誰かと一緒に観劇すると、共感が何倍にも膨らんだり、違った目線がプラスされます。
作品をフィーチャーしながら、ゲストと共にさまざまな目線でエンタメを楽しくご紹介します。
今回ご紹介する作品は阿佐ヶ谷スパイダースの『ジャイアンツ』。
ご一緒したのは、2021年にも同じく阿佐ヶ谷スパイダースの舞台を観劇した整理収納アドバイザー永井美穂さん(最多登場!みぃさん)と、大法まみさん(のりさん)。
次の作品もまた観たい! と話していたことを実現しました。気になるキーワードがモリモリ盛りだくさんな作品を観た後、にぎわう新宿のカフェの2階でしっとり語りました。
作・演出は長塚圭史さん、新宿シアタートップスの決して大きくない舞台に12人の登場人物たちが、入れ替わり立ち替わり、時空も交錯しながら!? すすむ2時間の物語。いや、物語、なのか……?
※以下、作品のネタバレを大いに含みます。
”私”は歩いた。“あいつ”が暮らした街をあてどなく。この街はかつて私も暮らした街。やがて歩き疲れた私の目の前に立っていたあいつ。あいつは私を、家族が住む家へと誘う。餃子とビール、それからわさび漬けを振る舞われた私は、翌日お礼を持って再訪した。するとその部屋はすっかり違う人間のものになっていた。混乱する私のもとに目玉探偵が囁く。「あなた、目玉を失くしましたね」。私は“あいつ”を探す奇妙な冒険へと誘われていく。
<公式ホームページより>
入口は複雑!?
プレトークを聞いておいてよかった
栗原 タイトルになっている「ジャイアンツ」って台詞で1度だけ出てきましたよね?
大法 パンフレット内のコラムに「ジャイアンツ。乗り越えるべき存在として物語に登場する巨人」と書いてあるね。
※以下、森 一生さんによるコラム「ジャイアンツ×暗渠の連想」のページ内の数行をのりさんが読み上げる。
※この日は、開演1時間前に開催された長塚圭史さん、中村まことさん、演出助手の木村美月さんによるプレトークが開催され、私たちも拝聴してました。
栗原 プレトークで、長塚さんがこの作品が生み出されたきっかけが、ご自身が見た夢から来ていると話していた時に、中村さんが、もはや夢で見たことなのか現実なのか差がなくなっている、みたいな話をされたよね。
大法 記憶の中で差がなくなるっていう話ね。
栗原 あの話が作品ととてもリンクした。
大法 あれ聞いていたからよかった。じゃないと理解が難しいなとおもった。
永井 特に時代背景をつなげるのが難しかったな。
栗原 正直理解は出来ていない。ごめんなさい、それは開演前にタイ料理屋さんでビールを飲んだせいで、結構フワフワしてた(泣)。反省、今まで観劇前は飲まないのを徹底していたのに、ちょっと油断しました。もうしません。
大法 でもこの作品はフワフワしながら観ていい気もしたよ。
永井 力を入れて観るって感じじゃなくて良かったのかも。
大法 あれが、それが、どこでっていうのが出て来ても、全然捉えているところは違って、ここにあるのかどうかわからないものっていうことを、いろいろな角度から何度も重ねて言っていたでしょ。
栗原 今年のキーワードは「アレ」だね(笑)。
たとえ共有していることが
1/1000だったとしても
栗原 言語化できないことについても長塚さんがプレトークで話してたよね。
大法 言語化できないことのほうが多くて、言語化すると誤解を生むこともあるし、言語化できなくても共有できることっていうのもあるよね。それを言いたいんだろうなと思った。
見える化っていうのも大事だけど、それは主に仕事面とかで大切にされることで、言語化できないことの共有っていうのがプライベートとか人生とかには深く関わってくることだなと。
栗原 わかり合ってるつもりだったけど、蓋を開けてみたら全然親子でも恋人でもわかり合ってなかったってこともありそう。
大法 そういう誤解ばっかりだよね、きっと毎日。
永井 そうだね、介護でも良かれと思えば思うほど、すれ違っていることが多くて、言えば早いことなのに、こうだろう、ああだろうと内側で思っていることって、実は全然違うから……っていうこと多いもん。
栗原 察して先回りしてやってみたりはしたけど……ってやつですね。
