日常の中から、エンタメを整理収納目線、暮らしをエンタメ目線でつづります。栗原のエッセイ、つまりクリッセイ。
「イチジク」を見かけると私を思い浮かべる……そんな声かけをしてもらうことが増えた。
SNSで、イチジクの栽培報告だの、アート風に果実の写真を撮ったりだの、無花果ジャムやらパフェだの、とにかくイチジク愛を叫んできたからだろう。
絶対のきっかけが思い出せないのだが、とにかく私はイチジクの「うす甘い感じが好き」と公言してきた。大好きなのに、褒め言葉に聞こえない感じがまた自分らしいなと笑ってしまうのだが、とにかく好きなものは好き。
最近は、figと聞くだけで購買意欲を刺激されたりもしてしまっている。
さて、そんなイチジク愛に拍車をかけてくださった方のお声かけで、1月19日(イチジクの日)にスペシャルな食事会に数年ぶりに参加してきた。
1.19がなぜイチジクの日かといえば、イチガツジュウク→イチジュウク→イチジュク→イチジクというわけだ。
会場は美味これくしょん神田倶楽部。
「無花果フルコース」は、その名の通り、すべてのお料理にイチジクが使われているスペシャルなコースだった。
ご存じの方も多いかもしれなイチジクいが、イチジクの旬は6~10月頃。だからこの時期はフレッシュなイチジクはない。
それなのに、それなのに、「こんなにもイチジク!」「どこまでもイチジク!」な料理が味わえるなんて、プロってすごい。そして、イチジクってすごい。
では、イチジク好きさんも、そうでない人も味わってみたくなるであろうお料理の数々を、
リポーター気分でご紹介しよう。
まずは「前菜の盛合せ」
・ジャンボンブラン サラダ仕立て 無花果ドレッシング
なるほどー、無花果ドレッシングね。このハムの下のね。
いやいや、それだけではない。このハムの仕込みの段階から無花果の葉が使われているという徹底ぶり。もうここからすでに一つの妥協もないことがわかります。
でも、それは最後の最後にシェフにメニューの説明をいただいて知るところとなったのです。
・イチジク胡麻豆腐
イチジクの魅力の一つにあのプチっとした食感があります。イチジク胡麻豆腐はそれを堪能できる一品。その他のメニューが全て「無花果」と漢字が使われているのに、なぜこのメニューだけカタカナなのかって!? それはたぶん、漢字にすると「無花果胡麻豆腐」……こうなっちゃうからだと思います。聞いてはいませんが。
・無花果と鶏のリエット
リエットってついもう少し食べたくなりますよね。もちろんこれもそうでした。でも無花果の香りがほどよくて、少量でも満足できる感じがあるのもまた事実、なのです。
・スズキの無花果酢和え
無花果酢は、無花果の甘味がまろやかさを生むすばらしい調味料。肉にも魚にも合うって、なんて懐が深いのでしょう。
・ヤリイカのソテー 無花果と玉子のソース
やわらかいのにしっかり歯ごたえと香りの強いヤリイカのソテーに、邪魔をせず、でもハーブのように香る無花果。お箸でいただくフルコースとしてもっとも似合うメニューでした。
・海老と無花果チーズのガーリックパン粉焼き
正直なことを言いましょう。ここまでで前菜の一つひとつにかなりテンションをあげていたせいで、このメニューの記憶が薄いのです。無花果チーズ……その魅力的な組み合わせをなぜ、なぜに? それにしても無花果がこんなに魚介と合うだなんて、意外だと思いませんか?
