それがあったからその後のお父さんの健一(間瀬英正さん)に意を決して日向は意志を伝えられたんだなって思った。
栗原 そうだね。なんか厳しいところに彼女の優しさがあったよね。
映像でもチェックしたくなる
真っ暗の驚き、リアルへの驚き
今村 それにしても時が変わる時、何度か舞台が真っ暗になったのがとても印象的だった。
栗原 あの中で転換というか、モノがたくさん動かされていたしね。
今村 そう! でもあの真っ暗になることで、時の経過を感じられたし、ほんと、モノが動いているのもどうなってるのー?って。結構たくさんの家具やモノがあるのに、すごいよね。かなり目を凝らしてみたけど、本当に真っ暗だった。
栗原 みんなコソ泥したら相当の技術だよ(笑)。
今村 人が動く音とか物音も全然しなかった。
栗原 これだけは映像では体感できないこととして、いろいろな匂いがしたね。お線香とか。
今村 ちゃんと奥から香りがしてきたし、紫が陽子さんに作ってもらって食べるうどんも熱くはないんだろうなぁと思ってたら、肇がちょっと食べた時に湯気がフワーッてなったから、あれ本当にあったかいんだってわかったし。
栗原 随所にあるこだわりが伝わってきたよね。小道具のこだわりもたくさんありそう。
作品の中では、陽子さんが夫を介護していた日々は具体的には出てこなかったけど、だからこそ経験のある人はいろいろ思いあたるだろうし、経験のない人こそいろいろ想像したと思うよね。
今村 舞台を通じてこれまでなんとなく気にはなってたことを、考えたりするきっかけにもなるね。それと、今日はじめて座・高円寺に来たんだけど、こんな素敵な劇場があるって長年近いところに住んでいたのに知らなかったので、それも嬉しかったです。
栗原 良かったです。とてもいい施設だよね。劇場が近くにあるの、うらやましいです。
親の年齢や暮らしも気になる年代だから、今日は亜弥ちゃんとこの作品を観れてよかったです。全然違うタイプの作品も含めて、また一緒に観劇おつきあいください。
2023年6月21日(水)~6月25日(日)
座・高円寺1
作・演出/戸田彬弘
音楽/糸山晃司
出演/小出恵介、小島梨里杏、大浦千佳(チーズtheater)、當山美智子、蒼大、續木淳平、中野歩、間瀬英正、大熊杏優、池畑暢平(STB企画)、鷲見友希、松戸俊二(劇団離風霊船)、みやなおこ
【オンライン配信決定!】
4台のカメラで撮影後編集した作品を7月9日(日)より期間限定配信予定。 配信チケットの予約はこちら☟
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