永井 そう、実はそれが全然良くなかったりね。
栗原 さらに厄介なのはそこに、相手にこうして欲しかった、みたいな願望みたいなものが入ってきちゃうんだよね、特に親と子の関係だったりすると。
大法 その願望は親から子も、子から親にもある。その矢印がすれ違うってよくあることだよ。でも1/1000しか共有していることがなくても、ちゃんと錯覚するのも大事だなって思う。
栗原 1/1000の共有でも十分食っていける、みたいな感じ(笑)。
永井 実はそれしかないのかもね。見えてる現実じゃないものが現実なのかも。
大法 わかり合えないところから始まるというのでいいんだよね。
永井 わかってるでしょ? はありそうでないからね。
探すという行為だけが残る
整理収納の最前線で口にしていることばかり
※ここでしばし大法さんが体験したお母様との記憶のすれ違いの話。子どもの頃から何度も聞かされていたエピソードをお母様は丸っと忘れていたとのこと。あんなに何度も話したし、昔のことのほうがよく覚えているものだと聞いていたのに……これを受けて、介護のプロ、永井さんからは……
永井 昔のこと以外に今、体感していることのほうが重要視されているのかもしれないね。そのうちにまた思い出すかもしれないよ。
栗原 あとはさ、度々のりさんに話していることによって、ヘンな話、移譲されていて体の中から抜けていって……。
永井 お母さんのものじゃなくて、のりさんのものになったのかも(笑)。
栗原 なんかちょっと「ジャイアンツ」とリンクするような気もしません?
大法 するする!!
栗原 前回の『老いと建築』に続いて、今回もまた整理収納にバシバシ関連する台詞がたくさん出てきましたよね。
大法 気持ちを話すとき、整理収納の考え方っていうのが関わってくるんだろうね。
栗原 心とモノの関係は特にね。
永井 私たちが過剰反応しちゃうところもあるとは思うけど(笑)。
大法 「いつか使うかも、そのいつかはないのよ」みたいな話はいつも私たちが講座で話したり、伝えていることだから。
永井 「大切にしていたつもりだけど……」みたいな台詞も、日常的に聞く言い回しだからウケちゃった。
大法 探し物をしていて、何を探しているかわからなくなって、探すという行為だけ残ってしまうっていうのもまさに。
さあ、ケイトウの漢字を
思い浮かべてみよう
栗原 ところで“ケイトウ”という現象、キーワードが作品の中では度々登場しましたが。
大法 どういう漢字をイメージしているんだろうって考えちゃった。パンフレットではカタカナで“ケイトウ”とあるけど。勝手に考えなさいってことなんだろうね。
栗原 じゃあ自由に漢字を当てはめてみよう! 植物の名前は「鶏頭」でしょ。
大法 「傾倒」「傾頭」もあるね。パターンをあらわす「系統」も。
栗原 こんがらがっちゃってるから「毛糸う」ってのは?
永井 そっちかい! 計算の計が思い浮かんだなぁ。
栗原 当て字でもいいかも。「慶投」とか。
大法 「係踏」「慶塔」
永井 観る人によって“ケイトウ”は変わるね。シチュエーションによっても変わるから、演じる人も、そのシーンそのシーンで同じ“ケイトウ”ではなくていいのかも。
栗原 ずっとカタカナで演じている人もいるかもしれないし、文字を具体的に浮かべている人もいるかも。
永井 前作でも感じたけど、やっぱり絡まっているよね。
大法 時空も絡まっているし、最初はよくわからなかったけど、だんだん「あぁ、こういうぐるんぐるんな感じなんだ」と思って心地よかった。
栗原 ぐるんぐるんといえば、あの超絶シンプルな美術が、裏返しになって、収納棚のように見えたり、扇形になったり、スペースが空いたり。
永井 長塚さんは時空を超えるのが好きなのかな?
栗原 簡単に区分けしたり整理したりできないことが多いという矛盾に絶えず対峙しているのかな。収められないこの感じはなんなんだ!って。
永井 今回も面白かった。
大法 また、お願いします!
2023年 11月16日(木)〜11月30日(木)
新宿シアタートップス
作・演出/長塚圭史
音楽/角銅真実
出演/大久保祥太郎、坂本慶介、志甫まゆ子、伊達暁、智順、富岡晃一郎、内藤ゆき、長塚圭史、中村まこと、村岡希美、李千鶴