・レバームースと無花果のコンソメ バルサミコと苺のソース
たまりません。もうここでノックアウトでした。レバームースと無花果のコンソメ、バルサミコと苺のソース、いや、メニュー名繰り返しただけになりますが、その全てが絶妙。美味。見た目もデザートのようですが、とにかくうっとりする美味さでした。
つづいては「本日の逸品」
・無花果と魚介の蓮根饅頭 蕪と無花果のみぞれあん
とろっとぽくっとした食感の中に時折シャキっと感のある蓮根饅頭。その中にとろりと無花果が入っています。がっつりじゃないんです、とろりなんです。でもそのとろりは華やかな香りと舌ざわりです。
蓮根饅頭のやさしい美味しさに感激して、翌日、義母宅で蓮根饅頭を蓮根と団子粉で作りました。みぞれあんも、もちろん無花果もないのですが、なかなかおいしく出来たようで、これはもう、この無花果フルコースのおかげなのです。
つづいては「揚げ物」
・未果実とほしやさいの天ぷら 無花果塩で
注目いただきたいのはお皿の右上の天ぷらで。これが未果実。無花果の未熟な小さい実です。以前、庭の無花果で完熟しなかったこういう実を懸命に甘露煮にしたことがあります。東北では青い無花果がスーパーに並ぶそうですが、恐らくそういうものよりさらに小さな未果実。無花果塩は、しっかり葉の香りがする塩ですが、とにかくこんな食べ方があったのか! と驚きの一品でした。
お次は「魚料理」
・無花果とサフランでマリネしたタラのボッシュ さといもと無花果のピューレ
タプナードとほうれん草のジェノベーゼ
お皿は直径15センチくらいでしょうか。この日の参加者はざっと30名くらいでしたでしょうか。その一人一人にこの素敵な盛り付けで提供されるのです。
無花果とサフランでマリネした……それだけで、アザーっすなのに、さといもと無花果のピューレという、もういったい誰が主役ですか? 問題がお皿の上で勃発してしまいます。
でもどれも目立ちたがり屋じゃない感がいじらしいのに、どれも実は自身のポテンシャルの高さを熟知しているよね……そんな、擬人化して表現したくなるほどいい塩梅の一皿でした。
さらには「肉料理」
・無花果と煮込んだビーフシチュー
ビーフシチューは、こちらの美味これくしょん神田倶楽部さんの人気メニュー。自慢の一品です。そこにもしっかり無花果がコラボしていました。
無花果は酵素の強い植物。さまざまな効能があるとされていますが、その酵素ゆえ肉をやわらかくする力があるのです。
いちじくを入れたカレーを煮込んでいたら、肉がとろけてなくなってしまったという話を聞いたことがあるほどです。
お箸でやわらかーく煮込まれたビーフを大事に大事に食べました。
これでもか、これでもかで今度は「ご飯」
・無花果だしで炊いた土鍋ご飯
このお茶碗が運ばれる前に、炊きあがったご飯の入った土鍋をテーブル近くでオープン!
その時にぶわぁーっと無花果葉の香りが店中を包んだのです。これは楽しみだと思っていたら、その斜め上を行く品でした。
蛸と昆布が混ぜ合わさっていたのです。海苔とわさびもトッピングされていて、一口噛むごとに無花果のいい香りが口の中に広がります。よく噛んで、しっかり香って食べていましたが、ひつまぶしのように出汁をかけてどうぞというもう一つの食べ方があったのです。
お茶漬け派ではないタイプなので、ほんの少しでいいなと思っていたのですが、これがもうびっくり。出汁は、無花果葉をしっかり濃く淹れたものと出汁との合わせ出汁で、風味が強いのです。ちょっとえぐみすらある大人の出汁でした。
ここまで無花果を堪能してきた、いちじくLOVERたちは、この大人の出汁を味わいながら口々に「これはすごい」「これは他では味わえないよね」と絶賛の嵐。
最後にさらっとお茶漬けで……なんてフレーズはもう古いのです。
最後までしっかり口の中を無花果でいっぱいにしてくださいね、ね!! とダメ押しされている心地よさでした。
やっぱり最後は「デザート」
・フレンチトースト
ビーフシチュー同様、このお店の看板メニューのデザートは、このほんの一口で十二分にその意味がわかるクオリティーです。そんなにフレンチトーストに詳しいわけでもないのに、そう言いたくなってしまうほど、といえばお分かりいただけるかもしれません。
・無花果のキャラメルパニーユ
フォークを入れるとむにゅっと無花果のピューレ? が出てきます。「いるよねー、ここにいたよねー」とニヤついてしまう感じ、デザートだといちいち可愛いぞ、っと思えちゃうのです。
・無花果とブラッドオレンジのグラニテ
すっかりお腹は満たされて、お酒も少しいただいていたこともあって、膨満感の極みです。そんなときにグラニテはシャキッと冷たく美味しいですよね。無花果とブラッドオレンジ、どちらも果実で、どちらもそれぞれ個性的。さわやか最強デュオとでもいいましょうか。
・無花果葉のロイヤルミルクプリン
このグラニテでフィニッシュにしようと思い、途中で一口このミルクプリンを口に入れた時に、本当のフィニッシュはこれで決まり! となりました。そして、最後の最後にしっかり味わったこのロイヤルミルクプリンは、見た目はシンプルな杏仁豆腐のようですが、無花果葉の香りをしっかり、たっぷり感じられる逸品でした。
拍手! 今、流行りのあのフレーズを書いてもいいんじゃないかという、すばらしいお料理の数々に、目も舌もお腹も、そして何より心が笑顔になる「無花果フルコース」。
イチジクの魅力を「うす甘い感じが好き」と表現してきたけれど、
この日、テーブルのお隣に座ったいちじくLOVERさんが、「奥ゆかしい味」と表現されたのを聞いて、これはいただき! と思った私。
そうなのよ、なんだか奥ゆかしいのよね。見た目だって決して派手じゃないし。
でもただただひっそりと奥ゆかしいわけではない。
クセだってしっかりある。だからこそいろいろな可能性があるんだ。
こんな風に私を雄弁にしてしまうイチジク。
自己紹介をする時に使う「無類のいちじく好き」というフレーズは、引き続き使うことになりそうだ。